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   image 加速器で探る地球深部    2003.1.16
 
〜 ガーネットは語る 〜
 
大陸移動という言葉を聞いたことがありますか。数億年の時間で地球表面をみると大陸が離合集散して形を変えてきたことが分かります。これは地球表面が10数枚以上ものプレートと呼ばれる岩板に覆われていて、それにのって陸が移動しているためと考えられています。こうしたプレート自体は地下深部のマントルと呼ばれる層の流れに乗って移動しています。日本列島近くでは太平洋の海底をなす海洋プレートが日本列島を乗せたプレートの下に沈み込んでおり、地震や火山活動の源になっていると考えられて います。このようにプレートの沈み込みがどのように起こっているかを探ることは地球科学の重要な研究になっています。(地球の内部構造については注参照)今日は海洋プレートの沈み込みの際、地下深部に持ち込まれるガーネットという鉱物がどのように変化するかをKEKの加速器で調べた最新情報をお話ししましょう。


地球深部を再現して測定

地球内部のマントルは高温で高圧の世界です。そこでは普段私たちが地上で目にしている岩石や鉱物もそこではそのままでは存在できず、より密度の大きい別の構造に変化(相転移)していきます。実際に地球深部まで穴を掘ってそれを観察することは不可能ですが、大型のプレスと小さいダイアモンドを用いて高温高圧状態を再現し、KEKの加速器を使って相転移の様子をその場で観察することができます。

この技術を用いて今回世界で初めて、超高圧下でガーネットが分解する速度が測定されました。ガーネットは真紅色をした宝石で有名です。ザクロ石とも呼ばれていますが、ガーネットは地球内部のマントルを構成する鉱物のひとつです。この鉱物は地球内部の上部マントルと下部マントルの境界付近である深さ約700km(圧力約25万気圧に相当)で複数の相に分解相転移します。その様子を実験的に再現し、分解反応の速度を測定するために、KEK放射光施設に設置されている700トン1軸圧縮プレス(写真1)と焼結ダイアモンド・マルチアンビル高圧装置(写真2)を使って28〜32万気圧、1000〜1300℃の超高圧高温条件を発生させました。

そして加速器で作られた強力なX線を高圧高温下で分解しつつあるガーネットに照射し、回折されたX線パターンの時間変化を観察しました(図1)。これにより地球深部で起こるガーネットの分解相転移の速度を、高圧高温下で直接測定することに成功しました(図2)。

この研究は、東北大学の久保友明助手と大谷栄治教授のグループによって行われ、昨年暮れにイギリスの科学誌「ネイチャー」に発表されました。


ガーネットが語る地球深部

今回の実験結果は、地球深部でのガーネットの運命を知るうえで非常に重要です。地球表面を覆っている海洋プレートは、冷やされて重くなるためにマントル深部に沈み込んでいきますが(日本列島の下にも太平洋プレートが沈み込んでいます)、その海洋プレートの表層部分には特にガーネットが濃集しています。これまでは沈み込んだ冷たいプレートが深さ700km付近の上下マントル境界付近に達したとき、ガーネットがより密な構造に相転移して重くなるので、そこからさらにマントル深部まで沈み込んでいくと考えられていました。しかし今回測定した反応速度の結果をもとに考えると、その分解反応は起こらずに未反応のガーネットが上下マントル境界付近に停留していることが示されました。

深さ700km付近のマントルの温度は1600℃程度ですが、沈み込んだ冷たいプレートの温度は700〜1300℃付近であると見積もられています。そのような温度下ではガーネットの分解反応速度が遅すぎるため、数千万年経過しても反応が充分に進行せず大量の未反応のガーネットが残ってしまうのです(図3)。冷たいプレートは1年間に約10cmの速度で沈み込んでいますから、数千万年もたつと数百km沈み込むことになります。しかし未反応のガーネットは周囲のマントルに比べ軽いため(図4)、マントル深部に沈み込んでいくことができず、上下マントル境界付近で溜まってしまうことになります。

