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電気でスピンを制御できる新しい電子材料の開発

2011年7月1日

東京大学の十倉好紀教授、石坂香子准教授、KEK物質構造科学研究所の熊井玲児教授らの研究グループは、KEKフォトンファクトリーおよびSPring-8で電子構造と磁気構造を直接観察することにより、半導体BiTeI(Bi:ビスマス、Te:テルル、I:ヨウ素)の伝導電子がその運動量に依存した大きなスピン偏極を持つことを明らかにしました。この性質は、電流や電場による磁性制御のために重要な性質で、新しいスピントロニクスの材料としての応用が期待されます。

電子のスピンという磁気的性質を、従来のエレクトロニクスに組み合わせたスピントロニクスが近年注目されています。ハードディスクの小型化・大容量化を躍進させた巨大磁気抵抗効果がその代表例です。スピントロニクスにおけるデバイス開発には、電気によって伝導電子のスピンの向き(偏極)を制御することが重要です。物質最表面や界面の電子は、その構造の非対称性から、電位差によってスピンを制御できるラシュバ型と呼ばれるエネルギーと運動量の関係を持つため、電気によってスピンを制御することが可能となります。しかし、少ない表面や界面の電子に比べて大量に存在する内部の電子には、このような性質はなく、応用への妨げとなっていました。

熊井教授らは半導体BiTeIの単結晶を作成し、スピン・角度分解光電子分光により物質中の電子のエネルギー、運動量、およびスピン成分を直接観測しました。この物質はビスマス(Bi)、テルル(Te)、ヨウ素(I)が順に積層した結晶構造をしていて物質の内部で極性(電気的偏り)を持つこと、またスピン軌道相互作用の大きなビスマスを含むことから、物質最表面・界面でしか見られないラシュバ型のスピン偏極が物質内部でも存在することが期待されていました。観測の結果、これまで調べられてきた表面・界面の電子などと比較しても最大級のラシュバ分裂があることが明らかになりました。 これは、半導体BiTeIの物質内部に存在する伝導電子全てがスピン偏極している、つまり電気によってスピンを制御することが可能であることを示しています。この成果により、新しいスピントロニクス材料の開発を大きく躍進させることが期待されます。

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画像提供:東京大学 石坂研究室

図1

半導体BiTeIの結晶構造

ビスマス(Bi)、テルル(Te)、ヨウ素(I)が積層している非対称構造をしている。特にBiはスピン軌道相互作用が大きく、Biを含む結晶構造はラシュバ分裂が期待される。

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画像提供:東京大学 石坂研究室

図2

角度分解光電子分光により観測された電子のエネルギーと運動量の分散関係

左図のように放物線が2つずれて重なっているものをラシュバ分裂という。放物線の赤色がアップ、青色がダウンのスピン偏極を示している。この図では、運動量が負の場合はアップスピン、正の場合はダウンスピンとなり、放物線のずれが大きいほど制御が容易となる。



この研究成果は英国の科学雑誌Nature Materialsのオンライン版6月19日(現地時間)に掲載されました。