第二回サマーチャレンジ

演習課題の紹介

Last update:
変更履歴
4月11日 初版。
4月21日 改訂
4月22日 改訂
4月23日 公開
4月25日 写真の一部アップデート
5月 2日 文面修正
8月21日 演習テキストへのリンク追加
8月24日 演習テキストへのリンク追加
8月25日 演習テキストへのリンク追加
8月30日 演習テキストへのリンク追加
9月 5日 2008年度の全ての演習テキストがリンクされました。


サマーチャレンジのために準備されている演習を紹介します。内容は後でも変更・追加しますので、時々このページをチェックしてください。

演習
番号
タイトル演習
テキスト
 1ワイヤー1本で素粒子をとらえる
〜素粒子・原子核実験の心臓部分「ワイヤーチェンバー」を作ろう〜
pdf appendix
 2宇宙線を目で見よう スパークチェンバーの製作pdf
 3最新鋭のガス型検出器で素粒子を見る 〜GEM検出器〜pdf
 4地球に降りそそぐ宇宙線を視る!
〜シンチレーティングファイバーシート飛跡検出器の製作と宇宙線の観測〜
pdf
 5原子核からの光〜ガンマ線角度相関〜pdf
 6エアロジェルからのチェレンコフ光の研究pdf
 7磁気スペクトログラフ 〜磁場の中での荷電粒子の振る舞い〜pdf
 8超伝導材と超伝導高周波加速空洞pdf
 9光の不思議を実感する
〜単一光子の検出と光速の測定〜
pdf
10粒子の寿命は誰が決める?
〜ミュー粒子の検出と寿命測定から弱い力の「弱さ」まで〜
pdf
11中性子減速pdf
12メスバウアー効果 〜光のドップラー効果を見よう〜pdf
13実験室スケールでの万有引力の法則の検証 〜余剰次元の探索〜pdf

演習番号 1:ワイヤー1本で素粒子をとらえる
〜素粒子・原子核実験の心臓部分「ワイヤーチェンバー」を作ろう〜

ワイヤーチェンバー(ドリフトチェンバー、MWPC(多芯式比例計数管) とも言う) は、素粒子・原子核実験に欠かせない検出器です。 写真のように多数のワイヤーが張られたワイヤーチェンバーが、多くの大型実験装置の心臓部分に置かれ、 粒子の軌跡測定に使われています。この演習では、1本のワイヤーからなるワイヤーチェンバーを各自が手作りして、 その動作原理を学びながら、実際にさまざまな素粒子を測定して楽しみます。


最先端実験で使われる大型ワイヤーチェンバー(ドリフトチェンバー) の例


この演習で作るワイヤーチェンバー
円筒型比例計数管) と増幅回路

ワイヤーチェンバーは、適当な容器に細い金属ワイヤーを張り、周囲にも電極を作り、 容器内部をアルゴンなどのガスで満たしたものです。ガス中を電荷をもった粒子が通過すると、 粒子がガス分子を電離して電子が発生します。 細いワイヤーにプラスの高電圧をかけておくと、発生した電子がワイヤーに集まります。 ワイヤー近傍では、電子が加速されてそれがさらに他のガス分子を電離し電子を発生させます。 これが繰り返されて、最終的には電子の数が何万倍も増幅されて大きな信号がワイヤーに発生します。 この信号から粒子の通過位置や時間などがわかります。

演習では、1本のワイヤーだけからなるワイヤーチェンバーを 細い金属ワイヤーやアルミ円筒などの簡単な素材だけから各自が一つずつ手作りします。 信号を増幅する回路も各自製作します。 次に、作ったワイヤーチェンバーを使って、X線・ベータ線・宇宙線ミュー粒子を実際に測定します。 これらの放射線の種類やエネルギーによってワイヤーチェンバーから発生する信号がどう違うかを調べ、その理由を考えます。 最後に、2〜3台のワイヤーチェンバーを並べて、宇宙線ミュー粒子の飛んでくる方向(天頂角分布) を測定します。 この演習では、検出器を自ら作り、測定し、 そのデータを解析して結果を得るという素粒子・原子核実験の流れを体験することができます。

