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振動との闘い 2004.6.10 |
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〜 重力波望遠鏡のための冷凍機システム 〜 |
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皆さんは重力波という言葉をご存知でしょうか。1916年にアインシュタイン博士が重力場の方程式からその存在を予言した、空間を伝わる波のことです。重力波はとても弱いと予想されていて、その存在を直接とらえることのできた人はまだいません。 レーザー光を用いてこの重力波をとらえようという実験が欧米や日本で進んでいます。この実験を成功させる鍵となるのは、いかにしてレーザー光を反射させる鏡を静かに冷却させるか、ということです。振動が発生しない冷凍機の極限に挑む、KEKを中心に行なわれている冷凍機システムの開発についてご紹介しましょう。 重力波を直接検出する 重力波の存在は、連星パルサーの周期の変動などから1978年にテイラーなどによって間接的に予測されています。この宇宙から飛んでくる重力波をレーザー干渉計を用いて直接検出する試みが欧米や日本などで進められています。 この干渉計は連星中性子星の合体などで発生すると予想される重力波を検出しようということで「重力波望遠鏡」と呼ばれていますが、普通の望遠鏡とは違って、重力波による空間のわずかな歪みをレーザー光を反射させた時の光の位相のわずかなずれによって検出しようとするものです。 日本では東京大学宇宙線研究所や国立天文台、KEKなどの機関が中心になって、反射鏡を極低温に冷却した長さ3kmの干渉計全体を神岡地下実験施設に設置するLCGT計画を提案し、現在、長さ100mのCLIO(低温レーザー干渉計重力波観測装置)による実証実験の準備を進めています(図1)。 レーザー干渉計の鏡を冷やす 図1のエンド真空タンク2台と、センター真空タンク2台の中には、干渉計を構成するサファイア反射鏡があります。検出感度を高めるため、レーザー光があたって発熱する鏡を冷凍機によって摂氏マイナス253度(約20K)の極低温に冷却します。実際には鏡を吊り下げるサファイア細線の伝熱性能に制限があるので、摂氏マイナス269度(4K)まで冷却できる極低温冷凍機が必要になります(図2)。 課題は振動の克服 極低温冷却というと、液体窒素や液体ヘリウムを用いることが多いのですが、長期間用いられる赤外線センサーや超伝導素子の冷却、医療用のMRI超伝導磁石の冷却などには液体窒素や液体ヘリウムを使わない小型冷凍機が広く用いられています。 しかし、小型冷凍機は圧縮機や切替弁を使うために、振動が発生することが避けられません。重力波検出装置は振動に極めて敏感なので、都会の地表に比べて地面振動が2桁小さい神岡の地下実験施設に設置します。したがって小型冷凍機低温端の振動も神岡地下実験施設の地面振動レベルまで小さくすることが必要なのです。 このため、従来のパルス管冷凍機の低温端における振動を測定し、詳細な解析を行いました。その結果、小型冷凍機の振動は、パルス管や蓄冷器にかかる圧力波による振動(毎秒1回の周期の圧力波に対応した数十ミクロン振幅)と、圧縮機や切替弁などから冷凍機コールドヘッドを通じて伝わる振動であることがわかりました。 4つの新技術で振動を100分の1に この結果をもとに、振動低減のため従来の4Kパルス管冷凍機に4つの新技術を適用しました(図3、図4)。
この低振動パルス管冷凍機システムの低温端で振動測定を行った結果が図5です。減振ステージ低温端での地面に垂直な方向の振動は50ナノメートル程度にまで低減されています。これは従来の冷凍機低温端振動の100分の1以下の値です。 神岡の地面振動と同レベルを達成 さらに完成した低振動パルス管冷凍機システムを神岡地下実験施設に仮設置して運転を行いました。 実際に重力波検出装置が設置される場所での振動測定を行うためです。図6はその時に得られた振動データ(変位密度スペクトル)です。この結果から、低振動パルス管冷凍機システムの振動レベルは、冷凍機運転時においても神岡地下実験施設の地面振動とほぼ同程度であることがわかりました。 この低振動パルス管冷凍機システムは、CLIO実証実験のために合計10セットが今秋から来年始めにかけて神岡地下実験施設に設置される予定です。 この開発はKEK、国立天文台、東京大学宇宙線研究所間の覚書に基づき、KEK、住友重機械工業(株)、東京大学宇宙線研究所、日本大学との共同研究により行なわれています。グループはこの振動解析の研究により、2004年度低温工学協会論文賞を受賞しました。
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