menubar Top Page KEKとは KEKツアー よくある質問 News@KEK キッズサイエンティスト 関連サイト
トップ >> ニュース >> この記事
 
   image 素粒子の周期律表?    2003.9.11
 
〜 ハドロン分光学 〜
 
元素の周期律表

化学の授業で学習するものに「元素の周期律表」というのがあります。これは、元素をその原子番号(原子核の電荷)の順に並べたときに、似たような化学的性質を持った元素が周期的に現れるというものです(図1)。元素の周期律表は、19世紀の後半にロシアの科学者メンデレーエフによって発見され、未発見の元素の性質を予想するのに役立ちました。

メンデレーエフはこれを経験的法則として発見しましたが、現在では、元素の周期律は原子の中にある複数の電子軌道の存在とそれぞれの軌道に入りうる電子の個数の制限などから説明できることがわかっています。

また、原子の中心にある原子核もいくつかの陽子と中性子が集まってできているのですが、原子核の安定性にも、原子核を構成する陽子の個数と中性子の個数による周期律のような規則性があることが、20世紀の中頃にわかりました。

クォークとハドロンの関係

それでは、陽子や中性子などの粒子はどうなっているのでしょうか。陽子や中性子は「ハドロン」と呼ばれる粒子のグループに属していますが、ハドロンは「クォーク」というさらに小さい粒子からできています。現在までに、不確かなものを含めておよそ200種類のハドロンが見つかっています。ハドロンは、物質の構成要素として、原子核とクォークのあいだの階層にあることになります。

ハドロンは「重粒子」と「中間子」の2種類に分けられます。陽子と中性子は、重粒子の仲間です。重粒子はクォーク3個からできており、中間子は、クォーク1個とクォークの反粒子である「反クォーク」1個からできていると考えられています(図2)。これ以外の構成でできているハドロンの可能性例もいくつか報告されていますが、現時点で確立されているものはありません。ハドロン内のクォークなどは、自転や公転のような回転運動をしていると考えられています。

ハドロンの周期律

さて、数多くのハドロンの間にはどのような関係があるのでしょうか。はたして、周期律のようなきれいな規則性があるのでしょうか。構造が簡単な中間子を例にとって紹介しましょう。

中間子は、現在までに100種類以上が報告されていますが、上に述べたように、その大多数はクォーク1個と反クォーク1個からできていると考えられています。しかし、中間子をつくるクォークは5種類(d, u, s, c, b)しかありませんので、この組み合わせだけでは15種類の中間子しか説明できません(注)。図3は、クォーク・反クォークのおのおのの組み合わせでできている中間子の表です。ここでは、それぞれの組み合わせの中で最も質量の小さい中間子のみを取り上げていますが、これ以外にもたくさん中間子が見つかっています。これはどういうことなのでしょうか。

実は、クォークの種類の他にも、互いに回り合っているクォークと反クォークの軌道の大きさや角運動量、クォークと反クォークのスピンの組み合わせなどにいくつかの種類があり、これらの取り方の組み合わせよってもっと多くの種類の中間子ができているらしいのです。このことは、図4(1)のように、uクォークと反dクォークからなる中間子を並べた場合と、図4(2)、(3)のように別の種類のクォーク・反クォークからなる中間子を並べた場合とで、同じようなかたちになることから見いだされます。図3にある中間子は、すべて、主量子数=1、スピン=0、パリティ=−、のものになっています。

図4に示されている質量、スピンなどは、中間子全体としての性質を示す量ですが、これらは内部のクォークと反クォークの状態を反映しているものだと考えられます。それは、元素の周期律表で、アルカリ金属、ハロゲン、希ガスなどといった元素の性質が、原子内の軌道電子の配置を反映したものになっているのと同じようなことです。ハドロンの場合にも、周期律表に対応するものがあると言ってもよいでしょう。

なお、このような表はまだ未完成です。図4だけを見てもそうですが、他のクォーク・反クォークの組み合わせも考えますと、空欄がいたるところに残されています。また、非常に複雑な状況になっていて、たくさん見つかっている中間子のどれがどこに入るのかはっきりわからないところもあります。今後の研究の発展が待たれます。