一覧表に戻る

演習課題 2:宇宙線を目で見よう スパークチェンバーの製作


図1:大気シャワー現象



図2:スパーク発生の原理

宇宙には、一次宇宙線と呼ばれる高エネルギーの粒子が飛び交っている。一次宇宙線が地球に飛来すると、 空気中の原子核と反応し、陽子、中性子や中間子などの素粒子を数多く発生させる。 これらは、さらに空気中の原子核と電磁相互作用や強い相互作用を繰り返し 素粒子をつくりだしながらエネルギーを失ってゆく。 この過程を大気シャワー現象、生成した素粒子を二次宇宙線と呼ぶ(図1) 。

地表面まで到達する二次宇宙線は、原子核との相互作用が小さく、 大気に吸収されにくいミユー粒子が主成分となる。 地上では、1平方センチあたり、毎分約1個程度のミュー粒子が降り注いでいる。 宇宙線の飛跡に放電(スパーク) を発生させて目で見えるようにした装置がスパークチェンバーである。 図2にスパークチェンバーの原理を示す。

He、Ne のような不活性気体中に荷電粒子が入射すると、粒子の飛跡周りの気体原子がイオン化する。 このとき、気体中に置かれた電極に高電圧を印加すると、電子は正電極に引き寄せられて加速する。 加速された電子がさらに他の原子をイオン化して電子を生成し、 ねずみ算式に数が増加する。 そして、電極間に荷電粒子の飛跡に沿った放電が発生する。 このような電極対を何枚も並べることにより、飛跡が目視できる。 本演習では、スパークチェンバーを製作し、高電圧印加装置を組み立てて、二次宇宙線の飛跡を観測する。 図3は昨年度の演習で制作したスパークチェンバーによって観測された宇宙線である。 図をクリックすると測定中の動画(早回し) が示される。


図3(絵をクリックすると動画を表示)

また、高速デジタルカメラを使用して飛跡を記録し、宇宙線飛来方向の角度分布を求める。 鉛直方向から来る宇宙線粒子に比べ、斜め方向からの粒子は、より厚い大気層を通過するため、 角度分布は粒子の空気透過率を反映したものになる。 実験で求められた角度分布が、 今までの実験で知られているミュー粒子の角度分布と一致するか比較する。


一覧表に戻る

演習課題 3:最新鋭のガス型検出器で素粒子を見る
〜GEM検出器を使った放射線軌跡の測定〜


上から見たGEMフォイル

斜めから見たGEMフォイル

GEM付近の電場と電気力線

最先端の素粒子・原子核実験の研究者は、よりよい放射線測定器の開発のために日夜工夫をこらしています。 中でも、ガス型検出器は、大きな範囲の放射線軌跡を 3 次元で高精度に測定できることから、 さまざまな開発が行われてきました。 最近開発されたガス型検出器のひとつに Gas Electron Multiplier (GEM) というものがあります。

GEM の構造:右の 2 枚の写真は標準的な GEM を拡大したものです。 GEM は 5 μm厚の銅箔を両側にはりつけた 50 μmの厚みをもつ絶縁シート(カプトン) から作ります。 このシートに直径 70 μm程度の穴を140 μmの間隔で規則的に開けてあります。

動作原理:特別に調合された混合気体中にこの GEM シートを設置し、表と裏の銅の間に数 100 V の電圧を掛け、穴の表と裏の間に強い電場を発生させます。 高速の荷電粒子がガス中を通り抜けると、1 mmあたり10個程度の分子を電離してイオンー電子対を発生させます。 こうして出来た電子はGEMの方に走るよう、全体の電場が設定されています。 引き寄せられた電子がGEMの穴付近を通り抜けるときに、 電子は強い電場で加速されます。その電子がガス分子とぶつかると、その分子をイオン化して、さらに電子が発生します。 この現象がたった50 μm程度の高電場領域の中で繰り返えされ、電子の数は数 100 - 数 1000 倍に増えます。 この機構を利用して、荷電粒子の通過を検出することが出来ます。

本実習では、GEMを使った軌跡検出器の製作から始めて、ガス検出器の基礎を学びます。 実験に使うのは実際の素粒子・原子核実験に使われている検出器と同型の検出器です。

