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  image 加速器でつくる超高密物質
〜 さらさらヘリウムの利用 〜
 


陽子・中性子で超高密物質を

角砂糖ほどの大きさが重さ数億トンもある物質なんて、日常の世界では想像もできません。でも、宇宙には、こんなに超高密な物質が集まった直径10キロほどの天体が、大爆発した星の残骸中に発見されています。この天体はほとんど中性子からできていると考えられ、中性子星と呼ばれています。中性子は陽子とともに原子の中心をしめる原子核を構成している物質です。どちらも大きさや重さはほとんど同じですから、原子核を作っている粒子が密集できれば中性子星内部の超高密状態が生まれることが分かるでしょう。最近、K中間子と呼ぶ粒子が原子核を作る粒子、特に陽子と非常に強く引き合うことが分かって来ました。原子核の中へK中間子を入れるとK中間子に強い吸引力が働いて原子核内の粒子が集まり、通常の原子核内の密度の7〜8倍にも達する超高密物質になると予想されています。実験室でも中性子星内部の超高密状態がつくれるかもしれません。今日はこの5月から始まる陽子加速器関連施設での超高密物質をつくる実験 (E471) について紹介しましょう。



さらさら状態のヘリウムを標的に

今回の実験でK中間子を入れる原子核にはヘリウムが使われます。それは核内に入ったK中間子の振る舞いが理論的に予測できるため、この効果がもっとも強くでる組み合わせとみられるからですが、もう一つ大きな理由はK中間子をヘリウム原子核に入れるために、ヘリウムが示す超流動という性質を巧みに利用して実験が出来ることです。まず実験全体から説明しましょう。ヘリウム原子核に入れてやるK中間子は陽子加速器で加速された陽子を実験施設で金属標的に衝突させ、そこで二次的に作り出される粒子の中に含まれているものを使います。今回の実験は、このニ次粒子中のK中間子をヘリウムの標的に進入させるのです。陽子加速器関連施設の実験で二次粒子を標的にぶつける実験では、標的として気体、液体、固体などの目的に応じて、状態の違う物質が使われています。ところが今回標的とされるヘリウムは沸点が1気圧で−269℃と大変低く、高い圧力を掛けない限り絶対零度(−273.15℃)まで固化することはありません。では液体のヘリウムを標的にするのかと思われますが、実はそうではありません。液体ヘリウムには不思議な状態が存在し、標的に使うときはその不思議な状態のへリウムを使うのです。その状態をつくるには、液体ヘリウムをポンプで減圧して行きます。そうすると液体ヘリウムの温度が下がり、−271℃以下になると、液体としての粘性がなくなり、さらさらした状態が出現するのです。これを超流動状態と呼んでいます。この時、さらさらしたヘリウムの圧力は0.05気圧にまで下がっています。この圧力の低いさらさらヘリウムが実験の標的として理想的な状態なのです。



超流動状態を利用する理由

何故、普通の液体ヘリウムは使われないのでしょうか? 標的として液体ヘリウムを使う場合、断熱真空で囲まれた容器が使われます。液体ヘリウムは1気圧でした。そのためそれを入れておく容器は耐圧1気圧の厚い材料でつくる必要があります。ところが二次粒子中にはK中間子以外にもπ中間子が含まれています。実験目的からは、不必要なπ中間子の影響を出来るだけ少なくすることが重要です。それには標的であるヘリウムの周りの材料を出来るだけ最小にした容器を作る必要があります。超流動状態のへリウムは0.05気圧という耐圧の材料ですむわけですから、薄膜でできた容器でもヘリウムの圧力で変形も小さく実験に使用できる利点があります。超流動状態のヘリウムはさらに熱伝導率が極端に大きく、はなれた場所にある標的を冷却するのにも好都合です。このほか、この状態では実験誤差をもたらす標的内での泡の発生もなくなります。こうした優れた点にありますが、超流動状態のヘリウムにはスーパーリークと呼ばれるこの状態特有の漏れ現象があり、それを標的として使う上での大変難しい技術的な問題も少なくありません。



軽量スリムな容器開発

KEKと理化学研究所、それに東京工業大学の研究グループは、この実験で使う標的容器の開発を行い、最近、冷却テストに成功しました。容器は長さ6cm、直径23.4cmの円筒形で0.6mm厚のアルミ製のフレームと0.075mm厚のマイラシートを接着して作られています。このマイラシートにはあらかじめ片面を荒く表面処理した製図(トレース)用のものを用いることで、低温で十分な接着力を得ていると言います。一方、直径30cmの真空容器は、物質の量を減らすため厚さ1〜2mmの炭素繊維強化プラスティックで作られています。ここでも、これまでより物質の量を十分の一に減らすことができ、実験に不必要な影響を減らす技術革新に成功したと担当者は説明しています。こうして準備した超流動ヘリウムを標的にした実験は9月から本格的に行われます。

今日は加速器で超高密物質を作りだす実験を紹介しました。

※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEK LHe-II Target R&Dのwebページ
http://ishimotopc2.kek.jp/LHeIIT/
→岩崎研(東工大)のwebページ
http://web.nucl.phys.titech.ac.jp/




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 E471実験セットアップ(計画図)
[拡大図(19KB)]
 
 
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 ヘリウムの相平面図
拡大図(8KB)
 
 
 
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 標的(ターゲット)容器写真
拡大写真(11KB)
この容器内に超流動ヘリウム液体が満たされます。容器は直径 23.4 cmで、厚さ 0.6 mm のアルミニウム枠と厚さ0.075 mmのマイラーシートでできています。
 
 
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 クライオスタット全体写真
拡大写真(63KB) 
この写真の真空容器は冷却テスト用で炭素繊維強化プラスティックではなくステンレス製の容器が用いられています。
 
 
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炭素繊維強化プラスティック製の
超流動ヘリウムターゲット用真空容器
拡大写真(11KB) 



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