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last update:05/07/21  

   image ダークエネルギーの証拠    2005.7.21
 
        〜 超新星から見る宇宙加速 〜
 
 
  宇宙には“ダークエネルギー”が満ち満ちている。そう聞くと、映画「スターウォーズ」を思い浮かべる方も多いかもしれません。ダークとは見えない、検出できない、という意味で使われていますが、その正体もまさに“見えず”、まだよくわかっていません。今、天文学や宇宙物理学の分野では、ダークエネルギーがあると仮定しなければ説明のできない事柄が見つかり、その存在が次第に明らかになってきました。

宇宙が膨張していることは、よく知られています。約10年前までは、宇宙は減速しながら膨張していると考えられていました。宇宙の中の物質が、膨張を止める引力になると考えられていたためです。しかし最近になって、宇宙の膨張が約50億年前を境に、減速膨張から加速膨張に転じたことがわかったのです(図1)。これを説明するにはダークエネルギーの存在が不可欠です。天文学からわかるダークエネルギーの最新事情について、東京大学天文学教育研究センターの土居守助教授にお話を伺いました。

銀河1個分の明るさ、Ia型超新星

宇宙の膨張速度は、いつ、どのように変化したのでしょうか。この問題を調べるためには、近傍の星から遠くの星まで、様々な距離の星を観測することが必要です。いろいろな距離にある星を観察することは、それぞれの距離に応じた過去をみることに相当するからです。

この観測のために使われるのが“Ia型超新星”です(図2)。Ia型超新星は、軽い星が燃えた後にできる白色矮星からできます。白色矮星が、もうひとつの星と互いの周りを周回する連星だった場合、自分のまわりにガスを取り込み、太陽質量の1.4倍になると超新星爆発を起こしIa型超新星になります。

「Ia型の超新星は他の星に比べて非常に明るく、遠くまで精度よく明るさを測定できます」

土居先生はこう説明します。場合によっては、銀河一個の明るさにも匹敵するIa型超新星は、他の星では不可能だった、約5000万光年から90億光年先を観測することができるのです。

非常に明るい、という他にも、Ia型超新星ならではの特徴があります。それは、最も明るくなるときの明るさが、ほぼ一定であることです。超新星は、爆発時に急に明るくなり、その後は時間が経つにつれ、しだいに暗くなります。星が最も明るくなった瞬間を観測するのは難しいですが、時間に対してどれくらいの速度で暗くなるか観測することで、最も明るいときの明るさを誤差10%程度で計算することができます(図3)。この性質を利用して宇宙の膨張速度を知ることができるのです。

膨張加速か減速加速か

ではIa型超新星を使って、どのように宇宙の膨張速度を測るのでしょうか。
20世紀前半、天文学者のエドウィン・ハッブルは宇宙が膨張していることを発見しました。彼は銀河の光の波長分布が、全て赤い方向に動いていることに気づいたのです(赤方偏移)。これは、銀河の光が、宇宙の膨張によって引き伸ばされたことを示しています。

さて、Ia型の超新星は明るさがほぼ一定です。宇宙が一定の速度で膨張している場合、ある赤方偏移(宇宙の大きさ)に対して、Ia型超新星の見かけの明るさは予測できます。では、宇宙が加速・減速膨張している場合ではどうでしょうか。この場合、見かけの明るさが一定膨張の場合と異なります。これは直感的に、図4のように説明することができます。

「宇宙が加速膨張している場合を考えると、ある宇宙の大きさ(赤方偏移)に対して、Ia型超新星の見かけの明るさは一定膨張の場合と比べて暗くなります。減速膨張しているときには、逆のことが言えます」

土居先生のグループはIa型超新星を観測することで、赤方偏移の大きさと星の明るさの関係を調べています。しかし、この議論をする前に気をつけなければならないことがあります。それは、宇宙の中に何がどれくらい入っているか、ということです。それによって見かけの明るさも違ってくるからです。

宇宙背景放射のゆらぎの観測結果から(WMAP、図5)、遠い像を見るときに宇宙は凸レンズにも凹レンズにもなっておらず、宇宙は“平坦”であることがわかっています。これは、宇宙の密度を示すパラメーターΩ(オメガ)が、1であることと同じことです。Ωは物質由来だと考えられていました。しかし物質だけでは、まだ見つかっていないダークマター(暗黒物質)を合わせても0.3にしかならないことが、WMAPの観測から示されています。つまりあと0.7が、何か別のものから来ていると考えなければつじつまが合わないのです。

見えてきたダークエネルギーの証拠

このΩの残りの値、0.7を説明する候補として“ダークエネルギー”の存在が指摘されています。ダークエネルギーの正体はまだよくわかっていませんが、宇宙膨張によらず密度が一定で宇宙を加速膨張させるエネルギーをもっています。