実習の項目

(注) この項に用いた図はGEMの原理の発明者である F. Sauli が「2007年春の物理学会」の報告で用いたスライドなどから引用しました。 引用の責任はこのページの編集者にあります。

一覧表に戻る 

演習番号 4:地球に降りそそぐ宇宙線を視る!
〜 シンチレーティングファイバーシート 飛跡検出器の製作と宇宙線の観測 〜


SciFiブロックによる荷電粒子の観測

SciFiブロックの例

シンチレーティングファイバー(SciFi) を知っていますか? SciFi は太さ 1 mm 程度のプラスチックファイバーに「シンチレーション物質」をまぜたものです。 この中を荷電粒子(μ±粒子、&pi±中間子、電子、陽電子など電荷をもつ素粒子) が通過するとシンチレーション光を発生します。 発生した光は、通常の光ファイバー中と同様にファイバー表面で全反射を繰り返しながら、 ファイバーの端まで伝わって来て、端で光っているのが見えます。 一つのファイバーが覆える面積は小さいので、 それを多数並べて1枚のシート状にしたものをシンチレーティングファイバーシート( SciFi シート) と呼びます。 さらに SciFi シートをいくつか重ねて固まりにしたのをシンチレーティングファイバーブロック( SciFi ブロック) と呼びましょう。 SciFi ブロックに荷電粒子が通過すれば、何が起こるでしょうか?  荷電粒子が通過したファイバーだけが光り、 SciFi ブロックの端面で視ていると、 荷電粒子の通過した跡(飛跡と呼びます) がファイバーの端での光として連なって見えます。 この光はとても微弱で人間の目では見えないでしょう。 そこで、先端科学技術の高感度撮像管(Image Intensifier Tube, IIT と略称) を使って視るのです。

この演習では、シンチレーションファイバーから、 SciFi シート、SciFi ブロックをできるだけ自作してもらいます。 さらに、 IIT と SciFi ブロックを組み合わせて宇宙線を観測します。 時間があれば、宇宙線の方向分布の測定も行います。

 地球表面には、今このときもミュー粒子と呼ばれる荷電粒子がたくさん降りそそいでいます。 このミュー粒子のように宇宙から地球に降りそそいでいる粒子のことを宇宙線と言います。 シンチレーティングファイバーシート飛跡検出器を作りましょう。そして、地球に降りそそぐ宇宙線を視ましょう。

一覧表に戻る

演習課題 5:原子核からの光〜ガンマ線角度相関〜

γ 線の角度相関の測定を通して、量子力学における角運動量の合成や 光の性質について学びます。


図 1 ゲルマニウム検出器

図 2 ガンマ線エネルギースペクトル

スピン状態に偏りがある (スピン偏極した) 原子核から γ 線が 放出される際には角分布が生じます。逆に、ある方向に γ 線が出たとすると、残された原子核はスピン偏極してしまいます。 では、最初はスピン偏極していない原子核から、2 本の γ 線が 続けて出た際はどうでしょう? 1 本目の γ が出たことによって 原子核はスピン偏極しますから、その偏りによって 2 本目の γ 線に角分布が生じます。つまり、2 本の γ 線は角度相関を 持つことになるわけです。この演習ではいろいろな原子核について γ 線の角度相関を測定して、それが光の性質や量子力学における 角運動量の理論をどのように反映しているのか、そして、 それから原子核についてどのようなことがわかるのかについて学びます。

実験では、まず、 γ 線測定に使うゲルマニウム半導体検出器の扱いに慣れます。 3 年生の皆さんは既に NaI シンチレータを使った γ 線測定の実験をやったことがあるかもしれませんが、 ゲルマニウム検出器は NaI よりも圧倒的に良いエネルギー分解能を誇っています。 今までシンチレータしか扱ったことがなければ、きっとその性能に驚くことでしょう。 次に、 γ 線の同時測定のやり方を学習します。 この技術はほとんどの原子核・高エネルギー実験にとって基本となるもので、 γ 線の測定以外にも広く役に立ちます。 必須と言ってもいいでしょう。 余裕があれば、2 つの γ 線が放出される時間差を測定することで、 中間状態の寿命を測定する実験をすることもできます。 また、多数の γ 線を放出する原子核では、どの 2 本が同時に放出されていて、 どの 2 本は別々に放出されているのかを調べると、 原子核の構造が少しづつ見えてきます。


