粒子をシミュレーションで捉える
高エネルギーの素粒子実験では、自然界に存在する粒子や加速器で作られたさまざまな粒子の性質を調べる研究をしています。実験の目的に応じて、いろんな種類の検出器を組み合わせて測定器を作るのですが、実験をする前に、目的に応じた測定器を適切に設計、製作することは、実験成功のための大切な鍵になります。
いろんな種類の検出器を組み合わせたときに素粒子がその中でどのように振舞うかを調べるために、コンピューターを使って計算で細部を再現するシミュレーションプログラムが使われています。測定器の中を走る素粒子の振る舞いを捉まえるので、このようなプログラムのことは「測定器シミュレーション」と呼ばれます。
高エネルギー実験の分野で伝統的に使われてきたプログラムにGEANT3があります。これはヨーロッパのCERN研究所で20年近く前から開発され、世界中で広く利用されてきました。GEANT3はFORTRANというプログラミング言語で作られていますが、近年、実験装置が大規模になり、装置も複雑化するにしたがって、新しい機能を盛り込んだシミュレーションプログラムの開発がだんだん難しくなり、最新の情報科学分野の成果を取りこんだ新世代プログラムの開発が待望されていました。
世界初の国際共同ソフトウェア開発プロジェクト
こうした状況の中、1994年に日本とCERNの研究者が中心となってGeant4国際共同開発研究がスタートしました。1998年に最初のプログラムが提供され、世界でも初めての、各国の研究機関と実験グループの覚書による測定器シミュレーションプログラムの開発が進められています。
Geant4の開発者は世界各地に分散しています。大規模なソフトウェアが地理的に離れた場所で開発され維持されているという点では他に類を見ないプロジェクトといえます。プロジェクト開始当初から日本の研究者が重要な役割を果たしている点でも、ユニークなものです。すでに世界の高エネルギー実験グループの多くが、測定器のシミュレーションプログラムとしてGeant4を正式に採用しています。