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第一回サマーチャレンジ
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変更履歴 8月24日 演習 2, 4, 6, 15のテキストを追加。 8月22日 演習 5, 11のテキストを追加。 8月22日 8月21日写真 8月20日 演習 7, 8, 9, 10, 12, 13, 14 のテキストを追加。 8月20日 演習実施場所情報を追加。 8月17日 各演習の実験テキスト欄を追加、演習1のテキストを登録 5月25日 演習12の記述を追加。 5月15日 演習3に絵と記述を追加。 5月14日 演習11の記述を追加。 5月12日 サマーチャレンジロゴ追加 5月 2日 演習12の動画を追加 4月18日 全体的な字句修正 4月15日 演習6の動画を追加 4月13日 公開しました。 |
演習 番号 | 講師 | 演習会場 | 演習 テキスト | タイトル |
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1 | 田村 (東北大) | 北実験室1F側室 | 本文 付録 | ワイヤー一本で X線や素粒子を検出しよう 〜ワイヤーチェンバーを手作りして素粒子・原子核実験を体験〜 |
2 | 汲田 (首都大) | 北実験室実験準備棟(泡箱) |
エネルギー測定 スパークチェンバー | 宇宙線を目で見る 〜シンチレータとスパークチェンバーをつくろう〜 |
3 | 小沢 (東大) | 研究本館 | テキスト | 最新鋭のガス型検出器で素粒子を見る 〜GEM検出器〜 |
4 | 原 (神戸大) | 四号館 | テキスト | 地球に降りそそぐ宇宙線を視る! 〜シンチレーティングファイバーシート飛跡検出器の製作と宇宙線の観測〜 |
5 | 新田 (京大) | 四号館 | テキスト iit解説 | 身近な素粒子を見て、実感しよう! |
6 | 能町 (阪大) | 四号館 |
テキスト FADC | 光子を実感する |
7 | 宮林 (奈良女) | 研究本館 | テキスト | 光の衝撃波で素粒子を見る 〜チェレンコフ光の研究〜 |
8 | 野海 (KEK) | 北実験室実験準備棟(泡箱) | テキスト | 磁気スペクトログラフ 〜磁場の中での荷電粒子の振る舞い〜 |
9 | 斉藤 (KEK) | AR東実験棟 | テキスト 問題 | 超伝導加速空洞用ニオブの材料評価 |
10 | 奥木 (KEK) | アセンブリ ホール | テキスト | 高エネルギー粒子加速器の基礎 |
11 | 田中 (岡山大) | 研究本館 | テキスト/ Root解説 | 電子と陽電子の ”原子” オルソポジトロニウムの寿命測定 〜朝永の量子電磁力学にチャレンジ!〜 |
12 | 清水 (KEK) | 東海キャンバス | テキスト | 音速で飛行する中性子を曲げる |
13 | 佐藤 (東工大) | 研究本館 | テキスト/ ノーベル賞講演 | メスバウアー効果 〜光のドップラー効果を見よう〜 |
14 | 村田 (立教大) | 北実験室2F側室 | テキスト | 実験室スケールでの万有引力の法則の検証 〜余剰次元の探索〜 |
15 | 飯嶋 (名古屋大) | 研究本館 | テキスト | 「光子の裁判」実験 〜量子力学の世界を体験しよう〜 |
ワイヤーチェンバー(ドリフトチェンバー、MWPC(多芯式比例計数管)とも言われる)は、 素粒子・原子核実験に欠かせない放射線検出器です。 典型的なワイヤーチェンバーは、適当な容器に細い金属ワイヤーをはり、 周囲にも電極を作り、容器内部をあるガスで満たしたものです。 ガス中を放射線が通過すると、放射線がガス分子を電離して電子が発生します。 電極にマイナス、ワイヤーにプラスの高電圧をかけるので、発生した電子がワイヤーに集まります。 ワイヤー近傍では、電子が加速されてさらに他の分子を電離します。 十分な電圧をかけることで、繰り返し電離が起こります。 最終的には、電子の数が何万倍も増幅されて大きな信号がワイヤーに発生します。 この信号から放射線の通過位置や時間などがわかります。