図3 角度相関の測定

最後はいよいよ角度相関の測定です。 真ん中に線源 (60Co, 22Na, 57Coなど) を置き、 そこから 15 cm くらい離して 2 台 (以上) の検出器を置きます。 1 台目の検出器は固定しておいて、2 台目の検出器を動かし、 1 台目の検出器-線源- 2 台目の検出器がなす角度を次々変えながら測定を繰り返します。 それで、角度によってγ 線を同時計測する計数率がどれくらい変わるかを測定します。 ここで、検出器と線源の間の距離が変わってしまうと、 角度相関が無かったとしても計数率が変わってしまうので注意が必要です。 こういった誤差 (系統誤差) をどうやって減らすかを考えたり、 どれくらいの系統誤差があるのかを見積もるのも実験の大切な一部です。 皆さんの工夫に期待しています。


一覧表に戻る

演習課題 6:エアロジェルからのチェレンコフ光の研究


エアロジェルの一例。体積の90%以上が空気です。

エアロジェルからのチェレンコフ光 (重ね合わせ) 。

ガラスや水などの透明な媒質中を高いエネルギーの荷電粒子が通過すると、 チェレンコフ放射と呼ばれる電磁気的な衝撃波の光が発生します。 小柴昌俊先生はカミオカンデ実験で超新星からのニュートリノを検出してノーベル物理学賞を受賞しました。 また、カミオカンデ実験とその後継であるスーパーカミオカンデ実験の観測から 「ニュートリノに質量がある」という画期的な観測が行われました。 カミオカンデやスーパーカミオカンデは巨大な水タンクの中に「光電子増倍管」を多数並べた物です。 ニュートリノが水中に入ると、ごく希に電子やミュー粒子が発生します。 こうした電子やミュー粒子の速度が光速に近いためチェレンコフ光が発生します。 その微弱な光を光電子増倍管でとらえて電気信号に変換・記録して、ニュートリノの研究をします。

この実習ではチェレンコフ光を用いた粒子検出器の基本を体験します。 水に換えてエアロジェルという軽くて透明な材料をチェレンコフ放射の媒質に用います。 エアロジェルの屈折率を測り、放射線源から出てくる電子 (ベータ線) や宇宙線 (主にミュー粒子) がエアロジェル中で出すチェレンコフ光を光電子増倍管で検出して、 得られる光子数の測定やチェレンコフ光の描くリング像の検出を試みます。

一覧表に戻る

演習課題 7:磁気スペクトログラフ


実験に使う電磁石 (鉄心の
直径 34 cm、間隔 20 cm)

電子のもつ運動量により到達位置が異なります

素粒子・原子核の極微な世界で起こる未知の現象を探るために、 我々は、その痕跡を示す反応過程や崩壊過程に関与した粒子を検出し、 その粒子の持つ情報から未知の現象の再構成を試みます。 とくに、粒子のエネルギーや運動量は重要な情報を担っており、 しばしば、その測定精度が決定的な役割を果たします。

磁場中を運動する荷電粒子には運動の方向に対して垂直にローレンツ力が働きます。 このとき、荷電粒子は運動量に比例した曲率半径を持つ軌道上を運動します。 この軌道を分析することで運動量を測定する装置を磁気スペクトロメータと呼び、 荷電粒子の運動量を測定する常套的な手段の1つとなっています。 なかでも、磁場の分布に特別な注意を払い荷電粒子の焦点位置と運動量の相関を際立たせた装置は、 とくに、磁気スペクトログラフと呼ばれ、 高精度の運動量分析装置として多くの素粒子・原子核物理学研究で活躍しています。