重粒子の場合は多少複雑になりますが、やはり同じような表を作ることができます。陽子と同じクォークの組み合わせ(u, u, d)になっている重粒子は、不確かなものを含めて40種類以上見つかっていますが、それらの中でいちばん質量の小さいものが陽子です。陽子以外の粒子は短時間でこわれて、最終的には陽子か中性子を含む複数の粒子になります。

ハドロン分光学

いろいろな種類のハドロンを探してその性質を調べ、正体を特定する研究を「ハドロン分光学」と呼んでいます。この用語は、たくさんの種類のハドロンのそれぞれを、異なるエネルギー状態の存在と見なして、原子の発生する輝線スペクトルになぞらえたものです。ハドロン分光学では、個々のハドロンの構造の研究にとどまらず、クォークや反クォークなどを結びつけている「強い力」の性質やその計算方法、新しい種類の粒子の探索などの研究ができます。また、原子核物理学と素粒子物理学をむすぶ役割も果たしています。

ハドロン分光学の研究は、素粒子の基礎的な理論から、様々なモデル計算、多様な実験結果の比較などを必要とするまさに総力戦になります。たくさんの研究成果を検討してひとつひとつ空欄を埋めていく、という地道な研究であると同時に、思わぬ大発見の可能性も秘めています。

KEKにある加速器を用いて行われている実験を含めて、世界の多くの研究者が、いろいろな側面からこのハドロン分光学に関わる研究をしています。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

(注)6番目のクォークであるトップクォーク(t)は、ハドロンを作らない(作るまでにこわれてしまう)と考えられています。また、ここでは、互いに粒子と反粒子の関係にある中間子、たとえば(d, 反u)の組み合わせのものと(u, 反d)の組み合わせのもの、は同じ種類であるとして数えています。
 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→キッズサイエンティスト−やさしい物理教室−陽子・中性子(ハドロン)
http://www.kek.jp/kids/class/hadron/index.html
→キッズサイエンティスト−やさしい物理教室−原子・分子の世界
http://www.kek.jp/kids/class/atom/index.html
→素粒子事典のページ
http://belle.kek.jp/~uehara/pdic/pdic.html

image
[図1]
元素の周期律表。おのおのの枠内の数は原子番号、アルファベットは元素記号。
拡大図(29KB)
 
 
image
[図2]
ハドロンは重粒子と中間子に分類される。ほとんどの場合、重粒子はクォーク3個、中間子はクォーク、反クォークそれぞれ1個ずつからできている。クォークは、ハドロンの中で、自転(スピン)や公転のような運動をしている、と考えられる(アニメ画像)。
 
 
image
[図3]
それぞれのクォーク・反クォークの組み合わせからなる中間子の表。おのおのの組み合わせの中で最も質量の小さいものを示す。色つきの枠内のアルファベットやギリシア文字からなるのが中間子の名前(または記号)で、カッコ内の3〜4桁の数字はMeV(百万電子ボルト)単位で表した粒子のおおよその質量である。薄い水色で示されている部分では、(u, 反u)、(d, 反d)、(s, 反s)の組み合わせが混じり合って3つの中間子(π0, η, η')をつくっている。(b、反b)の組み合わせについては、ηb(1S)中間子は未確認だが、これより質量の大きな中間子の存在が確認されている。
拡大図(17KB)
 
 
image
[図4]
同じクォーク・反クォークの組み合わせになっている中間子の表。用語については下の<用語解説>を参照。色つきの枠内のアルファベットやギリシア文字からなるのが中間子の名前(または記号)で、カッコ内の3〜4桁の数字はMeV(百万電子ボルト)単位で表した粒子のおおよその質量である。Particle Data Group, "Review of Particle Physics" 2002年、2003年版に基づいて作成した。一部の中間子の配置には議論の余地がある。
拡大図(27KB)
 
 
<用語解説>
 
角運動量、
スピン
回転の強さを表す量。素粒子物理学では、自転に対応するものをスピン、公転に対応するものを軌道角運動量と呼んでいる。
パリティある量子力学的状態を空間反転させたとき(鏡に映すことに同じ)に、その状態を表す波動関数の正負の符号の変化の有無を表す。変化しない場合がプラスで、変化する場合がマイナス。
主量子数軌道の半径の大きさに対応する数。
 
 
※ この記事に関するご意見・ご感想などをお寄せください。
 
image
proffice@kek.jp
image