この演習で作るチェンバー
この演習では、まず1本のワイヤーだけからなるワイヤーチェンバー(比例計数管)を 細い金属ワイヤーやアルミ円筒などの簡単な素材だけから手作りします。 次に、作ったワイヤーチェンバーを使って、X線・ベータ線・宇宙線ミュー粒子などの素粒子を実際に測定します。 これらの放射線の種類やエネルギーによってワイヤーチェンバーから発生する信号がどう違うかを調べ、 その理由を考えます。最後に、2−3台のワイヤーチェンバーを並べて、 宇宙線ミュー粒子の飛んでくる方向(天頂角分布)を測定します。 この演習では、検出器を自ら作り、測定し、 そのデータを解析して結果を得るという素粒子・原子核実験の流れを体験することができます。
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スパークチェンバーの原理
宇宙線の軌跡
この演習では、最初に、シンチレーターと光電子増倍管を使った放射線測定装置を製作し、 放射線の検出方法を学びます。 シンチレーターとは、放射線が入射すると発光する蛍光材質です。 光電子増倍管はその光量を測定することによって、放射線が蛍光物質に与えたエネルギーを測定することができます。 そのために必要なAD変換回路とコンピューターによるデータ収集システムを構築して、 データの収集と解析方法について学びます。
次に、スパーク・チェンバーを製作して、宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)の軌跡を観測します。 シンチレーターと光電子増倍管による測定は、高速測定が可能な反面、大量の電子回路が必要です。 初期の素粒子物理学実験においては、 電子回路が今ほど自由には使えませんでした。 素粒子の軌跡を測定する方法は、 霧箱や泡箱と呼ばれる写真技術に依存した測定方法がとられてきました。 スパーク・チェンバーとは、高電圧をかけた電極間に希ガスを封入して、 目視できる放電を起こさせる検出器です。 宇宙線が通過するとガスを電離するために、 その軌跡に沿った放電が起こり、3次元的な軌跡を目で見ることができます。 電圧をかけるタイミングを決めれば、特定の反応を観測できることから、スパークチェンバーと 写真技術を組み合わせた実験装置は、実際の素粒子物理学実験でも用いられ、多くの発見がなされました。
上から見たGEMフォイル
斜めから見たGEMフォイル
GEM付近の電場と電気力線
最先端の素粒子・原子核実験の研究者は、よりよい放射線測定器の開発のために日夜工夫をこらしています。 中でも、ガス型検出器は、大きな範囲の放射線軌跡を3次元で高精度に測定できることから、さまざまな開発が行われてきました。 最近開発されたガス型検出器のひとつにGas Electron Multiplier (GEM) というものがあります。
GEMの構造: 右の2枚の写真は標準的な GEM を拡大したものです。 GEM は 5 μm厚の銅箔を両側にはりつけた 50 μmの厚みをもつ絶縁シート(カプトン)から作ります。 このシートに直径 70 μm程度の穴を140 μmの間隔で規則的に開けてあります。
動作原理:特別に調合された混合気体中にこの GEM シートを設置し、表と裏の銅の間に数 100 Vの電圧を掛け、穴の表と裏の間に強い電場を発生させます。 高速の荷電粒子がガス中を通り抜けると、1 mmあたり10個程度の分子を電離してイオンー電子対を発生させます。 こうして出来た電子はGEMの方に走るよう、全体の電場が設定されています。 引き寄せられた電子がGEMの穴付近を通り抜けるときに、 電子は強い電場で加速されます。その電子がガス分子とぶつかると、その分子をイオン化して、さらに電子が発生します。 この現象がたった50 μm程度の高電場領域の中で繰り返えされ、電子の数は数 100 - 数 1000 倍に増えます。この機構を利用して、荷電粒子の通過を検出することが出来ます。
