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未来のフォトンファクトリー 2006.4.27 |
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〜 ERL計画推進室がスタート 〜 |
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加速器から生まれる明るい光、放射光は、今ではさまざまな分野の研究になくてはならない道具となっています。このニュースで紹介したものだけでも、タンパク質、コンピュータのメモリ、セラミックス、カーボンナノチューブ、フラーレン、植物、合金など、さまざまな物質の構造や機能を解き明かし、新しい物質を創るための有用な情報を生み出しています。また、新しい医学用画像診断法も開発され、これまでにはよく見えなかった病巣や組織を鮮明に見ることができるようになってきました。 今まで見えなかったものが見えるようになり、物質や生命の謎がだんだん解けるようになると、研究者たちは、まだ見えないものをなんとかして見たいと思うようになります。今日は、そういった研究者の探究心にこたえる新しい「光」を生み出す加速器、未来のフォトンファクトリーのお話です。 夢の光の追求 フォトンファクトリーは1982年に最初の光を発生してから現在までの24年間、物質科学や生命科学に大きな貢献をしてきました。これまで3回にわたって大きな改造を行ない、輝度、ビームの安定性や寿命といった性能の向上を図り、他の施設に対する競争力を保つ努力を続けています。年間3000人近い研究者がフォトンファクトリーの光を使うためにKEKにやってきます。 しかし科学の発展にともない、今まで見えないものを見えるようにする、よりすぐれた性質の光が求められるようになってきました。放射光は高輝度でパルス状の光ですが、もっとナノ領域の構造を見たい、もっと速い化学反応や相転移を直接捉えたい、などの要求にこたえるには、さらに輝度が高くてパルスの短い光が必要になります(図1)。また、レーザーのように位相(波の山と谷の場所)がそろった(コヒーレンスな)光をX線の領域で得ることができれば、新しい研究が飛躍的に発展すると考えられています。 こういった研究者の夢を実現するための未来のフォトンファクトリーは、1997年ごろから検討が始まりました。21世紀に入り、超伝導加速空洞などの加速器技術の発展により、先端的な光を生み出す次世代の光源加速器が現実味を帯びてきました。これにともない光を利用する研究者からも、未来の光源加速器を求める声が高まってきました。 そこでKEKでは研究者の要求をふまえて未来のフォトンファクトリーを検討するための委員会を2005年度に発足することにしました。この委員会には他の大学や研究機関の研究者も大勢集まり、加速器の専門家たちによる光源検討ワーキンググループ、利用研究を行なう研究者の利用研究検討ワーキンググループの2つに分かれて、本格的な検討が始まりました。半年近く議論を重ねた末、未来のフォトンファクトリーにはERLという技術を用いた光源加速器を採用すべきであることが2005年9月に宣言されました(図2)。 この委員会の報告書には次のように書かれています。
つまり、未来のフォトンファクトリーは、これまでに見えなかったものを見えるようにするという役割はもちろんのこと、多くの研究者の要求にタイムリーに答えられるようなものでなければならない、ということです。この選ばれたERLとはどのような加速器なのでしょうか。 ERL−リング型の軌道をもつ線形加速器 まず現在の光源加速器について見てみましょう。フォトンファクトリーをはじめ、現在世界中で使われている放射光はリング型の光源加速器です。リング型の加速器では電子が軌道を何度も周回するうちに、電子ビームが「ぼけ」てくるため、輝度を小さくしたりパルスの長さを短くしたりするのは限界があります。これに対して、直線型の線形加速器(リニアック)では、最初の電子銃の性能が輝度やパルス幅を決めます。したがって、より高輝度、より短パルスの光を生み出す未来の光源加速器はリニアックを基本にしたものであるべきと考えられていました。 そのひとつの技術としてX線領域の自由電子レーザーがあります。現在、米国のSLAC、ドイツのDESY、日本の理化学研究所で開発がすすめられています。これは名前のとおりX線領域のレーザーで、非常に明るく、短いパルスで、空間的にも時間的にもコヒーレンスの高い光を生み出します。 ERLはもうひとつの有望な将来の光源加速器です(図3)。ERLとはエネルギー回収型リニアック(Energy Recovery Linac)の略で、リニアックから出た電子ビームを1回だけ円形の軌道で周回させ、再度線形加速器に戻すときに加速時と180度ずれた位相(波の山と谷が打ち消しあう場所)になるようにして減速させます。このときに電子の持っていたエネルギーは回収されて次の電子の加速に使われるので、エネルギー回収型と呼ばれています。電子は長円形の軌道を走るので、今のリング型の放射光とよく似ていて、同じように多くのビームラインを作ることができます。しかし、放射光と違って電子ビームが軌道をまわるのは1回だけなので、ビームがぼけることはなく、高輝度と短パルスが実現できます。非常に輝度の高い光なので、レーザーに近い光を得ることができます。いわば線形加速器とリング型加速器の利点をあわせ持った加速器といえます。 ERLはピーク輝度という点ではX線自由電子レーザーに劣りますが、多数のビームラインに高輝度・短パルスという先端的な光を供給できるので、物質・生命科学の高度かつ多様なニーズに対応することが可能です。こういった特徴が、未来のフォトンファクトリーとしてふさわしい加速器であると、多くの研究者に支持されました。 オープンな組織で開発をすすめる ERLはまだ将来の技術であり、現在では赤外や可視光といったエネルギーの低い小規模な装置しか実現していません。X線領域のエネルギーの高い光を発生する50億電子ボルト(5GeV)程度のエネルギーのERLを実現するためには、まだまだ開発しなければいけない技術がたくさんあります。こういった新しい技術の可能性を探るためには、まず最初の一歩としてERLの原理を実証するための2億電子ボルト(200MeV)程度の小型加速器の設計が必要です。約25mの超伝導加速器を導入すれば、その様な原理実証加速器となるであろうことがすでに検討されています(図4)。しかし、さらに詳しい加速器技術の開発はこれからの大きな課題です。 そのような開発・検討を効率よく進めるために、KEKでは今年度の初めから「ERL推進室」を発足させました。河田洋(かわた・ひろし)教授を室長とするこの推進室は、メンバーをあえて固定せず、コーディネーターと呼ばれる研究者を中心にオープンな組織をつくっています。コーディネーターは、2名のKEKの研究者に加え、日本原子力機構と東大物性研からそれぞれ1名ずつという組織になっています。現在、要素技術の開発・検討を行なうワーキンググループの集合体であるERLプロジェクトチームが組織され、具体的な検討作業がすでに開始されています(図5)。
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