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last update:10/01/07  
国際協力で行う「S1-グローバル」試験用の装置、イタリアから到着
 
 
12月25日、KEKの超伝導リニアック試験施設棟(STF)に、イタリアからクライオスタットが到着しました。「クライオスタット※1」とは、空洞とよばれる加速管を超伝導状態にするために極低温まで冷却し、温度を保持するための装置。世界の物理学者が国際協力で進める「国際リニアコライダー(ILC)※2」計画などで必要となる主要技術の一つです。
 
今回到着したクライオスタットは、イタリアのINFN(イタリア国立核物理学研究所)が製作したもので、「S1-グローバル」と呼ばれるシステム実証試験に使われます。「S1-グローバル」はその名の通り、国際協力により、進められる試験で、その拠点となっているのが、KEKのSTFです。
 
「S1」とは、一連のILCのための技術開発計画の中で、クライオモジュール試験の第一段階を指します。「クライオモジュール」とは、クライオスタットに空洞を組込んだシステムのことを呼び、「S1」は、これら複数の空洞を同時運転する試験です。各国の研究所でも、それぞれが開発した空洞を使ったS1試験が予定されていますが、これらの取り組みに加え、国際協力を通して行う「S1-グローバル」試験を行います。これは、ILC実現への技術実証のステップとなる重要な試験です。
 
S1-グローバル試験では、各地域で高い性能が確認された合計8台の空洞を、2台のクライオスタットに組み込んで連結し、ILCの加速勾配※3設計値である31.5MV/m以上での運転をデモンストレーションすることを目指します。INFN製のクライオスタットにはアメリカと欧州から送られた空洞各2台を、KEKのクライオスタットには日本製の空洞4台が組込みまれます。また、ILCの研究開発は、設計の自由度を残すことにより、改良のための活力とする「プラグ・コンパチブル」というコンセプトで進められているため、各国の要素を持ち寄って試験をし、細部の異なるシステムが総合して動作できることの立証も目指しています。
 
来年1月中旬より、フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)から技術者が訪れ、空洞の組込み作業が開始され、同年後半に試験を行う予定です。
 
 
※1 クライオスタット
電子/陽電子ビームを「超伝導加速」するためのシステムで、超伝導体である「ニオブ」製の空洞を、絶対零度(273℃)に近い極低温まで冷やして超伝導状態にし、そこに高周波電力を入力して交番加速電界を発生させ、ビームを光速近くまで加速する。超伝導状態では、電気抵抗がほぼゼロになるため、非常に効率よく高周波電圧をかけ、加速できるのが特徴。
 
※2 国際リニアコライダー
アジア、北米、欧州の3地域で協力して推進している次世代電子・陽電子衝突型加速器。ビッグバン直後の状態を再現することで、宇宙創成の謎を解き明かすことが目的。また、研究開発から生まれる様々な先端技術の波及効果にも大きな期待がかかっている。
 
※3 ILCの加速勾配
粒子の「加速」とは、スピードの増加とエネルギーの増加、双方を意味する。加速器が一定の距離で粒子のエネルギーをどれだけ増加させられるかを「加速勾配」と呼び、加速勾配が高ければ高いほど、直線型加速器の長さを短くすることができる。
 
 

 
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コンテナから取り出される、S1-グローバル試験用イタリア製クライオモジュール。
 

 
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S1-グローバル試験用クライオモジュール設計図。INFNのクライオモジュール(モジュールC)には、米国(Fermilab)と欧州(DESY)で製造された加速空洞が、STFで使われていたクライオモジュール(モジュールA)には、KEKの加速空洞が組込まれる。
 
 

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