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last update:08/06/18  
  プレス・リリース 〜 08-12 〜 For immediate release:2008年06月18日
 
 
超新星爆発時の元素合成の解明につながる放射性同位元素のビーム加速に成功
 
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 
独立行政法人日本原子力研究開発機構 
 
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人 以下「高エネ機構」)と独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎俊雄 以下「原子力機構」)は、短寿命核加速実験装置※1(TRIAC:Tokai Radioactive Ion Accelerator Complex)を用いて、自然界には存在しない質量数123のインジウム(半減期6秒)と質量数143のバリウム(半減期14秒)放射性同位元素※2のビーム加速に世界で初めて成功した。
 
●概 要
インジウムやバリウムの短寿命核※3は、ウランにタンデム加速器※4の陽子ビームを当てることにより生成する。これらを加速するには、1価のイオンとして取り出して分離し、さらに20価程度の多価イオンに変換する必要がある。原子力機構では、短寿命核をウランの中で高速に拡散・蒸発させ、瞬時に1価のイオンを生成するためのイオン源を開発した。高エネ機構では、1価のイオンをプラズマ中に静止させ、プラズマ中の高速電子で多価イオンを生成する電荷増幅器を開発した。これらの高度な開発により、毎秒約1万個の強度をもつビーム加速を実現し、実験に使用することを可能とした。
 
短寿命核を加速する装置は、大別して2種類の方式がある。一つは、短寿命核を一旦止めてから再加速する方式であり、他は、核反応で生成した短寿命核を静止させずに、そのまま使用する方式である。TRIACは前者の方式であり、高品質かつエネルギー可変のビームが得られるという特徴をもつ。再加速型の装置はアメリカ、カナダ、ヨーロッパにもあり、互いに競争を繰り広げながら開発を進めている。
 
鉄よりも重い元素は、超新星爆発時の中性子密度の極めて高いところで生成されたと考えられている。このような環境下では、中性子が短寿命核に吸収される。今回成功したインジウムやバリウムの短寿命核ビームを用いることにより、短寿命核と中性子との核反応を模擬することが可能となり、元素合成を解明するための研究の展開が期待される。
 
 
  【本件に関する問合わせ先】  
  高エネルギー加速器研究機構
 素粒子原子核研究所
  教授 宮 武 宇 也
   TEL:029-284-3828
高エネルギー加速器研究機構
 広報室長 森 田 洋 平
   TEL:029-879-6047
  日本原子力研究開発機構
 東海研究開発センター 原子力科学研究所
  研究炉加速器管理部加速器管理課長
   石 井 哲 朗
   TEL:029-282-5173
日本原子力研究開発機構
 広報部次長 花 井  祐
   TEL:03-3592-2346
 

 
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図1 :TRIAC装置全体の鳥瞰図
  短寿命核はタンデム加速器からの陽子ビーム(図中の青線)をオンライン同位体分離装置上流に組み込まれたイオン源内のウラン標的に照射することによって生成され、その場でイオン化される。短寿命核イオンはオンライン同位体分離装置によって質量を分離された後に、電荷増幅器によって多価イオンに変換され、線形加速器群によって加速され、実験に用いられる(図中の赤線)。
黄色の部分は、将来計画において、TRIACを超伝導ブースターに接続し、さらに加速するための装置群を示している。
 
 

 
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図2 :ウラン標的に陽子ビームを照射した場合の放射性同位元素の生成量
  毎秒当たりの生成個数が色分けされている。黒色は安定な原子核。  
 

 
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図3 :TRIACの生成標的・イオン源部分
  右側から入射した陽子ビームは中央のイオン源内にセットされたウラン標的に照射され、短寿命核を生成する。その場でイオン化された短寿命核は電場で、左上方に引き出される。  
 

 
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図4 :TRIACの電荷増幅器
  質量分離された1価の短寿命核イオンビームが、右側壁に貫通した真空ダクトを通じて中央の電荷増幅器内のプラズマ中に入射され、多価イオンにその場変換される。金属元素に対して約2%、希ガス元素に対して約7%の変換効率を実現している。TRIACの電荷増幅器は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)型電荷増幅器である。  
 