本実習では、GEMを使った軌跡検出器の製作から始めて、ガス検出器の基礎を学びます。 実験に使うのは実際の素粒子・原子核実験に使われている検出器と同型の検出器です。
実習の項目
(注)この項に用いた図はGEMの原理の発明者である F. Sauli が「2007年春の物理学会」の報告で用いたスライドなどから引用しました。引用の責任はこのページの編集者にあります。
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SciFiブロックによる荷電粒子の観測
SciFiブロックの例
シンチレーティングファイバー(SciFi)を知っていますか? SciFi は太さ 1 mm 程度のプラスチックファイバーに「シンチレーション物質」をまぜたものです。 この中を荷電粒子(μ±粒子、&pi±中間子、電子、陽電子など電荷をもつ素粒子)が通過するとシンチレーション光を発生します。 発生した光は、通常の光ファイバー中と同様にファイバー表面で全反射を繰り返しながら、 ファイバーの端まで伝わって来て、端で光っているのが見えます。 一つのファイバーが覆える面積は小さいので、 それを多数並べて1枚のシート状にしたものをシンチレーティングファイバーシート( SciFi シート)と呼びます。 さらに SciFi シートをいくつか重ねて固まりにしたのをシンチレーティングファイバーブロック( SciFi ブロック)と呼びましょう。 SciFi ブロックに荷電粒子が通過すれば、何が起こるでしょうか? 荷電粒子が通過したファイバーだけが光り、 SciFi ブロックの端面で視ていると、 荷電粒子の通過した跡(飛跡と呼びます)がファイバーの端での光として連なって見えます。 この光はとても微弱で人間の目では見えないでしょう。 そこで、先端科学技術の高感度撮像管(Image Intensifier Tube, IIT と略称)を使って視るのです。
この演習では、シンチレーションファイバーから、 SciFi シート、SciFi ブロックをできるだけ自作してもらいます。 さらに、 IIT と SciFi ブロックを組み合わせて宇宙線を観測します。 時間があれば、宇宙線の方向分布の測定も行います。
地球表面には、今このときもミュー粒子と呼ばれる荷電粒子がたくさん降りそそいでいます。 このミュー粒子のように宇宙から地球に降りそそいでいる粒子のことを宇宙線と言います。 シンチレーティングファイバーシート飛跡検出器を作りましょう。そして、地球に降りそそぐ宇宙線を視ましょう。
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この演習では、普段お目にかかれない素粒子を簡単な仕組みの実験装置で見ることを目的とします。 素粒子は人間の目には見えないだけで、太陽や星からの光のように何時も空から降ってきています。 この空から降ってくる素粒子を、実際に目で見えるようにすることがこの演習の目標です。 目で見るためには、素粒子を光らせないといけません。 世の中には、素粒子が入ると光を出すシンチレータと言う物質があります。 ただ素粒子が出す光は弱いので、更に特別な装置(暗視スコープのような物)も必要です。 そして、双眼鏡や望遠鏡のようにレンズも必要となります。 これらを組み合わせると、素粒子が通った後を本当に見ることができるようになります。 そして、皆さんが素粒子を捕まえた写真は、 デジタルカメラの写真のようにコンピュータ画像としてアルバムに貼りましょう。
写真はこの実験課題で捕らえた素粒子が反応の例です。
さあ、あなたはどんな素粒子の一面を見つけることができるでしょうか!
