放射光科学研究施設の研究成果(2)

  放射光による巨大生体分子の構造決定
生体物質の機能発現のメカニズムを探るには、生体を構成する多数の原子の配列を決定する必要がある。放射光の高輝度性は、短時間のうちに、すなわち生体の寿命のあるうちに、生体物質からのX線回折強度データを高い分解能で収集することを可能にする。写 真は、この方法によって世界で初めて決定された筋肉の収縮に関係するタンパク質であるアクチンとDNaseI複合体の原子配列で白い原子がタンパク質の主鎖(骨格部分)を表している。放射光の出現により、原子配列が解明された生体物質の数が飛躍的に増加した。
 

蛍光X線による局所元素分析
放射光スペクトルの中から有効な波長領域の光を選択し、同時にこの光を集光鏡によって細く絞って試料を照射すると、その局部に含まれている元素の量に応じて元素固有の波長をもつX線が放出される。この時、試料を少しずつ移動しながら蛍光X線の検出を行えば、試料内の元素の分布の様子を精密に知ることができる。写真は、周辺組織を含む人毛髪の断面の分析例で、(b)硫黄、(c)カリ、(d)銅、(e)亜鉛濃度分布を示す。(a)は光学顕微鏡写真である。

  単色X線を用いた医学診断応用
-新しい心臓診断システムの開発-

狭心症や心筋梗塞などの心臓病が日本でも急増している。これらは、心臓自身に酸素や養分を供給している冠状動脈と呼ばれる血管系の一部が狭くなったり、詰まってしまうことが原因で引き起こされる。血管系の変化の早期発見が重要であるが、臨床の場には冠状動脈系の早期診断方法がない。しかし、近年、放射光単色X線を用いて、これら心臓病の安全で簡便な早期診断システムの開発が行われ、写真に示すように、犬を用いた心血管系の静脈注入による造影検査では、通常の臨床X線検査では全く識別できない冠状動脈系を明瞭に識別できるようになった。
 

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