この演習では荷電粒子の軌道と運動量分析法の基礎について学習します。 円形磁極を持つ電磁石を用いたスペクトログラフの場合、 比較的簡単な幾何光学的取り扱いをすることで、 荷電粒子の軌道と運動量の良い相関が得られることがわかっています。 原子核のなかには、弱い相互作用で壊変 (ベータ崩壊) して、 電子 (ベータ線) を放出するものがあります。 この円形磁極スペクトログラフを用いて、 この電子のエネルギースペクトル (エネルギー分布) の測定を行い、 運動量分析の実際を体験してもらいます。

一覧表に戻る 

演習課題 8:超伝導材と超伝導高周波加速空洞


図1: ILC 用高電界超伝導加速空洞(Ichiro空洞)
理論上 51 MV/m の加速電界が可能でその数字に因んで
イチロー空洞と名づけられた。フランジや液体ヘリウム
タンク用ベースプレート以外は、全てニオブ製である。
ILC の第一期 (500 GeV) の衝突マシンではこのような
空洞が 17,000 台必要である。

高周波を使って荷電粒子を加速する装置が高周波加速空洞である。 この加速空洞には、銅を使ってつくる方法 (Warm Technology) とニオブ等の超伝導材料から作る方法 (Cold Technology) の二つがある。 超伝導材料で作った空洞を超伝導空洞と呼び、4.2 K の液体ヘリウムないしは 2 K の超流動液体へリウムで冷却して運転する。 超伝導空洞は、表面抵抗が銅空洞よりも百万倍小さく、 荷電粒子を効率よく加速できる特徴を備えている。 KEK はトリスタン計画 (約20年前) で世界に先駆けこの技術の大規模応用に成功し、 それ以来世界をリードしている。 われわれは、国際リニアーコライダー計画(ILC) において、 世界最高の加速電界を発生する高電界超伝導高周波加速空洞 (図1) の開発を行ってきた。この演習ではその根幹部を学ぶ。

超伝導空洞の製作には、色々な“超”先端技術が必要である。 超伝導材料の工業的生産技術のひとつの重要課題である 高品位な超伝導ニオブ材料の材料評価法を学習する。 また、高品位のニオブ材料製作に日本の企業が如何に頑張っているかを伝えたい。 この講座はまさに超伝導空洞製作技術の最前線である。

とは言っても、超伝導の基礎を理解する必要があり、 ニオブ(第二種超伝導体)だけでなく第一種超伝導体である鉛をも対象にし、 第一種と第二種超伝導体の比較を行う。 ニオブについては、多結晶・巨大結晶や単結晶を対象にする。


図2:本演習での実験の流れ
サンプルへの測定端子の溶接からマイスナー効果測定のピックアップ
コイル巻き、液体ヘリウムを使って 9 〜 2 Kまでの冷却等々。

これらの材料について、高純度性の実験的評価 (RRR の測定)と 超伝導の磁気的特性(マイスナー効果)の測定を行う。 9 K から 2 K までのマイスナー効果を測定し、 ロンドン侵入長やコヒーレンス長の温度依存性を測定し、 それらの温度依存性から、高周波臨界磁場を求める。 そしてその材料で製作した超伝導空洞の最大加速電界を予想する。

これらの測定原理は超伝導の基礎である。 ここから得られる情報は、“世界最高性能の超伝導空洞作り”で最も重要なことである。 物づくりと物理の密接間を会得できる極めて教育的な超伝導入門であり、 大学では行われらない演習である。

本実験講座では冷却時間など待ち時間が多いので、実験の合間には、 荷電粒子の高周波加速原理、高純度ニオブ材料の工業的製造法・超伝導空洞の設計・製作法、 国際リニアーコライダー (ILC) に向けた我々の開発戦略・開発状況などにも触れたいと思う。

