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   image 加速器で心臓診断    2002.08.29
 
〜 冠動脈を撮影 〜
 
KEKの加速器は色々な研究に使われています。今回は加速器から取り出した光の医学診断応用について紹介しましょう。この応用はKEKの物質構造科学研究所と筑波大学が共同で進めています。お話する医学診断応用は、心臓自身の血管系(冠動脈)の診断です。この診断技術が進むと、多くの病院にも小型の加速器が使われる時代が来ると期待されています。

画像診断に使われる放射光

加速器から取り出す光は放射光と呼ばれています。光というと私たちは色を感じる光だけを考えますが、放射光はさらにエネルギーの高い目では見えない紫外線やX線まで含めています。この臨床応用では放射光の中でX線領域の特定のエネルギ−の光(単色X線)を利用します。光の色は波長の違いで生まれます。単色X線の単色というのは一色という意味で、波長がそろった特定のエネルギーを持つX線をさしています。このX線はPF−ARと名づけられた加速器から取り出します。

医学診断でX線が使われていることは良く知られていますが、心臓に酸素や栄養を供給している冠動脈系を画像で診断する冠動脈造影検査は、大変優れた検査方法であるものの動脈から造影剤を注入するので、患者や医療スタッフにとって負担の大きな検査でもあります。まず心臓周辺の細い血管をとらえるにはX線を照射し、その影をとらえるのですが、そのために動脈や静脈からカテーテルを挿入して造影剤を注入する必要があります。今回開発された方法では静脈から造影剤を注入することで、従来の方法に比べてはるかに安全で簡便に診断できるようになりました。造影検査後は、自分で歩いて帰ることができる検査になっています。

これまでは静脈から造影剤を注入すると、診断したい冠動脈に造影剤が運ばれるまでに造影剤は薄められ、通常のX線装置で撮影しても診断できる画像が得られませんでした。それを解決したのが放射光からの単色X線の利用です。臨床応用に使われる単色X線は、造影剤中のヨウ素が吸収しやすい特定のエネルギーをもつX線です。吸収が大きいため診断したい血管がくっきりと浮かび上がり、その動きもとらえることが出来るようになりました。

診断の仕組み

心臓を包み込むようにとりまく冠動脈血管を広く画像としてとらえるために、この研究では日本独自の方法をとっています。まずPF−AR加速器から取り出した細いX線ビームを結晶表面で反射させて単色X線を得るとともに、非対称反射により広いX線ビームに変えてやります。これで広い視野の画像が取れることになります。照射部には、冠動脈系とX線画像上で重なってしまう肺血管系や骨などもありますが、2次元動画像により診断を必要とする冠動脈系の識別が動きのある画像のなかで明瞭にできます。必要としない部位へのX線照射を少なくするフィルターなどの工夫もされています。これによって広い範囲の診断がその場で可能になり、心臓機能の総合評価が可能になりました。

今後の期待

現在、撮影システムは、より高度の診断を行なうための改良も行われています。私たちの心臓は休み無く働いています。この心臓の活動を維持するための血液を供給する血管が冠動脈です。これらの血管が狭くなったりつまったりして起こる病気が狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患です。この病気は生活習慣病の一つになっており、日本では死亡原因の上位に位置しています。冠動脈の変化を早期に診断してその対策を行うことが医学的にも社会的にも重要になっています。冠動脈系治療後の定期的検査にも役立つ安全で簡便な心臓診断の方法の確立を目指したこの研究は、現在大きな注目を集めています。

放射光による医用画像診断は、心臓だけでなく、これまで撮影の難しかった微小血管系やX線の屈折や干渉を用いたがんの診断など、多くの新しい診断方法の実用化が期待されています。加速器からのX線を利用する診断技術が確立すれば、小型の加速器が近くの病院で活躍することでしょう。
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ



→キッズサイエンティスト:
     放射光単色X線を用いた心臓診断に関する臨床応用
     http://www.kek.jp/kids/closeup/pf-heart/

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[図1]
放射光を生み出す加速器PF−AR。大強度パルスX線を発生する世界的にも類を見ないユニークな放射光施設。
拡大図(33KB)
 
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[写真1]
放射光単色X線を用いた心臓診断システム。
拡大写真(29KB)
 
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[図2]
心臓診断システムの構成図
拡大図(16KB)
 
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[写真2]
下の写真は心臓診断システムにより撮影された画像。矢印の部分は左冠動脈系。
拡大写真上(31KB)
拡大写真下(22KB)
(画像提供:筑波大学)
 
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[写真3]
心臓診断システムの開発を担当している兵藤一行(ひょうどうかずゆき)博士
拡大写真(34KB)
 
 
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