光は波としての性質を持つだけでなく粒子としての性質を持っています。 つまり、光をだんだん暗くしていくと、ついには光をひとつひとつ光子として数えることができるようになります。 この演習では、光子がひとつだけ来ても感知できる超高感度の光センサーを使い、光子の数を数えてみます。 さらに、光の速度の測定を行い、光子を実感してもらいます。
この演習で使うのは MPPC という最新鋭の半導体光センサーです。 大きさは 1 mm2 くらいのシリコンチップですが、そこにたった一つの光子が入るだけで、その信号は数10万倍に増幅され、電気的に出力されます。 単に「増幅度が高い」というだけでなく、「微細なピクセルに分割することで動作の安定度を増加させる」という画期的な工夫がなされています。
測定2のオシロスコープの記録
測定3の実験セットアップ
測定1
光源となる青色ダイオードのパルス駆動回路を自分で製作します。さらにFPGA (自由に書き換えられる論理回路IC) のプログラムを自分で書き換えて光量を変えてゆきます。
まずは光量を目で見て明るさが変わるところからだんだん暗くしていって、どこまで見えるかを確かめます。
測定2
次に MPPC を使って信号を見ます。
オシロスコープで波形を観測しながら光量をだんだん弱くしてゆき、
1光子が見えることを確認します。
MPPC では信号が数10万倍に増幅されるとはいえ、信号の強さは微弱ですから、きちんとした測定をするには工夫が必要です。
測定3
最後に光速を測定します。図のような装置で光源とセンサーの距離を変えながら、光の到達時間を測定します。そのデータを用いて光速を推定してください。
ガラスや水などの透明な媒質中を高いエネルギーの荷電粒子が通過すると、 チェレンコフ放射と呼ばれる電磁気的な衝撃波の光が発生します。 小柴昌俊先生はカミオカンデ実験で超新星からのニュートリノを検出してノーベル物理学賞を受賞しました。 また、カミオカンデ実験とその後継であるスーパーカミオカンデ実験の観測から「ニュートリノに質量がある」という画期的な観測が行われました。 カミオカンデやスーパーカミオカンデは巨大な水タンクの中に「光電子増倍管」を多数並べた物です。 ニュートリノが水中に入ると、ごく希に電子やミュー粒子が発生します。 こうした電子やミュー粒子の速度が光速に近いためチェレンコフ光が発生します。 その微弱な光を光電子増倍管でとらえて電気信号に変換・記録して、ニュートリノの研究をします。
光電子増倍管とクォーツのブロック
この実習ではチェレンコフ光を用いた粒子検出器の基本を体験します。 水に換えてクォーツ(石英)をチェレンコフ放射の媒質に用います。 放射線源から出てくる電子(ベータ線)や宇宙線(主にミュー粒子)はクォーツ中でチェレンコフ光をだすので、その光を光電子増倍管で検出します。 ベータ線はエネルギーがそれほど高くないので、クォーツ板中で停止します。 一方、宇宙線中のミュー粒子ははるかに高いエネルギーを持っているため、クォーツを貫通していきます。 この二つの場合を比べると、記録した電気パルスの大きさがずいぶん異なります。 最後に、自分たちで組み上げた測定装置で得たデータと、机上計算で得るチェレンコフ光の量を比較します。
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実験に使う電磁石(鉄心の
直径 34 cm、間隔 20 cm)
測定原理:運動量の低い電子
は強く曲げられ近くに届き、
運動量の高い電子は弱く曲げ
られ遠くまで届きます。
素粒子・原子核の極微な世界で起こる未知の現象を探るために、我々は、その痕跡を示す反応過程や崩壊過程に関与した粒子を検出し、 その粒子の持つ情報から未知の現象の再構成を試みます。 とくに、粒子のエネルギーや運動量は重要な情報を担っており、 しばしば、その測定精度が決定的な役割を果たします。 磁場中を運動する荷電粒子には運動の方向に対して垂直にローレンツ力が働きます。 このとき、荷電粒子は運動量に比例した曲率半径を持つ軌道上を運動します。 この軌道を分析することで運動量を測定する装置を磁気スペクトロメータと呼び、 荷電粒子の運動量を測定する常套的な手段の1つとなっています。 なかでも、磁場の分布に特別な注意を払い荷電粒子の焦点位置と運動量の相関を際立たせた装置は、 とくに、磁気スペクトログラフと呼ばれ、 高精度の運動量分析装置として多くの素粒子・原子核物理学研究で活躍しています。
この演習では荷電粒子の軌道と運動量分析法の基礎について学習します。 円形磁極を持つ電磁石を用いたスペクトログラフの場合、 比較的簡単な幾何光学的取り扱いをすることで、 荷電粒子の軌道と運動量の良い相関が得られることがわかっています。 原子核のなかには、弱い相互作用で壊変(ベータ崩壊)して、 電子(ベータ線)を放出するものがあります。 この円形磁極スペクトログラフを用いて、 この電子のエネルギースペクトル(エネルギー分布)の測定を行い、 運動量分析の実際を体験してもらいます。
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超伝導加速波空洞の例
