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last update:05/02/24  

   image 金箔で測る中性子    2005.2.24
 
        〜 高感度イメージングプレートで放射線管理 〜
 
 
  KEK物質構造科学研究所では、中性子などを用いた物質の構造の解析などが行われていることはこれまでにもお伝えしました。高エネルギーの中性子は物質を透過する力が強いため、放射線防護の点からは加速器運転中に生じる中性子を正しく遮蔽して実験を行う必要があります。

KEKの放射線科学センターでは、高感度なイメージングプレートと中性子に敏感な金箔を組み合わせた測定方法を開発しました。

加速器運転中の中性子を調べる

加速器室内では中性子が発生しますが、中性子はエネルギーが高くなればなるほど透過力が増すため、その挙動を調べることは、遮蔽の設計や室内の放射化、作業者の被ばく、周辺への影響の考慮など、放射線安全管理上非常に重要です。

中性子を測るには専用のサーベイメータやモニタリングポストはありますが、非常に多数の測定を行うのには向いていませんし、運転中には加速器室内には立ち入りできません。

放射線科学センターでは建設中の大強度陽子加速器施設(J-PARC)の遮蔽設計、安全管理に役立てるために、物質構造科学研究所のミュオン科学研究施設、中性子科学研究施設、素粒子原子核研究所のビームチャンネルグループの協力のもとにいくつかの測定を行ってきました。

複数の金箔の放射能を同時検出

この測定では、金箔が熱中性子を捕獲するとAu-198という放射性核種を生成する性質を利用します。金箔を小さく切ったものを測定したい場所にたくさん設置し、加速器の運転終了後に回収した金箔を図面上の測定ポイントに貼ってイメージングプレートと重ね、全部の金箔の放射能を一度に検出してみることにしました。

イメージングプレートとはプラスチックのフィルムの上に特殊な蛍光体(輝尽性蛍光体)が塗布されているものです。蛍光体に放射線があたると電子が励起されます。次に可視光線をあてると、電子が励起状態から開放され、その際に蛍光が出るというしくみです。

市販の装置ではヘリウム・ネオンレーザー(波長633ナノメートル)の光で刺激し、390ナノメートルの発光を検出しています。この発光を計測すると、その強度は放射線の強度に比例しており、イメージングプレートをレーザービームでスキャンすると放射線の強度分布が分かることになります。

金箔の放射能を測るといっても、その放射能はごく微量ですから測定には時間がかかります。Au-198の半減期は約3日ですから、弱い放射能を長時間測定していると、たくさん測定することはできません。イメージングプレートを使えば何個でも全く同じ条件で同時に測定できることになり、データの処理が簡単になります。

このイメージングプレートは日本の富士写真フィルムで開発されたもので、通常のX線フィルムにかわって利用されるようになってきました。X線フィルムにくらべて、感度が約3桁も高い、線量に対して直線性が良い、デジタルデータとして求められる、化学処理不要、再利用可能などの良い特徴があります。また、放射性同位元素から放射されるα線、β線、γ線にも感度を有するため、放射能の分布を調べる事にも利用されています。既に、様々な動植物や岩石試料などの中の自然放射能の分布の画像が得られています。

図面と重ねて空間的なイメージを掴む

図1はミュオン科学研究施設第2実験室でミュオン標的上部の遮蔽コンクリートからの中性子の透過を調べたものです。1週間の運転中各所に設置した金箔を回収し、図面の設置箇所に貼ってあります。この図とイメージングプレートを一定時間重ねて、得られた画像が図2です。図3は中性子サーベイメータでの値とイメージングプレートでのシグナル強度を比較したものです。直線関係が得られ、実験室内の管理レベルである毎時20マイクロシーベルトの約半分の中性子線量率まで測定できることが分かりました。

中性子科学研究施設(KENS)の遮蔽体内部での中性子の拡がりや減衰の様子を調べたものが図4です。通常の検出器ではとても検出できないような微弱放射能まで検出できています。また、コンピュータのシュミレーションで計算した結果(図5)が実験で得られた値と良く一致しており、遮蔽の計算に利用できることを確かめることもできました。

放射線の漏洩をふせぐために、加速器室への通路は迷路構造になっています。運転中通路へは人は立ち入れませんので、これまで詳細な測定は行われてきませんでした。同様の方法を用いてニュートリノ実験のビームラインへアクセスする通路の迷路構造の効果を調べた実験結果が図6です。この図では変化が見やすいように、ビームライン近いところから出口まで色を赤から青へと変化させたものです。迷路の入口から出口までに放射線が数万分の一にまで減衰していく様子が分かります。

このようなデータが今後の迷路設計にも活かされることが期待されます。このように、画像として得ることのできるイメージングプレートは放射線の管理や安全の研究にも役立っています。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→富士写真フィルムのwebページ
  http://www.fujifilm.co.jp/bio/si_imgplate/imgplate.html
→環境科学技術研究所のwebページ
  http://www.ies.or.jp/
→環境科学技術研究所のイメージングプレートのページ
  http://www.ies.or.jp/japanese/mini/ri_ip_top.html
→イメージングプレートによる放射線画像に関するwebページ
  http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/
    member/synopsis/040080.html
→社団法人日本アイソトープ協会のイメージングプレートによる
  極微量放射能分布の測定のwebページ
  http://www.jrias.or.jp/public/bukai/rlg/10/10.html
→放射線利用振興協会の放射化箔とイメージングプレートを
  利用する中性子空間分布の測定のwebページ
  http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/
    member/synopsis/040243.html

 
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[図1]
ミュオン科学研究施設第2実験室内の遮蔽コンクリートから回収した金箔を図面に貼って、イメージングプレート(IP)カセットに置いたところ。
拡大図(47KB)
 
 
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[図2]
ミュオン科学研究施設第2実験室に設置した金箔から得られたIP画像。
拡大図(61KB)
 
 
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[図3]
中性子サーべメータでの値とIPでのシグナル強度を比較したもの。
拡大図(67KB)
 
 
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[図4]
上の図は中性子散乱実験施設(KENS)の遮蔽体断面図と金箔の設置箇所。下の図はKENSから回収した金箔のIP画像。上はIPで5分間コンタクトさせて得られた画像、下は弱い放射能を検出するため18時間コンタクトさせたもの。
拡大図(75KB)
 
 
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[図5]
加速陽子(マイクロクーロン)当りに規格化した中性子の反応率の遮蔽体内での変化とMARSコードシミュレーション結果との比較。
拡大図(42KB)
 
 
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[図6]
ニュートリノビームラインでの迷路の効果の検証実験結果。数字はイメージングプレートから読み取った任意の単位ですので、放射線量ではありません。
拡大図(42KB)
 
 
 
 

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