限られた時間で全てを消化できないが、 講義ノートにそれらを掲載しておくので暇な時見ていただければ幸いである。 尚、もっと詳細を知りたい人には、以下のWeb site を見てください。 ILC について 1000 ページの情報があります。

http://lcdev.kek.jp/ILC-AsiaWG/WG5notes/2007SaitoNoteTokyoUniv/

一覧表に戻る 

演習課題 9:光の不思議を実感する
〜単一光子の検出と光速の測定〜


「光」は、あまりに普通の存在です。皆さんの暮らしの中にあふれていますね。 しかし、良く観察すると大変不思議な性質を持っています。 まず、どんな物質も光より速く移動する事は出来ません。光の速さはこの宇宙で一番速く 、且つ一定です。この問題を追求する過程で相対性理論が生まれました。 光と電磁波が同一のものであるという理解も、両者が光の速さで進む事から分かったのでした。 また、光は波の性質と粒子の性質を同時に併せ持っています。この二重性の問題を追求する過程で、 量子力学が生まれました。私たちの宇宙を構成している基本的な粒子は、 すべて波の性質と粒子の性質を同時に併せ持っている量子なのです。 この実習では、以下にあげる実験を通して光が持つ不思議な性質を実感してもらいます。

課題 1 (光の粒子性)
光子をひとつひとつ個別に検出できる感度を持った光検出器、光電子増倍管を使います。 光は、それ以上分割できない最小単位である「光子」からなることを調べます。

課題 2 (光の速さの測定)
1 秒間で地球を 7 周半するという、猛烈な速度の光の速さを測ってもらいます。 半導体レーザーを用いた簡単な装置を使用します。 皆さんの実験センスを活かして、高い精度での測定にチャレンジしてください。

課題 3 (光の波動性)
光の本性が波動であるか粒子であるか、この議論に決着をつけたのは、 19 世紀のフーコーによる水中での光の速さの測定でした。 ホイヘンスが体系づけた波動説では光の速さは水中では遅くなりますが、 ニュートンが主張した粒子説では光の速さは水中で速くなると予想されていたのでした。 この課題では、アクリル中での光の速さを精密に測定してもらいます。 これと課題2で測定した空気中での光の速さを組み合わせると、 空気->アクリルでの光の屈折を波動説で説明できるのです。


一覧表に戻る

演習課題10:粒子の寿命は誰が決める?
〜ミュー粒子の検出と寿命測定から弱い力の「弱さ」まで〜


宇宙のかなたから飛んできた高エネルギー
の陽子が地球を取り巻く大気の原子核に衝突
し、原子核・素粒子反応を起こします。この
反応で発生するミュー粒子が実験装置に到達
します。絵をクリックすると原画 (Tif 32 MB)
がダウンロードされます。

極小世界の粒子の多くは有限の寿命で崩壊して他種の粒子に移りかわります。 物質の究極の構成要素である「素粒子」ですら崩壊することがあります。 自然界の粒子の寿命は誰が決めるのでしょうか? この演習では、自分たちで製作した検出器を用いて、宇宙から飛来する素粒子の一つ「ミュー粒子」の寿命を 測定します。 この寿命測定から、自然界に存在する 4 つの力のうち、 ミュー粒子を崩壊させる「弱い力」の「弱さ」 (「結合定数」と呼びます) を算出し、 より身近な力である電磁気力の結合定数と比較します。弱い力の名前の由来を実感してください。

演習の大まかな内容とゴールは以下の通りです:

  1. シンチレータと光電子増倍管を用いた検出器の製作を通じて、放射線検出器の基本動作原理を理解する。
  2. 比較的高度なデータ収集系を構築し、宇宙から飛来する放射線 (「宇宙線」) を自ら測定して実感する。
  3. 飛来粒子の寿命測定計画を自分たちで立案し、原子核・素粒子実験の手法を実体験する。
  4. 飛来粒子の正体を見極める過程を通じて、実験論理的思考法を学ぶ。
  5. 測定値から物理量を導く過程 (「データ解析」) に慣れ親しみ、同時に統計誤差と系統誤差の扱いに習熟する。
  6. 「弱い力」の「弱さ」を算出し、電磁気力との比較から弱い力の名前の由来を確認する。
一覧表に戻る 

演習番号11:中性子減速

電荷を持たない中性子は、電磁相互作用の影響を受けづらいため、 その性質を極めて高い精度で測定することができます。 通常、中性子は原子核内のみに存在しています。原子核から取り出す時には原子核反応を使うため、 その速度はとても速く、そのままでは高精度での測定は困難です。 本演習では、中性子を音速程度まで減速させ、実際にその速度の測定を行います。 以下の1〜3の課題を用意しています。 順次試みて課題2までを終了することを目標とします。 課題3 は余力があれば挑戦してみましょう。