高エネルギー加速器では、高い加速電場を得るために「超伝導高周波空洞」が使われます。 特に現在計画中の高性能加速器:ILC (International Linear Collider)・ XFEL(X-ray Free Electron Laser)・ ERL(Energy Recovery LINAC)などでは、 超伝導高周波空洞が最も重要な技術です。 超伝導空洞のその設計・製作にあたっては、 金属冶金・塑性学、固体物理、電磁気学、量子力学、表面科学・技術、 真空技術、半導体技術、極低温技術、高周波技術、 高エネルギー物理・加速器科学など、の総合力が必要です。 言わば、工学・物理・化学の非常に広い分野にわたる学際科学・技術です。
この実習では超伝導空洞に用いるニオブ金属の材料評価の体験学習を行ないます。 特にマイスナー効果による超伝導現象の面白さ、 その応用を体験する超伝導入門講座となります。 (超伝導を研究するには「第2種超伝導体の理論」という基礎知識が必須ですが、 最初に詳しい講義を行なうので、特に予備知識を必要としません。)
観察される現象例(上・よく焼きなま
したニオブ、中・表面欠陥のあるニオ
ブサンプル、下・化学研磨100 μm
を施しその表面欠陥を除去した場合。)
超伝導体の磁気特性測定装置
高性能の超伝導空洞を製作するときに最も重要な課題は材料評価です。 高純度・最高級の超伝導特性、かつ加工性の優れた材料を選ぶ必要があります。 右に示す試験装置を用いて、4.2Kから1.5Kの温度(T)領域にわたって Hc1(T)、Hc2(T)、Hc(T)、 および超伝導状態の磁場フラックスの動きを測定します。 この温度依存性から超伝導高周波空洞 (RF) 応用の臨界磁場 (理論的最大加速電界といってもよい) を決定することができます。 また、同時に RRR (Residual Resistance Ratio) の測定を行い、ニオブ材の純度を評価します。 この測定では、超伝導臨界温度での超伝導現象を観察できます。 また、超伝導材料ニオブの常温での機械的特性を、引っ張り試験装置を使って調べます。 実習では、多結晶ニオブと巨大結晶ニオブについて上記のような測定を行い、 材料特性の比較をします。
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<加速空洞中に発生する様々な電磁場の例
電子加速器とは、電子ビームを作り出し、それを加速して衝突させる装置です。 衝突によって様々な物理過程が発生するため、高エネルギー物理学の研究で広く使われています。 普段は聞き慣れない電子加速器という装置ですが、その基本原理は、高校・大学で習う物理課程の応用で考えることが出来ます。
みなさんには、 光電効果を利用したフォトカソードと呼ばれる電子ビームの発生装置と電子の加速に用いられる高周波空洞を使った加速原理を実習を通して体験してもらいます。 加速器のの基本的原理は身近な物理によって考えられていることと、高性能の加速器を作るためには、最先端技術の利用がされていることを実感してください。 普段聞き慣れない加速器という装置を身近に感じて貰いたいと思っています。
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実験セットアップ
陽子と電子が結びついて水素原子を作るように、陽電子と電子は束縛状態(ボジトロニウム)をつくります。 水素原子とボジトロニウムの最も大きな違いは、水素原子が非常に安定であるのに対し、 ポジトロニウムを構成する電子と陽電子は消滅して、いくつかの光子になってしまうことです。 電子と陽電子はスピンを持っているため、ポジトロニウムには2つの光子に消滅するパラ状態と、 3つの光子に消滅するオルソ状態とがあります。 興味深いことに、パラ状態の平均寿命が125ピコ(10-12)秒であるのに対し、 オルソ状態の平均寿命は1,000倍以上の142ナノ(10-9)秒もあります。
以前の実験の写真
演習では、図にあるような検出器を一から組み立てて、データ収集まで全部おこないます。 陽電子の放射線源である22Naを用いて、エアロジェルという物質でポジトロニウムを生成します。 そしてポジトロニウムが消滅してできる光子を検出します。 しかし、オルソポジトロニウムは周囲に物質があると、その物質中の電子と陽電子が反応することが原因で寿命が短くなることが知られています。 この影響を完全に取り去ることができないので、実験条件を理解して実験を遂行することが重要になります。 空気中や窒素ガス中で実験をおこなってみるなど、実験のアイデアを自分たちで考えてみます。 講義で勉強した放射線検出器や統計の知識を生かして、得られたデータの解析をおこないます。
ポジトロニウムの寿命は、ノーベル賞を受賞した朝永振一郎博士らによるQED(量子電磁力学)理論により精密に予言されています。実験で測定した寿命とQED理論の予言とが一致するかは、現在でも研究の最前線のテーマです。君もどれだけ朝永の理論に迫れるか、チャレンジしてみよう!
