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   image 世界最小の氷チューブ    2002.10.10
 
〜 炭素分子の管で成型 〜
 
ナノテクノロジーと呼ばれる技術があります。ナノとは10億分の1を指す言葉で、ナノテクノロジーとは10億分の1メートルの物質世界を利用する技術を指しています。こんな極微の世界で物を作るのは容易ではありません。最近、カーボンナノチューブと呼ばれる炭素原子が一層で筒状に連なった分子を鋳型にして、微小な氷の結晶である「アイスナノチューブ」が生まれることが、KEKの加速器を使って発見されました。今日はこのアイスナノチューブの話題を紹介しましょう。
 

日本で発見されたカーボンナノチューブ

カーボンナノチューブは、日本で発見された、炭素が筒状に連なった分子です。炭素というと、木炭の煤や鉛筆の芯に使われている黒鉛、それにダイアモンドがよく知られています。見かけがかなり違いますが、いずれも炭素が分子状に集まった物質です。最近発見されたものにサッカーボール状のものや管状のものがあり、いずれも現在、ナノテクノロジーで大いに注目を集めています。この管状のものがカーボンナノチューブです。
 
今回の研究に使ったのは直径1.35ナノメートルという炭素一層で出来たチューブでした。皆さんが目でみる世界では、小さな物の大きさをミリという単位で測りますが、ナノは百万分の1ミリですから、それがどんなに細い管であるかがわかるでしょう。こんなに細い場所では物質の性質を作り出している無数の分子や原子の動きが非常に限られてしまいますから、そこに閉じ込められた物質は、日常の世界で見られる物質からは想像できない性質を現すと研究者は考えています。自然界で多彩な姿を見せる水ではどうでしょうか?
 
コンピューターシミュレーションで調べられた結果では、水に新しい性質が見られ、氷になると多角形に連なる水分子のチューブが出来るだろうと予測されていました。それを実験で調べ、初めて確認できたのが今回の研究成果です。
 

加速器で捉えたアイスナノチューブ

この研究は、東京都立大学の真庭豊(まにわ・ゆたか)助教授のグループにより、KEKの放射光研究施設・フォトンファクトリーと呼ばれる加速器を用いて行われました。実験は、加速器で作られる強いX線をカーボンナノチューブ内部の水に照射して回折(反射や散乱など)させ、回折されたX線を測定して水の状態を捉えようとしました。このため、先ずはカーボンナノチューブの管の内壁だけに水が吸着するようにして、室温で水蒸気状態の水にカーボンナノチューブをさらして実験を始めました。温度を変えて実験を行った結果、マイナス38℃以下で見事に氷が生まれていることを確認しました。その実験結果を図1に示してあります。カーボンナノチューブの内壁に接した水が液体から氷になると、回折されたX線には氷の結晶固有のピークがいくつか現われます。その様子から氷が出来たことが確認されたのです。
 
それではこのチューブの中の細い氷に果たして穴が通っているのか、気になるところです。これに関しては図2に示したように3つのモデルで計算した予測と実験データをつき合わせて答えが見つかりました。ちゃんと氷のほうも穴があいていました。見事にカーボンナノチューブの中に氷のナノチューブができていたのです(図3)。加速器からの強いX線を使うと、このように物質の内部構造を詳しく調べることができます。そうした実験結果と理論を使い、氷のアイスチューブの分子構造も見事に捉えられています。断面が7角形をしたアイスナノチューブです。 水以外の物質を溶かした場合は何ができるのでしょうか?分子の工作機械としてカーボンナノチューブは使えるかもしれません。ナノテクノロジーの夢は大きく広がっています。
 
この記事の原著論文:
Y. Maniwa et al., Phase Transition in Confined Water Inside Carbon Nanotubes, J. Phys. Soc. Jpn., 71, 2863-2866 (2002).
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[写真1]
KEK放射光研究施設・フォトンファクトリーのビームライン1Bに設置されているX線回折装置。試料にX線を照射し、回折されたX線を検出することにより、物質の精密な構造を知ることができます。
拡大図(33KB)
 
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[図1]
内壁を水にさらしたカーボンナノチューブの温度を変化させたときのX線回折強度の変化。矢印で示したピークは氷の結晶ができていることを示しています。横軸のQは原子面の間隔の逆数で、水分子の原子で構成される特徴的な面間隔に反射(ピーク)が観測されることにより、水が秩序化(=結晶化)していることがわかるのです。
拡大図(20KB)
 
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[図2]
実験によって得られたデータと、シミュレーションから予測された結果を比較することによって、カーボンナノチューブの中の水の構造が推測できます。この実験では、マイナス38℃以下では、モデル3のように、中心から離れた一定の位置に水分子が分布しているチューブ状の構造が実際の実験データに最も近く、氷のナノチューブの存在が明らかになりました。
拡大図(20KB)
 
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[図3]
実験から推測された氷のナノチューブの構造。外側の黒い分子がカーボンナノチューブ(黒い球は炭素原子)、内側の黄色(酸素)と青(水素)の分子が氷のナノチューブです。
拡大図(37KB)
 
 
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