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last update:06/010/05  

   image 超小型加速器をめざす    2006.10.5
 
        〜 レーザープラズマ加速の最近の展開 〜
 
 
  「物質の究極の姿を見てみたい」あるいは「宇宙の始まりの瞬間の謎に迫りたい」という、人類のあくなき探究心は、加速器を用いた基礎研究の原動力となっています。より高いエネルギー領域の研究のために加速器はどんどんと大型化してきました。その一方で、加速のための技術を小型化し、机の上に乗るような超小型加速器を開発する研究も進められています。

大出力のレーザーを使った超小型加速器の開発については以前にもこのニュースでお伝えしましたが、ここ数年、世界中でどんどん新しい成果が得られるようになってきました。日本におけるレーザー加速技術の代表的研究者であるKEKの中島一久助教授にお話をうかがいました。

実用化に近づいた単色ビーム

現在、高エネルギー加速器として普及している高周波加速器では、電磁波(マイクロ波)にタイミングよく電子やイオンを入射して、波乗りのように加速を行います。そのためにクライストロンを用いて大出力のマイクロ波を発生し、加速空洞を励振させています。これに対し、レーザープラズマ加速では、数十フェムト秒(数百兆分の1秒)程度のパルス長の高強度レーザーをプラズマ(ヘリウムなどのガスジェット)に集光させ、振幅の大きなプラズマ波(ウェーク場)を励起します。

最近発達した3次元計算機シミュレーションによって、プラズマ中に発生するウェーク場は大きさ数10ミクロンの球状バブル(泡)構造をしていることがわかってきました(図1)。内部の加速電場は1メートルあたり約1兆電子ボルトもあり、従来の高周波加速器と比べて1万倍ほど強いことが確かめられています。このため「超小型加速器」あるいは「卓上加速器」として期待されていますが、実用には多くの課題も残っています。

そのひとつは電子のエネルギーがそろった「単色ビーム」の発生です。プラズマ加速器も高周波加速器と同様に、加速する粒子をプラズマがつくる波にうまく乗せてあげる必要があります。マイクロ波の波長が10cm程度であるのに対し、レーザープラズマ加速ではこの波長が10ミクロン程度と非常に短く、これまでは高品質のビームをつくることが不可能でした。プラズマの背景電子をプラズマ波に入射する制御技術も未発達であったため、100%のエネルギー幅をもってしまうというのが2年前に学術誌「ネイチャー」に論文が発表されるまでの状況でした。

ここ数年、英米仏の3つの研究グループと、日本では産業技術総合研究所のグループが研究を進め、エネルギーの幅が数%程度の単色電子ビームを発生させることに成功しました。その原理はいまだに十分解明されているといえませんが、外部からとくに制御らしいことをしなくても、プラズマの泡が高エネルギー電子を自ら入射するという、一種の自己組織化とも考えられるおもしろい現象です。

この成功に刺激を受け、世界中で10以上の研究グループが単色高品質ビームの発生実験を進め、追試に成功しています。それらの成果は昨年12月に台湾大学とKEKの共催で行われた「ICFAレーザープラズマ加速器とレーザービーム相互作用」ワークショップで報告されました。これには日本以外にアジアでは韓国、台湾、中国のほか、ドイツ、スウェーデンなどが新たに研究の仲間入りをし、ビームの単色性や安定性において優れた結果が得らるようになりました。

KEKでもほぼ同時期に、電力中央研究所や日本原子力研究開発機構との共同研究により、単色ビームの発生に成功しました。最近では中国との共同実験で200兆ワットのレーザーを用いた単色ビーム発生にも成功しています。

数十億電子ボルトのビーム加速でも成功

単色ビーム加速の成功によって加速器の仲間入りを果たしたともいえるレーザープラズマ加速器ですが、高エネルギー化ひいてはエネルギーフロンティアをめざす研究は欠かせません。現在は数mmの長さに限定されている加速距離を、超高加速勾配というレーザープラズマ加速の特徴を失うことなく、1cm以上に長くする技術の開発が必要なのです。

このため「プラズマチャンネル」あるいは「プラズマ導波路」と呼ばれる技術を用います。レーザー光をちょうど光ファイバーのように閉じ込め、誘導するような密度構造をもった細長いプラズマをつくる装置です。

プラズマチャンネルをつくる方法は、いろいろ提案されていますが、KEKでは、最も長いチャネルを安定に簡単につくることができる方法として、「キャピラリー放電型プラズマチャンネル」をヘブライ大学との共同研究で開発しました。

図2は長さが4cmのプラズマチャンネルです。直径25mmのアクリル円筒の中心に直径0.5mmの孔をあけたチューブの両端の電極に、1〜2万ボルトの高電圧をかけて放電させ、プラズマチャンネルをつくります。安定したタイミングでプラズマをつくるため、誘導レーザーとは別のレーザーパルスをプラズマの点火に使う方法を開発しました。

