物質構造科学研究所では、1982年以来、2.5GeVの現在の放射光リングを利用して多くの成果
をあげて来ました。また、6.5GeVのARリング(トリスタン計画での蓄積リングを改良したもの)に於ても、高エネルギ−実験と共生して放射光を利用する研究が行われてきました。ARリングでは、電子のエネルギ−が高く、短波長のX線が得られることを利用して、コンプトン散乱、核磁気共鳴散乱、磁気円二色性、超高圧下の物質構造、医学利用など数多くの先駆的な研究が行われ、そのニ−ズは、増大の一途にあります。
本計画はARリングをX線専用の放射光専用リング(PF-AR)に転用して、性能の飛躍的な向上を図り、ますます高度化するX線領域の放射光利用研究のニ−ズに応えるためのものです。
PF-AR放射光高度化計画では、従来の単バンチ大電流という特性をさらに発展させ、約10倍の輝度を得るとともに、放射光専用リングとして必須の、寿命が長く安定なビ−ムを実現出来ます。その結果
、約1.3マイクロ秒の周期の0.1ナノ秒のパルス幅の放射光が得られます。しかも、1mm2の断面
積を持つ試料に1パルス当たり、108個の光子が入射します。短バンチ、大強度のX線により物質を測定することは、非常に明るく、1MHzで繰り返すストロボカメラで写
真を撮ることにたとえられ、物質の動的な変形や化学反応の過程を追跡できることになります。このような、パルス状の大強度X線は世界的にも類を見ないユニ−クなもので、未知の新しい研究分野を世界に先駆けて拓くことが出来ます。
単バンチを利用した研究の例
- 時間分割小角散乱や時分割ラウエ法による生体高分子の動的構造解析
- 時分割x線吸収分光による動的局所構造解析
- レーザー光による光化学反応の解析
- 核共鳴散乱による非弾性散乱の観測
- 飛行時間分析法を用いたコンプトン散乱による電子構造解析
大電流を利用した研究例
- 冠状動脈造影法などによる医学応用
- 軽元素から成る物質の超高圧下での構造解析
- 超強磁場下での磁気的な構造の観測
- 表面界面の構造と相転移の観測
- DNAなど生体分子分解反応の観測
|