LHC計画が順調にスタート
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CERNプレスオフィスより
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提供:アトラス日本グループ |
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LHCでの7TeVでのビーム衝突成功を祝う小林富雄東京大学教授、ロルフ・ホイヤーCERN所長、セルジオ・ベルトルッチCERN研究部長、徳宿克夫KEK教授。3月30日東京大学素粒子物理国際研究センターにて。
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ジュネーブ発 2010年3月30日:
現地時間13:06に重心系エネルギー7TeVでのビーム衝突を達成し、LHCでの研究プログラムが始まった。これまでの加速器で達成したより3.5倍の高いエネルギーでの実験が始まり、最初の長い期間の運転に入る。世界中の素粒子物理研究者が、新しい発見を心待ちにしている。
「今日は、素粒子物理研究者にとってのすばらしい日だ」ロルフ・ホイヤー所長は言う。「この瞬間のために多くの人たちが忍耐を持ってひたむきに準備してきた。その実りを得る時がようやく始まった。」
「この記録的な衝突エネルギーによって、LHCの実験では、幅広い領域で新しい物理の探索を進めることができる。例えば、暗黒物質、新しい力、余次元、ヒッグス探索などである。」アトラス実験の責任者であるファビオラ・ジァノッティ氏は語る。「各実験は昨年末のデータでも既に物理論文を投稿している。これからの本格的な高いエネルギーでの物理実験でも同じように進んでいくだろう。」
CMS実験の責任者である、グイド・トネッリ氏が続ける。「これまできわめて順調にLHC加速器が仕上がってきたことは、とても感動的だ。さらに、我々の建設した検出器が非常によく動いていて、そこから世界中に散らばった私たちの仲間がデータを解析して物理成果を出してきていることは大変喜ばしい。もうすぐ、私たちは今の物理学における未解明の謎に迫っていく。それは、質量の起源や、いろいろな力の統一についてであり、宇宙に大規模に存在するとされる暗黒物質の謎である。これから大変エキサイティングな日々が続く。」
「この瞬間をずっと待ち望んでいたし、そのために準備をしてきた。」アリス実験の責任者のユルゲン・シュークラフト氏は言う。「まず陽子・陽子衝突からのたくさんの成果が出てくるが、さらに今年の後半に鉛イオン同士の衝突を計画している。そこからは、宇宙初期にどのように物質が進化してきたか、特に、強い相互作用の振舞に関して新しい知見を得ることができるだろう。」
LHCb実験も物理を進める準備ができている。これからの実験で、物質と反物質の間の非対称性をこれまでの実験よりさらに深く探求できる。」LHCb実験の責任者のアンドレイ・ゴリュートビン氏も語る。
CERNはこれから18−24ヶ月の間連続してLHCを運転する。これにより、実験グループは広大な物理領域において様々な探索をこれまでよりはるかに深く探索するのに十分なデータを蓄積できる。まず、最初に、これまでよく理解されている標準理論の範囲の粒子を"再発見"する。それは、新しい物理の探索の前に必要な作業である。その後、ヒッグス粒子の探索を系統立てて進める。この期間に蓄積できるデータ量は、専門用語で1fb-1 (1フェムトバーン分の1)ぐらいである。この量のデータがあれば、アトラス実験とCMS実験で得られて、かつ、もしもヒッグス粒子の質量が160GeV付近にあれば、発見できる。ヒッグス粒子がもっと軽いか、あるいはもっと重い場合には、この期間のデータだけではヒッグス粒子の発見は難しい。
超対称性粒子に関して言えば、アトラス実験もCMS実験も、現在までの探索感度を倍に上げるのに十分なデータを取ることができ、発見も可能となる。現在までの実験では、ある種の超対称性粒子の質量は400GeVより重いと結論されている。1fb-1のデータがあれば、LHCでは800GeVの質量まで探索できる。
「この2年間の間に、LHCで超対称性粒子を発見できる可能性は十分ある」ホイヤー所長は語る。「それにより、宇宙の4分の1を占める暗黒物質がどのようなものであるか、理解することができるかもしれない。」
これらにとどまらず、もっと奇妙な現象の発見の可能性もある。この2年間のLHC運転で、今までの2倍程度重い粒子の探索が可能となる。例えば、余次元の効果があれば2TeVぐらいまでの新しい重い粒子の探索ができる。現在までの探索では1TeVまでの探索に留まっている。
「2000人以上の大学生が、LHC実験からのデータを待ち望んでいる。彼らはこの新しい高エネルギーの前線、最初の博士論文を書いていこうとする学生達である。」ホイヤー所長は続ける。
この約2年間の連続運転のあと、LHCは長期に運転を休止する。その間に、2008年の9月19日に起こった事故に対する最終修理を行うとともに、重心系14TeVでの運転を安全に行えるようにさらなる改良を加える。これまで、CERNでは加速器を1年単位のスケジュールで運転してきた。つまり、7−8ヶ月運転した後4−5ヶ月維持のための休止を行うというサイクルで進めていた。LHCは超伝導磁石を使っており、ヘリウム温度の超低温で作動している。このため、加速器に手を入れるためには1月かけて室温に戻し、また改造の後、1月かけて低温に冷やさなければいけない。今までのような4ヶ月の休止では、作業のできる時間が限られてしまい、非常に効率が悪い。このため、CERNはLHCをもっと長いサイクルで運転することにした。つまり、今までより長い間連続運転して、維持のための休止も長く取るという方針で進める。
「2年間連続運転をするというのは、加速器側にも実験側にもかなりの負担となる。しかし、その努力は十分報いられると思う。」ホイヤー所長は続ける。「まず長い運転を行い、次の休止期間で、集中して14TeVでの衝突のための準備を行うという今の計画は、総合的に判断すれば、結局3年間の運転時間を増やすことになる。これまでの遅れを取り戻しながら、実験グループに様々な新発見の機会を与えられる。」
原文:CERN HP掲載 3月30日付プレスリリース
"LHC research programme gets underway"
http://press.web.cern.ch/press/PressReleases/Releases2010/PR07.10E.html
※ CERNは素粒子物理学において、世界をリードする研究所であり、ジュネーブにある。現在のCERNのメンバー国は、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシア、ハンガリー、イタリア、オランダ、ノルウェイ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、とイギリスである。それに加えて、インド、イスラレル、日本、ロシア連邦、合衆国、トルコ、欧州委員会、ユネスコがオブザーバーとなっている。
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