点火から適当なタイミングでレーザーパルスが伝播するとき図1に示すようなキャビティ構造のウェークをつくりながら電子ビームをみずからキャビティーに入射し、加速することが3次元シミュレーションでも知られいます。中国工程物理研究院(CAEP)で行われた共同実験では100兆ワット、27フェムト秒パルスのレーザーを4cmのキャピラリーに誘導させ(図3)、エネルギーが8.3億電子ボルト、エネルギー幅が1%の電子ビームを加速することに成功しました。

長さが10cmに達するプラズマチャンネルもすでに開発しています。この日中共同研究では次に300兆ワットのレーザーを用いて100億電子ボルト級の加速に挑戦することを計画しています。

つい最近、ローレンスバークレイ研究所とオックスフォード大学の共同チームが、3cmのキャピラリー放電プラズマチャンネルを用いて10億電子ボルトの加速に成功したとの発表がありました。机の上に乗る数十億電子ボルト級の加速器の開発研究がにわかに激しさを増してきました。

参考文献
1. 「ネイチャー」(2004年9月30日号)
Mangles, S. P. D. et al. Monoenergetic beams of relativistic electrons from intense laser-plasma interactions. Nature 431, 535- 538 (2004).
Geddes, C. G. R. et al. High-quality electron beams from a laser wakefield accelerator using plasma-channel guiding, Nature 431, 538-541 (2004).
Faure, J. et al., et al. A laser-plasma accelerator producing monoenergetic electron beams, Nature 431, 541-544 (2004).
Thomas Katsouleas, Electrons hang ten on laser wake. Nature 431, 515-516(2004).
2. 「サイエンティフィックアメリカン」(2006年2月号)
Chandrashekhar Joshi, PLASMA ACCELERATORS, SCIETIFIC AMERICAN FEBRUARY 2006, 23-29.
3. 「日経サイエンス」(上記事の日本語訳) C. ジョシ 「プラズマの波に乗れ 卓上加速器」2006年6月号, 26-34.
4. 中島一久 「レーザープラズマ加速の進歩と課題と夢と」高エネル ギーニュース 2005年24巻2号, 49-59.


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→先端加速器研究会のwebページ
  http://acc-physics.kek.jp/sokensympo/
          advanced_accelerator_R&D/

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    高強度レーザーが拓く先端加速器 〜高強度場科学の最新成果〜

 
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[図1]
3次元粒子セル(Particle-In-Cell)数値シミュレーションコード(OSIRIS)で計算された球状バブル(泡)構造をしたプラズマウェーク。この泡構造は、先頭を進む円盤状の超短レーザーパルスがプラズマ電子を排除し電子の真空状態がつくられたもので、あとに残ったイオンチャネルがまわりからプラズマ電子を引き戻す(収束する)ためにできる。このバブルの後部には〜1テラ電子ボルト/mの強い電場が局所的に形成され、引き戻された電子をバブル内部に入射する。図には入射された電子も見える。このような加速構造は従来の高周波加速構造(例えば超伝導加速空洞)そのものであるが、大きさは、ほぼ1万分1で、1万倍の加速電場を発生することができる。また内部に入射機構をもち、レーザーパルスとともに光速で運動するいわば自己組織化型の加速器で物理学的にも興味深い研究対象である。(C.D. Murphy, Physics of Plasma 13, 033108, 2006より転載)
拡大図(44KB)
 
 
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[図2]
(a) 4cmキャピラリー放電管と (b) 10cmプラズマチャンネル生成の瞬間。長尺プラズマチャンネル生成法はいくつか提案されているが、われわれが開発しているのはアブレーション型放電管で、アクリルまたはポリエチレン製の細管(直径0.5mm)の両端に10-20kVの高電圧をかけ、40mJ程度のNd:YAGレーザー(波長1064nm)パルスで点火し、プラズマチャンネルをつくる。すると適当な時間遅れ(ほぼ200-300ns)で放電管の中心に直径数10ミクロンのガイディングに最適な密度分布をもつプラズマチャンネルが形成される。これに高強度レーザー(波長800nm)を入射してウェークをドライブする。
拡大図上(35KB)
拡大図下(32KB)
 
 
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[図3]
100TW, 27fsレーザーパルスを4cmキャピラリー放電管に入射したときのキャピラリー出口のスポットイメージ。入り口では13ミクロンのスポットサイズで入射し、出口のサイズは21ミクロンであった。したがってレーザー電場は直径500ミクロンの細管表面には接触せず、プラズマによってシールドされ、細管を破壊することなく高強度レーザーパルスのガイディングと電子ビームを加速できる。
拡大図(70KB)
 
 
 
 
 

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