物質構造科学研究所・放射光源研究系の原田健太郎(はらだ・けんたろう)助教、およびフォトンファクトリーのユーザーである自然科学研究機構・分子科学研究所の唯美津木(ただ・みづき)准教授が、第13回日本放射光学会奨励賞を受賞しました。この賞は、日本放射光学会員である35歳未満の若手研究者を対象に、放射光科学に関する優れた研究成果に対して授与されるものです。
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原田健太郎氏
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原田氏の受賞対象となった研究は「パルス四極電磁石を用いた新しい入射方式の提案と実証」です。従来の電子蓄積リングへの入射は、数台のキッカー電磁石により、入射点近傍にバンプ軌道というこぶ状の軌道を作って行われていました。最近多くの放射光施設では、利用実験を効率よく行うため、トップアップ運転と呼ばれる、放射光利用時の電子ビームの減少を継ぎ足し入射によって常時補い、一定の蓄積電流を維持する方式が採用されています。この運転方式では、利用者から見て発光点が揺れないように、所定の場所以外にずれがない精密なバンプ軌道を作る必要があります。原田氏は、入射ビームを四極電磁石の周辺に通すことにより、その収束力を用いてビームを中心軌道方向に導くという全く新しい入射方式を提案しました。入射時に四極電磁石の励磁(パルス励磁)を行えば、蓄積ビームの軌道に影響を与えずに精密な入射ができ、まさにトップアップ運転に適した入射法です。原田氏はこの新しい方式を実現するために、PF-ARで実証試験を行いました。パルス四極電磁石の設置場所やパラメータの計算、電磁石およびその電源の製作・試験を行い、これらのシステムをPF-ARに組み込んで世界で初のパルス四極電磁石によるビーム入射を成功させました。
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唯美津木氏
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唯氏の受賞対象となった研究は「in-situ時間分解XAFS法を駆使した触媒化学の革新」です。唯氏は、「10の最も困難な化学反応」のひとつであるベンゼンの直接酸化によるフェノールの合成を、これまで類を見ない高活性・高選択性で実現する新しい触媒を開発しました。レニウムという金属から成るこの触媒の高活性・高選択性の鍵を、同氏はPF-ARにおける波長分散型XAFS法を用いて分子レベルで解明しました。また、時間分解XAFS法のひとつである時間ゲート(Time-Gating)QXAFS法を開発し、燃料電池の電極に使われている白金触媒が酸化還元を行う過程をリアルタイムで捉えることに成功しました。このことにより、これまで同時に起こると考えられてきた電気化学反応と白金触媒の構造変化の間に明確な時間差が存在するということが初めて明らかになりました。これらの研究は、触媒化学のみならず、化学反応全般に新たな展開を付与する優れた功績であり、今回の受賞となりました。
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授賞式および受賞講演は2009年1月9〜12日に東京大学本郷キャンパスで開催された第22回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムで行われました。
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