2011年1月21日
高エネルギー加速器研究機構
高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光科学研究施設(「フォトンファクトリー」:PF)では、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」により持ち帰られた、微粒子の初期分析を1月28日(金)から実施いたします。
これにあわせて、2月2日(水)には、PFにおける初期分析の様子を取材する機会を提供いたします。
小惑星探査機「はやぶさ」搭載の帰還カプセルにより持ち帰られた微粒子のうち、岩石質と同定された約1,500個のほぼ全てが小惑星イトカワ由来であると示されました。今回PFで分析される微粒子は、それより大きな岩石質粒子であり、今後の分析によりイトカワ由来であるかが明らかにされます。また、これらの微粒子には太陽系起源の謎を解く重要な情報があると研究者たちは期待しています。
電子顕微鏡等によるこれまでの調査で得られた微粒子の情報は表面から数マイクロメートルまでの情報と主成分の構成です。より詳しく知るためには、微粒子全体の元素組成や、その微粒子に含まれる結晶の種類や存在度、さらに結晶構造を調べる必要があります。このような微小試料の元素組成や結晶構造を調べるには"放射光※1"という強力なX線が必要不可欠です。
東北大学大学院理学研究科の中村智樹(なかむら・ともき)准教授を代表とする実験グループは微粒子の構成元素、構成鉱物とその結晶構造の情報を得ることを目的として、PFの実験ステーションBL-3Aを用いてX線回折分析および蛍光X線分析を行う予定です。
中村氏は1999年よりPFを利用し、惑星間塵と始原隕石のX線回折実験を行ってきました。2007年にはNASAの探査機「スターダスト」が持ち帰った彗星塵の初期分析および詳細分析としてPFにおいてX線回折分析も行っており、放射光X線の有用性と実験のノウハウを蓄積してきました。これらの経験を踏まえ、今回の分析に至ります。
本分析のような微粒子の分析には、強いX線強度の利用が不可欠です。そこで、光源として真空封止型短周期アンジュレータ※2が利用できるX線回折実験用のビームラインBL-3Aを使用します。BL-3AはPFにある硬X線※3ビームライン中、最高強度のX線が利用できるビームラインで、その輝度は、通常の実験室で使用できるX線をおよそ6桁上回る1017[photons/sec/mm2/mrad2/0.1%b.w.]※4程度あります。輝度の高さは測定時間の短縮と微量元素の検知を左右する重要な要素となっています。
放射光は試料に合わせてX線の波長を取りだして使うことができるのも大きな特徴の一つです。今回の分析ではエネルギー6keV、波長2.1ÅのX線を利用します。
X線回折パターンから微粒子に含まれる鉱物の種類とその割合、結晶の向きなどを決定します。データ分析から、結晶中の原子間距離などを調べることができ、鉱物が作られた環境を知る手掛かりが得られることも期待されています。
照射したX線により励起された元素はその元素固有のX線を放出することがあり、その光を蛍光X線と言います。蛍光X線を分析することにより、微粒子に含まれている元素の種類とその割合を確定します。大強度X線が利用できるBL-3Aでは、ごく微量に含まれる元素も検出可能であり、それら微量成分の濃度から微粒子ができた温度条件などを推定することが可能です。
1月28日(金)午前 9:00~2月3日(木)午前9:00
図1
BL-3Aに設置されたガンドルフィカメラ
図2
ガンドルフィカメラ内
図3
微粒子を固定する針
※ 取材希望の報道関係の方は下記にご連絡ください
高エネルギー加速器研究機構 広報室長 森田洋平
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