Ia型超新星の観測結果も、ダークエネルギーの存在を示唆しています。図6(下)では、ΩMが0.25、ダークエネルギーの存在を仮定し、その値をΩΛ=0.75とした場合が緑色の線で示されています。データはこの曲線とよくあっています。モデルと比較することによって、データは、過去は減速膨張していた宇宙が、50億年ほど前から加速膨張に転じたことを示しているのです。図7では、データは必ずしも平坦な宇宙(Ω=ΩM+ΩΛ=1)と一致せず、これからの精密測定が期待されています。

「今後は、加速膨張していると思われる近傍の星、さらに減速膨張していると思われる遠く離れた星両方を観測し、例えばダークエネルギーに時間変化が起きているのか、などを調べていきたいと思います」土居先生はこう考えています。

今後の研究の焦点は、近傍から遠方までいかにたくさんのIa型超新星を発見し、塵などによる影響を考慮しながら精度よく明るさを測定するか、にかかっています。いくつかの研究グループがしのぎを削るなか、日本でも野心的な計画が進んでいます。7月6日、理化学研究所と国立天文台は、レーザーを夜空に照射してつくる“人工の星”実験を公開しました。星を観測する前に、人工の星を観測することで、空気による揺らぎ成分を取り除くのです。これによって地上にあるすばる望遠鏡が、宇宙にあるハッブル望遠鏡より、精度よく星を観測することが可能になるのです。

ダークエネルギーのナゾは、これからどうやって解明されていくのでしょうか。最後に土居先生に伺いました。

「ダークエネルギーの謎は、本当に新しい問題で、空間と時間に関係した新たな自然法則への手がかりにつながる可能性があると考えています。しかしまだ情報が非常に少ないので、基礎データを集めることろから地道に行う必要があると思っています」

(サイエンスライター  横山広美)



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→東京大学天文学教育研究センター土居守助教授のwebページ
  http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/~doi/index-j.html
→国立天文台すばる望遠鏡のwebページ
  http://www.naoj.org/j_index.html

 
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[図1]
宇宙膨張の歴史(強調して描いてある)。約50億年前に、宇宙は減速膨張から加速膨張になった。
拡大図(16KB)
 
 
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[図2]
image東大宇宙線研究所 安田直樹助教授ら
Ia型超新星の明るさの変化。下の写真は、10月1日の写真に写っている超新星以外の星をさし引いたもの。超新星が急に明るくなり、その後しだいに暗くなる様子がわかる。
拡大図(78KB)
 
 
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[図3]
imageすばる望遠鏡高赤方偏移超新星観測グループ・Supernova Cosmology Project
Ia型超新星の光度曲線。縦軸は明るさ(最も明るく輝いたときを1)、横軸は日数(最も明るいときを0)。最も明るく輝いたときの真の明るさが一定ならば、観測した明るさから超新星までの距離がわかる。
拡大図(27KB)
 
 
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[図4]
ある一定の赤方偏移の大きさ(図中、黄色の直線)に対し、加速膨張する宇宙では星が遠くに(暗く)見える。逆に、減速膨張している宇宙では、星が近くに(明るく)見える。
拡大図(26KB)
 
 
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[図5]画像提供:NASA/WMAP Science Team
WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)によって撮られた宇宙背景放射の温度分布。色の違いは温度のムラを表すが、その差は10万分の一しかない。宇宙空間は光に対して、凸レンズにも凹レンズにもなっておらず、「平坦」であることがわかった。
拡大図(84KB)
 
 
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[図6]
(上):縦軸はIa型超新星の明るさ、横軸は赤方偏移の値。
(下):縦軸は宇宙が空だった場合の明るさを0にしている。横軸は赤方偏移の値。データ(赤丸)はΩM=0.25、ΩΛ=0.75のモデル(緑の曲線)と一致がよい。
(Knop et al. 2003, Astrophysical Journal,598, 102より)
拡大図(24KB)
 
 
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[図7]
宇宙の平坦度は質量由来のΩMとダークエネルギー由来のΩΛの和であらわされ、観測の結果、宇宙が平坦であることから、Ω=1となる(図中の「平坦な宇宙」)。黄色の楕円はIa型超新星の観測結果(内側から測定確度がそれぞれ68%, 90%, 95%, 99%)で、平坦な宇宙と必ずしも一致していない。これからの精密測定が期待される。
引用:Knop et al. 2003, Astrophysical Journal, 598, 102
拡大図(31KB)
 
 
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[図8]image国立天文台
(左)“人工の星”をレーザーで創る。(右)シミュレーション結果。左が空気による揺らぎ成分がある通常の画像、右は補償光学系で揺らぎ成分を実時間補正した場合の画像。
拡大図(32KB)
 
 
 
 
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