近年、地震波トモグラフィー(地震波による地球内部断面像)により地球深部に沈み込んだプレートの様子を見ることができます。それによると沈み込んだプレートは冷たいにもかかわらず上下マントル境界付近にいったん滞留することがわかってきました。今回の実験結果は、そのような地震学的な観測とも矛盾がありません。このようにKEKでは加速器を使った実験により、地球深部のダイナミックな現象を議論する研究も行われています。

加速器を使って調べるKEKの研究活動は素粒子から地球、生命、宇宙と自然界の多様な世界に及んでいます。今年もその話題を続々お知らせして行くつもりです。ご期待ください。

 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→大谷研のwebページ
http://rance.ganko.tohoku.ac.jp/


(注)
地表から大体33kmまでが地殻、33〜2900kmをマントルと呼びますが、マントルの中にも33〜700kmを上部マントル、700〜2900kmを下部マントルと呼んで区別しており、ここまでが岩石や鉱物で出来ている部分です。さらに2900kmから地球中心までは核とよばれ、鉄を主成分とした金属で出来てい ます。核の内部も2900〜5100kmまでは高温で金属がどろどろに融けた状態の外殻と、更に高い圧力で固体の状態の内核5100〜6370kmとに分けられます。

 
gernet3.gif gernet4.gif
[図3] [図4]
   得られた実験データをもとに、沈み込む冷たいプレート条件下(28万気圧、1330℃、数千万年の時間スケール、結晶粒径1mm)に外挿したときの天然ガーネットの分解相転移速度(点線は誤差を示す)。地球深部に沈み込む冷たいプレート条件下では分解相転移の進行が非常に遅く、未反応のガーネットが大量に存在することが予想されます。
拡大図(11KB)

    地球深部に沈み込むプレート(ガーネットに富むプレート表層部)の密度と地球内部の一般的なマントルの密度の比較。これまでは冷たいプレート内でもガーネットの分解反応が平衡に起こると考えられていました(赤線:平衡反応モデル)。その場合、ガーネットが密度の大きい相に分解してプレートは重くなるために、より地球深部へ沈み込んでいくことができます。しかし今回明らかにされたガーネットの分解相転移速度を考慮すると(青線:未反応モデル)、冷たいプレートが大量の未反応ガーネットのために軽くなり、上下マントル境界付近に滞留してしまうことが予想されます。
拡大図(7KB)
 
 
press.jpg
[写真1]
KEK放射光研究施設・フォトンファクトリーのビームライン14C2に設置されている高温高圧X線回折装置(MAX-III)。高温高圧下の試料に放射光X線を照射し、試料で回折されたX線を検出することにより、高温高圧下での試料の構造変化を直接その場で見ることができます。
拡大写真(41KB)
 
 
dia.jpg
[写真2]
MAX-IIIに組み込む焼結ダイアモンドアンビルを用いた試料アセンブリー。1辺14mm角の焼結ダイアモンドアンビルを8個組み合わせることにより(写真では下の4つのみ示している)、中心の試料部に30万気圧以上の圧力を発生させることができます。
拡大写真(42KB)
 
 
gernet1.gif
[図1]
30.8万気圧、1000℃における合成ガーネットの分解相転移にともなうX線回折パターンの時間変化(2θ=5°)。時間の経過とともにガーネット(gt)のピーク強度が減少し、分解生成相(corやpv)のピーク強度が増加していくことがわかります。
拡大図(22KB)
 
 
gernet2.gif
[図2]
X線回折パターンの時間変化から推定された、ガーネットの分解相転移率の時間変化。より高温条件下では反応速度が速くなることがわかります。また合成ガーネット(結晶粒径3ミクロン)と天然ガーネット(結晶粒径12ミクロン)では化学組成や結晶粒径が異なるため、反応速度にも違いがあらわれています。
拡大図(13KB)
 
 
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