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   image短命な原子核が拓く先端科学    2003.2.6
 
〜 短寿命核実験装置 〜
 
私たちの身の回りにある物質は原子からできています。原子は原子核の周りを電子が取りかこむ構造をしており、原子核は正の電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子が組み合わさってできています。原子核に含まれる陽子の数は水素や酸素などの元素の化学的な性質を決定しており、原子番号と呼ばれます。同じ原子番号を持つ原子核で中性子の数が異なるものをそれぞれ同位体と呼びますが、同位体には安定に存在するものと、安定には存在できずに崩壊して他の原子核へ変化してしまうものがあります(図1)。

地球上には300種類程度の安定な原子核や寿命が宇宙の年齢ほどに長い不安定な原子核が存在します。これら地球上に存在する原子核に加え、6000〜8000種類の原子核の存在が予言されており、これまでに3000種類程度の原子核が確認されています。これらの地球上に存在しない原子核は寿命が大変に短く、その構造や反応自体に関心が持たれているだけでなく、星の進化において重要な役割を果たしていると考えられています。また、こうした短寿命原子核は物質の構造を調べる上で有力な測定法を提供するなど、応用分野でも重要な役割を期待されています。今日は、KEKが日本原子力研究所(JAERI)との共同研究として2001年から5年計画で建設を進めている短寿命核実験施設を紹介します。

短寿命核はこうして作られる

この実験施設は、図のようにタンデム型加速器、オンライン同位体分離装置、荷数増倍用ECRイオン源(チャージ・ブリーダー)、および短寿命核加速用線形加速器から構成されています(図2)。タンデム型加速器で加速された原子核を標的に衝突させ、原子核反応により天然には存在しない短寿命の原子核を生成します。この時、研究の対象とする原子核とは異なる種類の原子核も多数生成されるため、それらの中から目的の短寿命核をオンライン同位体分離装置により取り出します。こうして得られた原子核は電子がたくさんまとわりついた状態(1荷のイオン)であり、このままでは研究に必要なエネルギーまで後段の線形加速器で加速することができません。

そこで荷数増倍用ECRイオン源により短寿命の原子核にまとわりついた電子を剥ぎ取り、より荷数の多いイオンに変換して短寿命核加速用線形加速器により核子(陽子と中性子)1個当たり最大5〜8MeVのエネルギーまで加速して研究に用います(図3)。荷数増倍用ECRイオン源(写真1)および短寿命核加速用線形加速器(写真2)はKEKが独自に開発したもので、高品質な短寿命核ビームを高い効率で生成することができます。このような施設は日本では唯一のものであり、世界的にも最高レベルに位置するもので、ユニークな活躍が期待されています。

短寿命核施設でできること

本施設を用いて行われる研究として、天体核物理、原子核物理、核化学、そして物質科学などの分野があります。それぞれの分野で特徴的なテーマを紹介します。

(1)天体核物理
私たちの身の回りにある物質は100種類程度の元素により構成されていますが、これらの元素はビッグバン後100秒程度の初期宇宙、あるいは恒星内部での燃焼過程および超新星爆発などにより陽子と中性子を材料として合成されたものと考えられています(図4)。この元素合成において原子核は原子番号の小さいものから大きいものへと原子核反応により徐々に成長していきますが、その際に地球上には存在しない不安定な短寿命核を経由すると考えられています。元素合成がどのような経路をたどって行われてきたか、そして恒星がどのように進化して行くのか、それらを解明するためには恒星の内部で行われている原子核反応をひとつひとつ実験室で再現する必要があります。本施設から供給される短寿命核ビームを用いて、超新星爆発での多重中性子捕獲反応(r-過程)、高温天体での急激な水素燃焼過程(rp-過程)、そして恒星内部での陽子捕獲反応(p-過程)やヘリウム捕獲反応(α-過程)に対する系統的な研究を行います。

(2)原子核物理
地上に存在する元素で原子番号のもっとも大きいものはウラン(原子番号92)ですが、それよりも原子番号の大きい元素が原子核反応を用いて実験室で合成されてきました。天然に存在する元素に比べて原子番号が非常に大きく、比較的に安定な元素は超重元素と呼ばれ、現在でもその探索が続けられています。これまでに合成された元素の最大の原子番号は116ですが、これらの原子核は安定な原子核同士の核融合反応により合成されたため、理論的な予測から比較的に安定と考えられている原子核よりも中性子数が少ないものになっています。中性子過剰な短寿命核ビームを用いることにより、本施設ではより安定と考えられる超重元素の合成を目指します(図5)。

また、陽子数と中性子数のバランスが崩れた短寿命核では、陽子や中性子の密度分布が、これまでに安定核で知られてきたものとは異なる様相を示すことが知られています。これらの特異な原子核の構造の解明、そしてそのような核構造が低エネルギーでの核反応に及ぼす効果の研究を本施設により行います。

(3)核化学
元素は周期表に配列されるように一定の周期で化学的な性質の似たものが現れます。それらの化学的な性質が似ている元素の一郡を族と呼びます。元素の化学的な性質は原子核を取り巻く電子により定まるため、同族の元素では原子核の周りの電子の配置が似通っています。ところが同族の元素でも原子番号の大きい元素では原子核をめぐる電子の速度が速く、原子番号の小さい元素ではその速度が遅いという違いがあります。電子の速度が速いと、相対論的効果により電子が重くなるために原子や分子における電子のエネルギー準位に変化が生じ、化学的な性質が異なってきます。本施設では、大強度の重イオンビームが得られる特徴を活かし、この相対論的効果の影響を系統的に解明します。

(4)物質科学
物質中での原子の移動は拡散という形で行われます。このような例はたとえば電池の充電や放電において見られ、物質中でのイオンの拡散を解明することは新素材の開発などに多いに役立つものです。本施設で得られる短寿命核を物質に打ち込み、それから発生する放射線を検出することで、物質の内部構造や動的な性質を高感度で調べることができます。

※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→高エネ機構原子核実験グループのwebページ
http://jkj.tokai.jaeri.go.jp/NuclPart/
ExoticNucl/japanese/jtoppage.htm

→KEK-JAERI 短寿命核実験施設のwebページ
http://jkj.tokai.jaeri.go.jp/NuclPart/
ExoticNucl/JHF/E-index-j.html


 
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[図1]
短寿命核とは
たとえばヘリウムには安定な同位体のヘリウム4とヘリウム3の他に、短寿命核のヘリウム6があります。ヘリウム6はβ崩壊を起こしてリチウム6に変化します。
拡大図(55KB)
 
 
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[図2]
KEK-JAERI短寿命核施設
拡大図(44KB)
 
 
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[図3]
短寿命核の生成と分離
拡大図(112KB)
 
 
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[写真1]
荷数増倍用ECRイオン源
拡大写真(85KB)
 
 
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[写真2]
短寿命核加速用線形加速器
拡大写真(52KB)
 
 
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[図4]
宇宙での元素合成
拡大図(74KB)
 
 
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[図5]
超重元素の合成、
短寿命核の特異な核構造と核反応
拡大図(53KB)
 
 
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