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.    東海村に世界最強の加速器団地    2002.3.7
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完成予定図 (原研東海キャンパス)
拡大図 (150KB)
「大強度陽子加速器」建設始まる

茨城県東海村は、これまで日本の原子力研究施設が集まった場所として知られてきました。現在、この場所に巨大な基礎科学研究施設が新たに加わろうとしています。
今日は、KEKと日本原子力研究所(原研)が共同で東海村に建設を始めようとしている「大強度陽子加速器」についてお話しましょう。

これまでKEKでは様々な加速器をつくばの敷地内に開発し建設し、それを使って国際的に評価される研究成果を上げてきました。そうしたKEKの加速器研究で獲得された貴重な経験が、今度は東海村で生かされようとしているのです。

新しい加速器を建設する際、二つの方向があります。より高いエネルギーを目指すものと、より大きなパワーを目指すものです。東海村で建設が始まろうとしているのはより大きなパワーを目指す加速器です。


この加速器は原子核の構成粒子である陽子を加速する陽子加速器ですが、大きなパワーを目指しているので大強度という言葉が使われています。
強度という言葉は良く使われますが、大強度と言われても分かりにくいのでそれを説明しましょう。加速器は電気を帯びた粒子を加速して高いエネルギーの粒子を生み出すとよく言われます。この場合、エネルギーは一個の粒子のエネルギーを表しています。これに対して強度は加速された粒子の群れが運ぶ電気の流れ、平均した電流と言えます。これはシンクロトロン加速器の場合、1回あたりに加速される粒子の数と、加速を行う頻度を掛けたものになります。

この結果、ビームのパワーはエネルギーに強度を掛けたものになります。これは我々の周りで使われる電気のパワーすなわち電力(ワット)が電圧(ボルト)と電流(アンペア)を掛けたものになるのと同じ理屈です。


大きなパワーを目指す大強度陽子加速器は、3つの加速器が連携しビーム当たりの陽子の数をものすごく多くし、加速頻度を高めて強度を上げる最先端技術が使われた加速器の集合体です。加速器のタイプは直線状の線形加速器(600 MeV)、小さな三角形の陽子シンクロトロン加速器(3 GeV)、そして一番大きな陽子シンクロトロン加速器(50 GeV)で構成されています。

陽子はそれぞれの加速器で段階的に加速され、同時にその一部は陽子ビームとして取り出し研究に利用します。大小それぞれシンクロトロン加速器で得られるビームの強度は0.75 メガワット、1メガワットと、現在KEKで稼働している陽子シンクロトロン加速器の100倍以上に達します。これらの加速器はいずれも大きなものだけに全体で東京ドームが6個も入るような大きな土地に6年がかりで建設される予定です。

建設される陽子加速器と実験施設の数々
拡大図 (45KB)

茨城県ひたち那珂港のほど近くに計画中の加速器配置図を見ると海岸に設置されたコンビナートの様に見えます。完成すると世界最強の陽子加速器団地が東海村に誕生するわけです。

大強度陽子ビームの必要性

大強度の陽子ビームはいったい何に使われるのでしょうか?
実は、陽子ビームは直接利用されるわけではなく、次のように別の種類の粒子ビームを作るために用いられます。まず、加速された陽子ビームを金属や炭素等でできた標的にぶつけます。すると陽子の持つエネルギーは標的の原子核内の粒子をたたき出したり、新たな粒子を生成するのに使われ、ミューオン、ニュートリノ、K中間子、中性子、反陽子等が大量に生成されます。

これら二次的に生成された「二次粒子」をビームとして取りだすことにより、様々な研究が行われるのです。「二次粒子」ビームの品質はそれを作り出す陽子ビームの強度が高いほどよくなるので、そのために大強度の陽子加速器が必要になるわけです。このような多彩な「二次粒子」ビームはそれぞれ異なる性質・特徴をもつため、それらを用いた研究分野は素粒子原子核物理、物質科学、生命科学、核変換技術、その他、多くの分野にわたり、また、利用者層も大学、研究機関にとどまらず、企業、産業界をも含んだ幅広いものになります。


多様な粒子ビームを用いて展開する科学
拡大図 (44KB)

巨大科学プロジェクトでありながら非常に広い裾野をもつという意味で、これまでにないユニークなものといえるでしょう。
このプロジェクトは「大強度陽子加速器計画」と呼ばれていますが、これはまだ正式な名前ではありません。現在、各方面から募集した案をもとに、この大きなマシンの正式名称および愛称を決めているところです。名前が決定しましたらこのニュースでお知らせしましょう。大強度陽子加速器が開く科学のフロンティアについても今後お知らせすることにしています。

なお、このプロジェクトに関する情報は以下のウェブサイトからアクセスできます。
http://jkj.tokai.jaeri.go.jp/newtop-j.html
 
 
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proffice@kek.jp