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   image ふしぎな物性の謎を解く光    2003.12.4
 
〜 放射光研究に日本IBM賞 〜
 
日本IBM科学賞という賞をご存知でしょうか? IBMという会社の名前はよく知られていますね。日本IBM株式会社では、基礎科学の振興のため、幅広い分野で優れた研究活動を行っている研究者に「日本IBM科学賞」を授与しています。今年は第17回にあたり、11月はじめに受賞者6名が発表されました。受賞者のひとりである、東北大学大学院理学研究科の村上洋一(むらかみよういち)教授は、KEKの放射光研究施設で行った研究についてこの賞を受賞されています。今日のニュースは、村上教授とその研究についてご紹介します。

電子の強い絆がもたらす物質の性質

私たちがいつも使っているパソコンや最近のビデオレコーダーの内部には磁気ディスクという記憶装置があります。磁気ディスクの内部ではマンガンの酸化物などを塗った円盤が高速で回転していて、いろんな情報を保存したり読み出したりすることができます。この磁気ディスクの情報を読み書きするための読み取りヘッドには、最近、GMR方式という方式が使われています。GMRとは「ジャイアント・マグネティック・レジスタンス」の略で、日本語では巨大磁気抵抗と呼ばれます。これは磁場の中で電気の流れやすさ(抵抗)が大きく変わる性質のことで、この性質をもった物質は情報を高速で読み出すにはぴったりです。

巨大磁気抵抗を持つ物質では、物質を構成する原子の中にある電子が隣の原子の電子と強く結びついた、「強相関」という状態になっています。強相関電子物質は巨大磁気抵抗の他にも高温超伝導や量子ホール効果など、いろいろな面白い性質を持つことがあります。

謎だった電子の軌道の測定

わたしたちの身のまわりに存在するものは、すべて原子によって構成されています。個々の物質の性質を「物性」と呼びますが、物性は、これらの原子の並びかたや原子自身の持つ性質、また原子の中の電子のふるまいによって決まります。上で紹介した、強相関電子物質の不思議な性質も、原子がどのように並んで、その中の電子がどのようにふるまっているかによって決まっているのです。

電子には、電荷・スピン・軌道という3つの基本的な性質があります。このうち、電荷とスピンに関しては、古くからその性質が良く調べられてきました。しかし、軌道を調べる研究手段は、ごく限られていて、大変難しいため、あまり研究がすすんでいませんでした。村上教授は、この電子軌道が、物質の中でどこにどのように存在しているかを調べる新しい研究手段を開発し、強相関物質などの不思議な性質を実験的に解き明かすことに成功しました。

共鳴X線散乱法

X線散乱法は、原子内の多数の電子による散乱によって、物質の構造を知る有力な手段です。しかし、物質のさまざまな性質に重要な役割を演じる、軌道の自由度を担う電子は、原子あたり数個の電子であり、それらの電子軌道の状態を示すX線散乱強度は極めて小さいため、電子軌道の状態を直接探ることは大変困難でした。

村上教授は、X線のエネルギーを変えていったときに、あるエネルギー以上になると電子が軌道の間を飛び移る現象(軌道間遷移といいます)を利用した「共鳴X線散乱法」という測定方法を用いれば、電子軌道の情報がわかるのではないかと考えました。この方法を用いると、電子が飛び移った一番外側の軌道の状態を強く反映した情報が得られるからです。これは、任意のエネルギーのX線を高い強度で取り出すことのできる放射光によってはじめて実現できる実験方法です。

こうして、共鳴X線散乱法で電子軌道のようすを探る研究は、強相関物質などのふしぎな性質をもつ物質の謎を解く有力な方法であることがわかり、今では世界中の多くの放射光施設で広く使われています。磁気ディスクなど、より性能のよい材料を作り出すためにも、この方法で得られた情報が役に立つと考えられます。このような成果が認められたことにより今回の受賞が決定しました。

村上教授は平成6年から13年まで、KEKの放射光研究施設のスタッフでした。平成13年に東北大に移られてからも、放射光のユーザーとして精力的に研究を続けています。放射光を自由に駆使できる環境で研究を行っていたからこそ生まれた成果だと言えるでしょう。

授賞式

授賞式は11月28日(金)に、東京都千代田区の千代田放送会館で行われました。物理・化学・コンピューターサイエンス・エレクトロニクスの4分野から全部で6名の受賞者に、選考委員長の江崎玲於奈氏から賞状が授与されました。その後、受賞者の皆さんの講演会がありました。関係の深い研究者が大勢集まり、受賞を祝うとともに、講演に熱心に耳を傾けていました。


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→放射光研究施設のwebページ
http://pfwww.kek.jp/indexj.html
→日本IBM科学賞のwebページ
http://www-6.ibm.com/jp/company/society/
science/ibm.html

→東北大学村上教授の研究室のwebページ
http://calaf.phys.tohoku.ac.jp/

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[写真1]
KEK放射光研究施設
拡大写真(44KB)
 
 
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[図1]
電荷・スピン・軌道の秩序・無秩序状態。それぞれの状態によって、物質の性質(=物性)が決まる。軌道が異方的な電荷分布を持つということは、決まった方向に電子が飛び移りやすい性質を持つということになる。
拡大図(77KB)
 
 
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[図2]
巨大磁気抵抗物質(La0.5Sr1.5MnO4)の軌道状態。軌道の形から電子がある特定の方向に沿って飛び移りやすい状態(青線と赤線)を研究することができる。
拡大図(62KB)
 
 
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[図3]
巨大磁気抵抗物質(LaMnO3)の共鳴X線散乱強度を軌道秩序モデルで計算した結果。
拡大図(59KB)
 
 
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[写真2]
日本IBM科学賞選考委員長の江崎玲於奈氏から賞状を授与される村上教授。
拡大写真(19KB)
 
 
 
 
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proffice@kek.jp
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