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ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したといわれています。
この法則は天体からリンゴまで巨視的物体に関しては古くから確認されています。
しかし、ミクロの世界ではこの測定はとても難しい測定です。
ミクロの世界では「電気によるクーロン力」の影響が無視できなくなるからです。
たとえば個別の素粒子が本当に重力を受けるかどうかは実験的に確認する必要があります。
中性子は電気的に中性であるため、静電気の影響を受けずに運動させることができます。
この性質のおかげで、中性子が重力を受けるか、一様でない磁場からどのような力を受けるか、を調べることが比較的容易に行えます。
音速程度で飛行する中性子は冷中性子と呼ばれます。
この演習では、まず、冷中性子が地球重力によって落下する様子を観察し、重力加速度を測定します(図1)。
また、落ちて行く冷中性子を、磁気レンズで打ち上げると落ちる場所が変わります(図2)。
その変化から中性子が持つ異常磁気双極子能率を測定します。
図1 重力で落下する中性子をとらえ、重力加速度を測る
図2 磁気レンズを使って、中性子の運動をコントロールする
(注)この演習の一部は日本原子力研究開発機構東海研究所 (JAEA) で行われます。 KEK と JAEA の往復に一日あたり3時間ほどかかるため、演習・講義・食事などのスケジュールが他の演習の参加者と異なる場合があります。
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実験装置
この演習は、メスバウアー効果とそれに関連した物理を理解し、 それを観測・測定する基本的な実験技術を身につけることを目的としています。
励起状態にある原子核は γ(ガンマ)線という光を出して基底状態になります。 その γ 線を基底状態にある同じ種類の原子核に照射すると今度はそのガンマ線を 吸収して原子核は励起状態になります。 しかし、原子核が γ 線を出す時には 運動量保存則により原子核自身が γ 線と反対方向に微少なエネルギーを持ち去ります。 この"反跳エネルギー"の分だけ γ 線のエネルギーが減ってしまって、 別な原子核を励起することができなくなってしまいます。
測定原理
ところが、原子核が結晶格子などに束縛されていると、γ 線の反跳エネルギーが結晶全体によって受け止められ、 γ 線のもつエネルギーがほとんど減らなくなるため、 γ 線の共鳴吸収が起こることが可能になります。 この無反跳核 γ 線共鳴吸収現象を発見者の名をとってメスバウアー効果と呼びます。 この状態でさらに、線源や吸収体を微小速度(〜数 mm/s)で動かします。 そのとき γ 線のエネルギーはドップラー効果により変化するので、 この速度を変化させながら再吸収の度合いを測ります。 この現象を利用すると、ゼーマン効果や、 原子核のまわりにある結晶格子中の原子が核に及ぼす影響(これらは一般に、 超微細構造と呼ばれます)によって発生する核準位の分裂やシフトを、 10-12程度という超高精度で観察することができます。
本実習では、ステンレス試料と硫酸鉄試料を回転円盤に取り付けた装置を用い、 無反跳核 γ 線共鳴吸収現象とそれに付随する効果を観察する。 合わせて、原子核・素粒子実験において標準的に用いられる、 γ 線検出器(例えば、NaI無機結晶シンチレータ+光電子増倍管、CsI無機結晶シンチレータ+APD ) の取り扱い方法や信号処理方法を学びます。
