2010年10月14日
9月23日から25日の3日間、CPP2010がKEKで開催されました。CPPとは、Computational Particle Physics(計算素粒子物理学)の略です。今年は、CPPという学問分野が認識されて20年という年にあたり、フランス、オランダ、ドイツ、米国、中国、ベトナム、日本の研究者ら41名が参加しました。
素粒子実験では、反応の頻度や、素粒子反応により飛び去っていった粒子の方向や、その運動量やエネルギーを測定します。一方、素粒子の運動を表す理論的な法則は式で表現されており、実験によって測定される数々の測定量を、式から計算した数値と比較して、初めてその法則が正しいかがわかります。計算素粒子物理学の目的のひとつは、素粒子の基礎法則から、実験に相当する数値を計算することです。
以前は、そのような計算は紙と鉛筆で事足りていました。しかし、実験のエネルギーが増加するにつれ、関係する素粒子の反応数が増え、また、ひとつの反応に関わる素粒子の数が増えるため、計算に計算機の力が必要になってきました。特に、精密な測定が可能になってきた1990年台以降は、実験精度に見合った理論計算を行うために、それまでの100倍から1000倍の労力が必要となってきました。
日本では早くからこの困難を認識し、計算機の活用を行う素粒子反応の自動計算システム「GRACE」を開発してきました。同じ動機により独立な自動計算システムがロシア、ドイツ等でも開発されています。
これまでにも1998年と2001年と、2回のCPP国際研究集会を日本で開催しました。今年は、CPPが生まれて20年を記念して関係者が集まり、研究の進捗状況と、今後の展開について議論が交わされました。
今回のCPP国際研究集会での主な計算のターゲットは現在スイス・ジュネーブのCERNで行われている大型ハドロン衝突実験(LHC)の物理学や、Bファクトリーなどによるフレーバー物理学、将来の加速器実験・国際リニアコライダー(ILC)による物理などでした。標準理論や超対称性理論から実験で得られる量を如何に組織的にかつ、より精度良く計算する手法や、新しい数値解析法、それぞれの研究所や大学で開発している統合システムプログラムが紹介され、活発な議論が交わされた3日間でした。