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last update:06/03/03  
リニアーコライダー計画の推進に関する懇談会中間とりまとめ
 
平成18年1月30日  
リニアーコライダー計画の推進に関する懇談会  

 
 
リニアーコライダー計画の推進に関する懇談会委員名簿(敬称略 五十音順)
  有馬 朗人
小野 元之
木村 嘉孝
小村  武
佐々木 毅
菅原 寛孝
高柳 誠一
高柳 雄一
伊達 宗行
(財)日本科学技術振興財団・会長
(独)日本学術振興会・理事長(第4回(平成17年7月11日)から出席)
高エネルギー加速器研究機構・名誉教授
日本政策投資銀行・総裁
学習院大学・教授
総合研究大学院大学・理事(委員長)
株式会社 東芝・技術顧問
多摩六都科学館・館長
(財)新世代研究所・理事長
 
 
1.前文
高エネルギー加速器研究機構・機構長の提唱により、上記委員により高エネルギー加速器研究機構・機構長の私的懇談会が組織された。その目的は、世界、特に日本・北アメリカ・ヨーロッパの高エネルギー物理学者が協同して実現を目指している、素粒子実験用次世代加速器「リニアーコライダー」計画について、その実現に対する機構長の対応等に助言するため、我が国への誘致の可能性も含む様々な課題について検討することにある。懇談会は、平成17年2月より8回の懇談会(平成17年2月25日、4月8日、5月30日、7月11日、9月5日、10月31日、12月21日、平成18年1月30日)を行い、下記のとおり中間とりまとめを機構長に提言する。
 
2.リニアーコライダー計画の意義とその現状認識
リニアーコライダーは、電子ビームと陽電子ビームをそれぞれ250GeV(ギガ電子ボルト)に加速して正面衝突させる衝突型加速器である。電子・陽電子のビームエネルギーは第2期計画として500GeVに上げる。電子・陽電子は、マイクロウェーブを蓄積したニオブ製超伝導加速空洞によって効率よく加速されるが、500GeVのビームエネルギーを得るためには、現在の技術的検討では加速器の全長は約50kmとなり、振動を減らして安定な運転を行い、地上の環境を大きく変えないために地下に設置される。
 
素粒子反応の精密観測により、質量の起源は何か、現在知られている4種類の力(弱い力、電磁力、強い力、重力)は超高エネルギーで一つの力に統一されるのか等、素粒子物理学の未解決の問題を解決しようとするものである。また、衝突によって起きる素粒子反応の中で新しい現象を見つけることにより、宇宙にあるエネルギーの23%以上を占めるといわれる暗黒物質の正体を解明するとともに、宇宙が4次元以上の時空を有している可能性を研究し、重力を含めた超統一理論の精密検証等を行う。
 
リニアーコライダーは、世界の高エネルギー物理学コミュニティーが10数年来試験開発を行い、その実現可能性を検討してきた次世代の加速器である。2004年、世界の高エネルギーコミュニティーを代表する委員会ICFAは、世界で行われた試験開発を一本化し、共同してその設計を行うための第一段階の活動(GDE)を開始すること、そのためのグローバル設計チームを立ち上げることを決定した。
 
ICFAは、リニアーコライダーをILC(International Linear Collider)と命名した。2005年にGDEは各国から約50名の研究者が参加する仮想組織として発足し、昨年12月に設計の骨組み案を発表した。2006年末までに概念設計と、設置地形を考慮に入れたコスト評価を完成させ、レポートとして発表することになっている。ILCは高出力マイクロウェーブ技術、超伝導技術、超精密計測、制御技術、高速計算技術、超高速情報通信技術等、最先端の技術を融合して初めて完成し得る、高度な大型精密機械であり、KEKをはじめ世界で精力的に研究開発が進められている。ILCを完成させることにより、これらの先端技術をマスターし、社会に波及させることができる。
 
我が国の高エネルギー物理学は、1970年代以降、電子・陽電子コライダーTRISTANや、その次期機種KEKBの建設を行い、世界的水準の研究成果を挙げることに成功した。また、超伝導加速器技術等、加速器及び測定器の建設に必要な技術も欧米を凌駕するレベルまでに発達した。さらに、成果に恵まれ、研究を継続した結果、国際的に通用する多くの人材が高エネルギー物理学分野で育ってきた。
 
ILCは多数の国が参加するグローバルプロジェクトである。我が国は、人材、研究レベル、加速器・測定器技術のいずれにおいても欧米と肩を並べており、ILCの推進に当たって十分主導的な役割を果たすことができる。今後も我が国で世界をリードする技術開発を進めることが重要であり、また、ILCを我が国に誘致することも含め、我が国が中心となってその推進に貢献することができれば、世界の高エネルギー物理学を発展させる上で大きな意義を持つのみならず、学術の世界で我が国の存在感を高めることができる。また、このことにより、我が国産業界にも、関係分野で大きな技術的波及効果をもたらすことが期待される。さらに、ILCのような国際科学拠点が我が国にあることは、我が国及びアジアの若者を先端科学技術に引き付け、ひいてはアジアの科学技術向上に大きな役割を果たすことにも繋がる。
 
3.当面の課題
ILCを実現し、かつ、我が国に誘致するための機構長の対応等について、現時点で以下のような中間取りまとめを行い、高エネルギー加速器研究機構・機構長に提出する。
 
1) ILCが目指す研究は重要であり、機構長はその推進を政府及び各国研究機関等と協力して行うべきである。 GDEの活動が進み、また、米国における検討の進展、ILCに関する各国政府機関担当者の非公式会合であるFALCにおける情報交換も進んでいる状況を踏まえ、機構長は関係するコミュニティとともに、政府とも密接に情報交換、調整を行うことが重要である。
 
また、アジアとの協力は重要で、そのために、総合科学技術会議諮問第5号「科学技術に関する基本政策について」に対する答申に謳われているアジア地域科学技術閣僚会議(仮称)などでの主要議題として取り上げるとともに、その中でアジア各国との協力関係を早急に築くことが望まれることから、その実現に向けて関係機関に働きかけていくことが期待される。
 
2) 関係する研究者は、ILCプロジェクトの持つ科学の壮大さと夢を機会あるごとに提示して、国民の共感と賛同を得るとともに、学界・政界・官界・産業界・マスメディア等にも十分な理解と支持を得られるよう最大限の努力が必要であり、機構長はこの必要性について関係する研究者の理解と協力を求めていくべきである。
 
3) 設計の骨組み案が発表されたが、コスト評価を行うためのサンプルサイトの提示がアジアから出されていない。アジア地域がILCの推進に遅れをとらないためにも、早急にGDEに提示し、コスト評価及び概念設計に反映させることが必要である。
 
4) ILCの実現及び日本への誘致について検討していくに当たっては、ILCの組織のあり方についても検討される必要があり、その際には、日本の科学全体の発展を目指す立場から、KEKの果たすべき役割についても、組織の改変等も含めた様々な視点から十分検討すべきである。
 
 
関連サイト: リニアコライダー計画推進室のwebページ
http://lcdev.kek.jp/LCoffice/
 
 

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