ルドルフ・メスバウアーがこの現象を発見したのは 1958 年、ミュンヘン大学の学生の時でした。 1961 年、早くもその広範な応用範囲が認識され、彼にノーベル物理学賞が授与されました。 比較的簡単な実験装置でもこの効果を確認でき、いわば ”テーブルトップのノーベル賞実験” といえます。 実習希望者は メスバウアーのノーベル賞受賞講演 に目を通し、基本的なアイデアを予め会得しておくことを勧めます。
測定装置
究極の統一理論と期待される超弦理論はプランクエネルギーと呼ばれる巨大なエネルギースケールを持っています。 しかしプランクエネルギーは加速器実験では到達不可能な領域なので、 超弦理論の実験検証は不可能と考えられてきました。 プランクエネルギーの根本的な算出根拠は、万有引力の法則が最小のスケールまで成立することです。 それにもかかわらず、肝心の万有引力の法則は現在でもミクロスケールでは実験的には確認されていません。 他の3つの力に比べて重力があまりに弱すぎることも一つの要因です。
超弦理論が無矛盾である為には、我々の4次元時空を超える未発見の余剰次元を含む高次元空間の存在が要求されます。 電磁気学のガウスの法則から分かるとおり、力のべき乗則は力の伝播する空間次元の数に敏感です。 実は、プランクスケールだと思っていた余剰次元方向の空間がミリメートル近辺まで拡がっている可能性があり、 その場合、実験室での直接実験(加速器を用いない)で重力が逆ニ乗則からずれる現象が観測される事が期待されています。
このテーマはつい最近まで検証されていませんでした。 この演習では、センチメートルスケールでの万有引力の法則の検証を体験します。 画像処理型の最新鋭の変位計測技術を駆使した実験装置を自分達で組み立て、観測から解析まで経験する事を目標とします。
相対性理論や量子力学に支配された素粒子の世界では、 我々が日常経験するマクロな世界では想像もつかないような「非常識な現象」がいろいろと起こります。 もっとも身近な素粒子のひとつである「光子」でこの研究をしましょう。 この干渉実験を不可分の“1個の光子”で行ってもやはり干渉が起きる! これは、量子力学の特徴を最も顕著に示す現象で、 朝永振一郎(*)が「光子の裁判」というエッセーで詳しく解説しています。ただし、 あのR.ファインマン(*)をして「実現不可能」と言わしめた実験でした。 ところが、現代の素粒子実験の技術を使えば、1個の光子を検出することが可能です。 そこで本演習では、“イメージインテンシファイヤー”と呼ばれる光子の位置が記録できる装置を使って、 この光子の干渉実験にチャレンジします。教科書を読んで理解していた(できなかった?)ことを、 「百聞は一見に如かず」の精神で、できるだけ自分の手を動かしながら体験してみて下さい。
実験の大まかな流れ
実験1(ヤングの実験):光は波の性質を持つため、一つの光源から出た光は干渉します。
二つのスリットを通過すると後方のスクリーンに干渉縞を作ることをまず確認します。
実験2(光子の粒子性):しかし、光子はアインシュタインが「光量子」と読んだように、
「個別に走る粒子」の性質ももっています。光をどんどん弱くすることで、
光子が一つ一つ数えられるようになることを確認してもらいます。
実験3(粒子の干渉):実験2で「個別に走る粒子」に見えてきた光が、それでも二つのスリットを通過すと、実験1と同様に干渉縞を示すことを見ます。
(*)朝永振一郎とR.ファインマン(米国)は「電子と光子に関する量子力学」を完成させ、同時にノーベル物理学賞を受賞した。
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