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last update:04/09/17  

   image 1千億個に1つの宝石    2004.9.16
 
        〜 K中間子の稀崩壊に挑むE391a実験 〜
 
 
  宇宙の物質と反物質がなぜ対等に存在しないのか、この謎を解くためのKEKのBファクトリー実験についてはこれまでにも何回かお伝えしてきました。Bファクトリー実験はその名前が示すように、B中間子と反B中間子の組を大量に作り出して、CP対称性の破れを精密に測定しようとする実験です。

CP対称性の破れを探る実験には、この他にK中間子を用いるものがあります。その中でも特に実験が難しいという、特殊な崩壊モードに挑む実験グループE391aについてご紹介しましょう。

世代を超えて

KEKで行われているCP対称性の破れを探る実験といえば、Bファクトリー実験が有名です。しかし1964年に初めてCP対称性の破れが観測された時の実験は、K中間子が用いられていました。

歴史の長いK中間子の実験ですが、その中でも特に難しく、世界中のまだ誰も観測に成功したことのない、非常にまれな崩壊の様子を詳しく調べたい、こんな実験がKEKの陽子加速器を使って進められています。391番目に申請された実験の提案、ということから「E391a実験」と呼ばれています(図1)。

この実験では、長寿命の中性K中間子(KL0)を大量に作り出して、それが中性のπ中間子(π0)と二つのニュートリノ(ν)へ崩壊する様子をとらえようとしています。K中間子の中に含まれているストレンジ(s)クォークが一時的に第三世代のトップ(t)クォークとWボソンの組に変化し、第一世代のダウン(d)クォークになる、という転移が中心的な役割を果たすと考えられている崩壊様式です(図2)。

この世代を超えた転移の性質はまだ正確には分かっていないので、きちんと測定するのは重要なことです。最も重いクォークであるトップクォークからの転移を測るということは、その他の重い粒子、例えば超対称粒子などがもし存在すれば、その影響が現れやすいということでもあります。

精度をより高く

通常、クォークの転移をK中間子やπ中間子などのハドロン粒子(クォークの複合体)を通して見ようとする時には、クォーク間の強い相互作用を考慮して補正をする必要があります。一般的に、この補正の計算は極めて困難で、大きな誤差が残ります。

ところが、E391a実験が狙っている反応過程には、K中間子がπ中間子と電子とニュートリノに崩壊するという、反応のプロセスのよく似た過程があって、それとの比を取ることで、ハドロン粒子の補正の誤差を相殺した精度の良い実験を行うことができます。

この過程で現れるプロセスは、Bファクトリーと同様で、その意味ではBファクトリーで現在進められている実験と相補的な役割をもつ実験であるということもできます。

稀な崩壊事象

この中性K中間子から中性π中間子と二つのニュートリノへの崩壊は、予測される分岐比が1千億分の1という小さい値で、非常に稀にしか起こらないと予測されている現象です。しかも、関係する粒子が全て中性で容易に検出できないため、難しい実験になります。そのために、長らく測定の重要性が指摘されてきたにもかかわらず、専用の実験が行われてきませんでした。

中性K中間子から中性π中間子と二つのニュートリノへの崩壊で出てくる中性π中間子と2つのニュートリノのうち、中性π中間子は即座に2つの光子に崩壊します。2つのニュートリノは測定器の中では捕まらないので、この崩壊の決定は、結局2つの光子を測定し、その他には何もないことを確認することによって行います。その際、予想される様々な「偽の事象」を落とすために、E391aでは次のような工夫を加えました。

1. ビームを出来るだけ細く絞って、中性π中間子がビーム軸に対して角度をもって出ていることを検知出来るようにする。
2.中性K中間子の崩壊であらわれるニュートリノ以外の全ての粒子を検出できるカロリメーターという測定器で測定領域を完全に囲み、他には粒子が何も無いことを保証する。
3.ビームが物質と当たることで余分な中性π中間子を作らない様に、測定領域を高真空化する。

これらの工夫の結果、図1のように、総重量が100トンを超える測定器を中心軸上にビーム通過用の小さな穴があいた円筒形に配置し、それらの大半を大型真空容器内に設置するというものになりました。

J-PARCでの実験に向けて

E391a実験では、これまでKEKで行われた他の実験で使われた資材を大いにリサイクルしましたが、ビームライン作りに約2年、測定装置の製作に約3年の期間がかかりました。図5は昨年(2003年)暮れの円筒部(主バレル)設置の時の記念写真です。そして、今年(2004年)1月に準備が整い、2月から6月に初めてのデータ採取を行いました。まだデータ解析の途中ですが、第一の目標の百億分の1台の感度が得られそうです。

実は、この実験がとても難しいので、実験グループでは段階を踏んで進めようとしています。現在この中性K中間子から中性π中間子と二つのニュートリノへの崩壊の分岐比については、米国のフェルミ国立加速器研究所での実験の副産物として1千万分の1台という上限値が得られています。現存するKEKの陽子加速器を使ったE391a実験では百億分の1台、その経験を元に、現在日本原子力研究所の東海研究所に建設中のJ-PARCの50GeV陽子加速器を使って十兆分の1台を達成しようとしています。それぞれの段階で、おおよそ3桁ごとの感度増を果たそうというわけです。

E391a実験には5カ国の11機関から約60人のメンバーが参加しています。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEK-PS E391a実験のwebページ(英語)
  http://www-ps.kek.jp/e391/

 
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[図1]
E391a実験用測定装置
拡大図(37KB)
 
 
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[図2]
長寿命の中性K中間子(KL0)が中性のπ中間子(π0)と二つのニュートリノ(ν)へ崩壊する際に起きる反応。K中間子の中に含まれているストレンジ(s)クォークが一時的にトップ(t)クォークとWボソンの組に変化し、ダウン(d)クォークになる。
拡大図(10KB)
 
 
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[図3]
測定器内部で中性K中間子(KL0)がπ中間子(π0)と二つのニュートリノ(ν)へ崩壊し、π中間子はさらに二つの光子(γ)に崩壊する。
拡大図(41KB)
 
 
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[図4]
測定器円筒部(主バレル)に端部を組み込む。
拡大図上(54KB)
拡大図下(50KB)
 
 
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[図5]
主バレル設置記念の写真
拡大図(59KB)
 
 
 
 

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