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last update:08/03/21  
Belle実験で荷電B中間子と中性B中間子の崩壊で
異なるCP対称性の破れを観測

 
 
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の電子陽電子衝突型加速器(KEK Bファクトリー:KEKB)を使って実験を行っているBelle実験グループ※1は、ボトム・クォーク※2を含む中間子※3であるB中間子がK中間子とπ(パイ)中間子に崩壊する過程を詳細に調べ、この崩壊における「CP対称性の破れ」が、荷電B中間子の場合と中性B中間子の場合で異なることを観測した。この実験結果は、宇宙の物質優勢を説明する新しい物理理論につながる結果として注目され、ネイチャー誌に掲載された。
 
物質と反物質はビックバンにおいて等しく生成されたと予言されているが、われわれが観測する宇宙は明らかに物質の方が圧倒的に多い。この反物質消滅を理解する前提条件の1つが粒子と反粒子に働く物理法則の違いであるが、素粒子物理学ではこの対称性の破れを「CP対称性の破れ」と呼ぶ。これまでにCP対称性の破れはK中間子とB中間子の崩壊で観測されており、特にB中間子の崩壊ではより大きなCP対称性の破れが観測されているが、今までのところ、素粒子物理学の標準理論と矛盾しない。しかしながら標準理論に基づくCP対称性の破れは小さ過ぎて、われわれの宇宙における物質の優位性を説明できないことが知られている。
 
今回Belle実験が測定を行ったのは、B中間子がK中間子とパイ中間子に崩壊する過程である。B中間子には電荷をもたない中性B中間子と電荷をもつ荷電B中間子がある。実験グループは、まず図1に示すように、中性の反B中間子が電荷-1をもつKマイナス中間子と電荷+1をもつパイプラス中間子に崩壊する過程と、これを反転した中性B中間子がKプラス中間子とパイマイナス中間子に崩壊する過程を比較した。その結果、前者の崩壊が1856事象、後者の崩壊が2241事象観測され、後者の崩壊の方がより多く観測された。この事象数の差を両者の和で割ったものをCP非対称度と呼び、この測定では約-10%と求まった。次に、実験グループは図2に示すように、荷電B中間子の崩壊を調べ、Bマイナス中間子がKマイナス中間子と中性パイ中間子に崩壊する過程と、これを反転したBプラス中間子がKプラス中間子と中性パイ中間子に崩壊する過程を比較した。この比較でもCP対称性の破れが見えているが、前者の数が多く、CP非対称度は約+7%と求まった。従って、荷電B中間子と中性B中間子の崩壊におけるCP非対称度は、符号も異なり明かに違うことがわかった。この結果は、以前のBelle実験の結果や米国のBファクトリー実験であるスタンフォード線形加速器センター(SLAC)のBaBar(ババール)実験の結果と一致しているが、今回の報告結果は最も精度が高く、これによって上記の差異が確かなものとなった。
 
なぜ、このような差異が起こるのかは謎である。図1に示すように、中性B中間子と荷電B中間子の違いは、ボトム・クォークと対をなす構成クォークの違い(中性B中間子はダウン・クォーク、荷電B中間子はアップ・クォーク)だけなので、両者がK中間子とパイ中間子に崩壊する際のCP対称性の破れはほぼ同じになると予想される。従って、観測された違いは、B中間子が崩壊する際に働く強い相互作用の理論が破たんしているか、もしくは、崩壊の過程で標準理論を超える新しい物理の効果が見えている可能性を示唆する。 後者であれば、宇宙の物質優勢の謎解きにもつながる。
 
観測された差異が新しい物理によるものかどうかを見極めるには、他の同様の崩壊−例えば中性B中間子が中性K中間子と中性パイ中間子に崩壊する場合−におけるCP対称性の破れを精度よく測定することが必要である。現在のところ、これらの崩壊モードに対する測定精度は十分でなく、より大量のデータが必要となる。こうしたCP対称性の破れにおける新しい物理の探索は、今後のBelle実験における主要テーマのひとつである。
 
 【関連サイト】 Belleグループwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所
    教授 山 内 正 則(Belle実験共同代表)
    TEL:029-864-5352
  名古屋大学 大学院理学研究科
   准教授 飯 嶋   徹(Belle実験共同代表)
    TEL:052-789-2893
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 

 
図1
図1 :中性B中間子がK中間子とπ中間子に崩壊する過程におけるCP対称性の破れを示すデータ。黒線は実験で観測された事象の分布で、赤線が信号の分布、青線は信号と背景事象の和である。赤線を比較すると、B0→K+π-崩壊の方が反B0→K-π+崩壊よりも多いことがわかる。
 

 
図2
図2 :荷電B中間子がK中間子とπ中間子に崩壊する過程におけるCP対称性の破れを示すデータ。黒線は実験で観測された事象の分布で、赤線が信号の分布、青線は信号と背景事象の和である。赤線を比較すると、B-→K-π0崩壊の方がB+→K+π0崩壊よりも多いことがわかる。
 

【用語解説】
 
※1 Belle実験グループ
  世界14の国と地域、55研究機関からの約400人の研究者からなる国際共同チームである。
 
※2 クォーク
  物質を構成する最も基本的な粒子で6種類が存在する。3つの階層に分類され、それぞれ[アップ, ダウン]、[チャーム, ストレンジ]、[トップ, ボトム]と名付けられている。このうち、アップ、チャーム、トップは電荷+2/3を、ダウン、ストレンジ、ボトムは電荷‐1/3を持つ。また、各クォークには反対符号の電荷を持つ反粒子(反クォーク)が存在する。
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(反粒子は上に横線を付して表記するのが慣例である)  
 
※3 中間子
  クォークと反クォークが結合した粒子で、以下の例に示すように、クォークの組み合わせによって色々な中間子が知られている。また、粒子の電荷状態を右肩に付して表記するのが慣例である。

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