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. スーパーカミオカンデ 〜事故からの再生〜
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*衝撃の光センサー破損事故

『「スーパーカミオカンデの光センサー破損」、このニュースが飛び込んできたのは2001年11月12日の夕方過ぎでした。あの時の衝撃は忘れられません。』当時を振り返って、KEKのある研究者はこう語っています。

東京大学宇宙線研究所の神岡宇宙素粒子研究施設(岐阜県神岡町)にある巨大観測装置「スーパーカミオカンデ」の光センサー(光電子増倍管)が多数破損した事故は、当時の新聞にも大きく取り上げられました。この事故は外部機関からスーパーカミオカンデに一番多くの研究者が参加しているKEKにとって大変な事件でした。

当日、KEKのメンバーはだれも神岡に滞在していませんでした。以下は、神岡にいたある研究者から聞いたおおよその破損事故の経過です。 

11月12日の午前11時ごろ3名の研究者が坑内で作業していたところ、タンクの方から突然発破みたいな音と突き上げるような衝撃が来て、光電子増倍管からの信号が突然に跳上がりました。

タンク上面を開けてゴンドラで水面に降りてタンク内を見渡し、また水中カメラを降ろして水面下の状況を確認したところほとんどの光センサーが割れていました。

この情景を実際に見た研究者によると、タンク内はいつものきれいな水と違って濁っており、また色々な物(破損した光電子増倍管の一部)が水面に浮かんで一目で異常であることが見てとれました。

水中カメラの映像はさらに衝撃的であり20インチ光電子増倍管の巨大な電極がまるで押し潰されたようにひしゃげ、架構から飛び出し垂れ下がっていました。底面付近では粉々になったガラスが降り積もり光電子増倍管の残骸が散乱していました。この時の研究者によると、テレビで見たニューヨーク貿易センターの残骸の情景を思い出したとのことです。

光電子増倍管が壊れた時の衝撃はすさまじく、後にわかったことによると装置から8.8km離れた京都大学防災研究所の地震計が事故を捉えていたということです。 

当時、スーパーカミオカンデ実験装置は7月中旬から行なっていた故障した光電子増倍管の交換を無事に終え、実験再開に備えて水を8割程度まで満たしたところでした。

光電子増倍管の連鎖的な破損は以下のようなプロセスで起ったと考えられます。 

光電子増倍管は大きな電球のようなガラス球であり、ガラス管の内部は真空になっています。最初の光電子増倍管が交換作業の際に受けたストレスなどの原因により一瞬にして水圧により破壊され、そのために衝撃波が発生し、次々と隣の光電子増倍管を連鎖的に破壊しました。

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事故前の光センサー 拡大写真(124KB)
(東大宇宙線研究所提供)
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破損した光センサー 拡大写真(293KB)
(東大宇宙線研究所提供)

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スーパーカミオカンデのスケッチ
拡大写真(193KB)

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*11月12日からの再出発

この日を境に事故の原因究明とその対策、さらに実験装置の復旧へ向け、大変な作業が開始されました。スーパーカミオカンデに参加しているKEKの研究者も、当然、かなりの仕事を分担してきています。

光電子増倍管の破損は合計6000本を越えていました。1本1本手作りで大量生産ができない光電子増倍管を6000本以上も作るためには最低でも4年かかります。また一から実験装置を作り直すのには気の遠くなる作業が必要です。

光電子増倍管は1本でも数十万円と言われています。金額といい、時間といい、手間といい想像を絶する損失がほんの一瞬にして起きたことになります。現場にいた研究者がみんな放心状態になって途方にくれたのも無理はありません。

実験グループのメンバーが実験再開への闘争心を取り戻したのは、グループのリーダーの戸塚洋二教授の声明が共同実験者に配られてからだといわれています。その声明には「実験は光電子増倍管の本数を減らしてでも1年で実験を再開する。」と述べられていました。(この全文は <こちら> にあります。) 

この文章の中の "We will rebuild the detector. There is no question."は、スーパーカミオカンデグループの総意として広く高エネルギー物理学研究者の間に広がることとなりました。 


典型的なニュートリノ反応
拡大写真(47KB,3D イメージ T.Barszczak)

*再生への動き

実験を再開するためにはまずはさまざまな問題を解決しなければなりません。
(1)最初の光電子増倍管はなぜ割れたのか? 
(2)破壊の連鎖はどのようにして起きたか? またそれは再現可能か? 
(3)光電子増倍管が壊れないように、さらに連鎖的な破壊を食い止めるためにはどうすればよいか? 
等々。

まずはこれらの問題を一つ一つ解決するためのテストが行なわれてきました。現在、(1)、(2)の究明はほぼ終り、事故原因の全容が明らかになりました。予想通り、1本の光電子増倍管がまず破壊されて衝撃波が発生し、その衝撃波がとなりの光電子増倍管を破壊しました。そこでまた衝撃波が発生するという、連鎖反応が起ったのです。

それではなぜ最初の光電子増倍管が壊れたかというと、装置底面の改修作業時のいずれかの時点で目に見えないストレスがガラスにかかり、そのストレスがそのまま残って水圧に耐えきれずに破壊に至った、という可能性がもっとも高いことが分かりました。

(3)に関する実験もだいたい終り、「衝撃波防止ケース」をすべての光電子増倍管につけることになりました。あとはケースを量産する手だてを考えることが課題となっています。

こうした作業にKEKのメンバーも全面協力しています。KEKの研究者が、何故これほどまでにスーパーカミオカンデの再出発に関わっているのか? 素粒子物理学の重要テーマに挑戦するKEKとスーパーカミオカンデを結ぶニュートリノ実験については次の機会にご紹介しましょう。

※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

スーパーカミオカンデのホームページ(宇宙線研究所)
つくば・神岡間長基線ニュートリノ振動実験(K2K)の紹介


K2Kニュートリノビームライン
拡大写真(49KB)


 
神岡のスーパーカミオカンデ
と共同でニュートリノを調べる
KEKの実験施設

※詳しくはKEKツアー・
ニュートリノビームラインへ

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