今年は物理学と化学の二つの部門で、日本人ノーベル賞受賞者が生まれ、日本の科学や技術が国際的に高く評価されていることが印象づけられた年になりました。資源に乏しい日本にとって豊かな国を維持してゆくには、これからも科学や技術が高い水準を保つことがますます必要になっています。今日は、科学や技術の研究開発を、限られた資源のなかでこれまで以上に有機的に進める新しい試みとして、5つの研究機関とKEKを結んで行われたコラボラトリーという研究システムを紹介しましょう。
遠隔操作で行う放射光実験
このシステムは、物質科学の研究開発を進める日本全国に散らばる5つの国立の共同利用機関をネットワークで結び、互いに遠隔地から研究実験や研究開発をできるような関係を作り上げようとしています。今回は、10月23日、岡崎にある岡崎国立共同研究機構の分子科学研究所と、つくば市にあるKEKの物質構造科学研究所の放射光実験施設の実験現場とを結んで、岡崎の研究者が遠隔操作でつくばの実験装置を動かす試みを行いました。
岡崎はつくばから400キロほども離れています。電車でも車でも移動には半日近くかかります。そんな離れた場所から、遠隔操作でつくばの実験装置を細かく操作できたときには、どちらの研究者からも歓声が起きました。実験は、まず、パソコン画面の枠内でお互いに相手の様子を見ながら準備を進めました。これは、言わばテレビ会議風ですから、最近では見慣れた風景かもしれません。
このシステムの売り物は、岡崎のパソコン操作でつくばの実験装置を動かし、つくばのコンピューターを操作して実験データの取り出しや処理まで行えることです。勿論、こうした作業はつくばの研究者と対話しながら行い、場合によっては、つくばの研究者が実験現場で依頼された作業を行いました。こうして放射光実験装置の一部を使った試みは大成功に終わりました。
IT時代の研究システム
今回の二つの研究所を結んだ実験は、データやプログラムなど、大量の情報量を迅速に交換しそれを処理するネットワークと、高性能の計算機システムが使えるようになって可能になりました。IT時代の研究システムとして、今後参加している5つの研究機関で緊密な共同研究体制が生まれる最初の一歩となりました。コラボラトリーは、ラボラトリー(研究所)間の共同研究をより緊密に進める21世紀の新しい研究体制なのです。
これによって、KEKの放射光施設のような特徴ある大型の研究施設を、遠隔にある研究所の研究者がそこから参加し、意見を交換しながら実験研究を行うことが可能になりました。21世紀の新しい科学技術創生に不可欠な学際的共同研究や大型施設を持つ研究所を核にした、多くの研究所からの科学者が参加する大型プロジェクトを効率よく進める研究体制として、大きな期待が集まっています。
コラボラトリー計画に参加しているのは、東北大学金属材料研究所、東京大学物性研究所、岡崎国立共同研究機構・分子科学研究所、京都大学化学研究所、それにKEKの5つの機関。この研究開発は科学研究費補助金(学術創成研究費)で平成13年から5年間行われます。
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ
→東北大学金属材料研究所のwebページ
http://www.imr.tohoku.ac.jp/
→東京大学物性研究所のwebページ
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/
→岡崎国立共同研究機構・分子科学研究所のwebページ
http://www.ims.ac.jp/indexj.html
→京都大学化学研究所のwebページ
http://www.kuicr.kyoto-u.ac.jp/index_J.html
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[図1] |
左枠の上は岡崎、下はKEK側の研究者が画面上で話し合い、右枠の下側の岡崎のパソコン画面での遠隔操作で上枠に表示されたKEKの実験装置を動かすことができる。 |
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[図2] |
岡崎の分子科学研究所での操作風景 |
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[図3] |
KEKの放射光実験施設 |
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[図4] |
回折計を使ったKEKの実験現場 |
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