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last update:08/10/02  
KEKBとLHCの国際協力
〜 クラブ空洞に関する交流 〜
 
 
2008年9月10日、スイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機関(CERN)において、周長27kmの円形陽子衝突型加速器(Large Hadron Collider、LHC)を用い、4500億電子ボルト(0.45TeV)の陽子ビームを周回させることに成功したニュースをご存知の方も多いかと思います。今後、陽子を10兆電子ボルト(10TeV)に加速し、衝突実験を開始する予定です。この世界最高のエネルギーを生み、宇宙誕生初期の状態を再現する衝突実験には日本の研究者をはじめ世界中の多くの研究者が参加しており、質量の起源であるヒッグス粒子、暗黒物質の候補である超対称粒子の発見が期待されているところです。
 
このような衝突実験には衝突で発生するエネルギーが重要ですが、衝突頻度(輝度)も同等に重要です。先に述べた新粒子の生成確率は非常に小さいため、多くの衝突をさせる必要があります。LHCでは将来の輝度増強を目指し幾つかの計画を準備しており、その中の1つとして“クラブ交差”があります。LHC加速器は高エネルギー加速器研究機構のKEKB加速器と同様に有限角衝突を行っています。これはビーム同士が少し斜めに衝突するもので、衝突点付近のビームの分離が簡単になる反面、衝突頻度(輝度)が悪くなるという欠点があります。これを補うため、あらかじめビームを少し傾けておいて衝突させる方法(つまりクラブ交差)が考案されました。クラブ交差は有限角衝突でありながら正面衝突を可能にする画期的な方法です。ビームを少し傾けるための装置がクラブ空洞で、本機構では世界に先駆けて超伝導クラブ空洞を研究開発しました。2006年にクラブ空洞を2台製作し、2007年からKEKB加速器のクラブ交差実験を行っています。
 
KEKB加速器のクラブ空洞実用化を受け、LHCでもクラブ交差が真剣に検討されています。LHCで必要なクラブ空洞は、LHCのエネルギーが高いこともあり、KEKBクラブ空洞の数倍の高電圧を発生させる能力が必要です。LHCクラブ空洞の設計は、現在のところ主としてCERNと米国の研究グループによって行われていますが、本機構ではクラブ空洞に関する豊富な経験を有しており、クラブ空洞の設計、製作への関与を強く求められています。また、機構としてもLHCクラブ交差実現のため何らかの寄与をする必要があると考えております。
 
このような背景から、今年7月15日と8月5日の2回ほどCERNと本機構間でテレビ会議が開催されました。CERNよりクラブ交差に関与している研究者7〜8名、本機構よりKEKB関係者十数名が会議に参加し、KEKBでのクラブ交差実験の現状、今後の改良点、試験項目、クラブ空洞の性能、問題点など幅広い議論がなされました。テレビ会議の結果、8月21日にCERNで開催されたクラブ空洞ワークショップへ本機構の研究者3名の派遣が決定しました。クラブ空洞ワークショップではKEKBクラブ交差実験の現状とクラブ空洞の運転に関する詳細な議論が行われ、CERNはクラブ交差の実現に向けたスケジュール、米国のグループはクラブ空洞設計・製作、また英国のグループは将来必要となるコンパクトなクラブ空洞の議論を行いました。また12月にはCERNより研究者1名がKEKBクラブ交差運転に参加するため来日することが決まっています。KEKBのクラブ交差の性能向上のためCERNの研究者と共同で議論が展開され、またLHCのクラブ交差で問題となる項目をKEKBのクラブ交差で試験するなど、CERNと本研究所とのクラブ交差に関する交流はますます強まっています。
 
 
関連サイト: KEKBのwebページ
http://www-acc.kek.jp/KEKB/index.html
CERNのwebページ
http://public.web.cern.ch/public/
 
 
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図1:現在考案されているさまざまなタイプのクラブ空洞。Rama Calaga氏(米国BNL研究所)によってまとめられたもの。
 

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