 
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図5 :TRIACの短寿命核専用線形加速器群
  多価イオンとなった短寿命核ビームは、2種類の線形加速器(赤と青色の装置)により画面中央奥から右手前に向けて核子当たり1.5 MeVにまで加速される。  
 

 
【用語解説】
 
※1 短寿命核加速実験装置(TRIAC)
  原子核反応により生成した短寿命核を質量分離した後に専用の加速器を用いて加速し、実験に供する装置。ウラン標的と陽子ビームによる核分裂反応を利用することによって、多種多様な放射性同位元素ビームが供給出来るようになった(参考図2)。
TRIACは、放射性同位元素を生成しイオン化する生成標的・イオン源(参考図3)と同位体分離装置、電荷増幅器(参考図4)、2種類の線形加速器(参考図5)からなる大型装置である。タンデム加速器からの陽子などの高エネルギービームとウランなどの標的との原子核反応で生成された放射性同位元素をイオン化し、同位体分離装置で質量分離、電荷増幅器でイオンの価数を変換した上で線形加速器で核子あたり最大1.5MeVまで加速する。インジウム、バリウムの短寿命核は電荷増幅器により、それぞれ16価と20価のイオンに変換される。
 
※2 放射性同位元素
  原子核を構成する陽子数(原子番号に等しい)が同じであるが、中性子数が異なる原子核を同位元素と呼ぶ。同位元素の中でも、不安定なために、安定な原子核に崩壊する性質を持つ同位元素を放射性同位元素と呼ぶ。同位元素を区別するため、元素記号と原子核の質量数(陽子数と中性子数の和、左肩の数字)を明記して113In(安定な同位元素)、123In(放射性同位元素)のように表す。放射性同位体あるいは放射性核種ともいう。
 
※3 短寿命核
  寿命の短い放射性同位元素で、ここでは秒以下から数時間の寿命で崩壊する放射性同位元素を指す。123In(インジウムの放射性同位元素:質量数123、半減期6.0秒)、143Ba(バリウムの放射性同位元素:質量数143、半減期14.3秒)は、それぞれ電子線を放出して123Sn(スズ)と143La(ランタン)に崩壊(β- 崩壊)する。
 
※4 タンデム加速器施設
  原子力機構原子力科学研究所にある世界最大級の静電加速器。イオン源から1価の負イオンを正に帯電した高電圧ターミナルに向けて加速し、高電圧ターミナルに設置した荷電変換装置でイオンの電子をはぎ取り、多価の正イオンにする。高電圧ターミナル内に設置した電磁石でイオンの方向を180度変えて、もと来た方向に再加速することで高エネルギー加速を可能にしている。多種類の加速イオンが得られること、加速イオンのエネルギー精度が高いことなどが特徴である。
 

 
【補足説明】
 
TRIACの短寿命核は、タンデム加速器からの陽子ビームをイオン源内のウラン標的に照射することによって生成され、その場でイオン化される。短寿命核イオンはオンライン同位体分離装置によって質量を分離された後に、電荷増幅器によって多価イオンに変換され、線形加速器群によって加速される。
 
今回の開発は、イオン源では、繊維状のウラン炭化物の標的を独自に作成するとともに、標的部分を高温環境に保つための専用ヒーターを新たに組み込むことで、短寿命核をウランの中で高速に拡散・蒸発させイオン化することに成功した。また、荷電増幅器では、入射ビーム軸を正確に決める入射ビームアライメント法を新たに導入した他、サポートガスの変更、高圧純水による表面研磨などにより、従来の約15倍の高い多価イオン変換効率が実現できた。これらの開発によりECR型電荷増幅器による電荷変換において高効率化、高純度化ともに難しいとされてきた金属元素であるインジウムやバリウムの短寿命核ビームを世界で初めて加速し、実験に使用することを可能とした。
 
これらイオン源、電荷増幅器ともに高度な技術を必要とし、今回、これらの装置から、高効率でイオンを安定に取り出すことに成功した。
 

 
【補足資料】 PDF資料(270KB)
 
 

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