課題1
チェッキング用中性子ソースを常温減速体で囲んで熱中性子を得る。 減速体表面に近いところに機械的チョッパーを置き、 およそ 1 メートル程度離れたところに置いた中性子検出器で検出し、 平均で 500μs 程度の飛行時間を測定する。 常温減速体は、ポリエチレンか水を用いる予定である。 機械的チョッパーは、パルスモーターで回転する円盤上に、 中性子吸収体としてガドリニウムを含む塗料を塗布したものを使用する予定である。 中性子検出器は、シングルワイヤーの 3He 比例計数管を並べる予定である。 飛行時間から中性子のスペクトルを導いて、ボルツマン分布に近いことを知り、 同時にボルツマン分布からのズレを観測する。 チョッパーの自作や、チェッキングソースの取り扱い以外のセットアップを行う。 (学生が自作するコンポーネントはチョッパーである。セットアップは学生が行うが、 チェッキングソースの扱いは教官が行う。)

課題2
減速体を窒素温度まで冷却し、同様に中性子スペクトルを求め、その速度が冷中性子領域にずれることを学ぶ。 減速体を冷却するための容器等は学生が自作する。

課題3
1. 極冷中性子領域及び超冷中性子領域の中性子を見つける努力をしてみて (今回のセットアップでは見つからないはず)、それらを発生させるにはどうしたら良いかを議論する。
2. 画像検出器を動作させ、各種物体の中性子透過写真を撮影する。 検出器は 2 次元のアノード抵抗分割読み出し型 PMT を使ったシンチレーション検出器か、中性子用GEM を使う。

一覧表に戻る

演習番号12:メスバウアー効果
〜光のドップラー効果を見てみよう〜


実験装置

この演習は、メスバウアー効果とそれに関連した物理を理解し、 それを観測・測定する基本的な実験技術を身につけることを目的としています。

励起状態にある原子核は γ (ガンマ) 線という光を出して基底状態になります。 その γ 線を基底状態にある同じ種類の原子核に照射すると今度はそのガンマ線を 吸収して原子核は励起状態になります。 しかし、原子核が γ 線を出す時には 運動量保存則により原子核自身が γ 線と反対方向に微少なエネルギーを持ち去ります。 この"反跳エネルギー"の分だけ γ 線のエネルギーが減ってしまって、 別な原子核を励起することができなくなってしまいます。


測定原理

ところが、原子核が結晶格子などに束縛されていると、γ 線の反跳エネルギーが結晶全体によって受け止められ、 γ 線のもつエネルギーがほとんど減らなくなるため、 γ 線の共鳴吸収が起こることが可能になります。 この無反跳核 γ 線共鳴吸収現象を発見者の名をとってメスバウアー効果と呼びます。 この状態でさらに、線源や吸収体を微小速度 (〜数 mm/s) で動かします。 そのとき γ 線のエネルギーはドップラー効果により変化するので、 この速度を変化させながら再吸収の度合いを測ります。 この現象を利用すると、ゼーマン効果や、 原子核のまわりにある結晶格子中の原子が核に及ぼす影響 (これらは一般に、 超微細構造と呼ばれます) によって発生する核準位の分裂やシフトを、 10-12 程度という超高精度で観察することができます。

本実習では、ステンレス試料と硫酸鉄試料を回転円盤に取り付けた装置を用い、 無反跳核 γ 線共鳴吸収現象とそれに付随する効果を観察する。 合わせて、原子核・素粒子実験において標準的に用いられる、 γ 線検出器 (例えば、NaI 無機結晶シンチレータ+光電子増倍管、CsI無機結晶シンチレータ+APD) の取り扱い方法や信号処理方法を学びます。

ルドルフ・メスバウアーがこの現象を発見したのは 1958 年、ミュンヘン大学の学生の時でした。 1961 年、早くもその広範な応用範囲が認識され、彼にノーベル物理学賞が授与されました。 比較的簡単な実験装置でもこの効果を確認でき、いわば ”テーブルトップのノーベル賞実験” といえます。 実習希望者は メスバウアーのノーベル賞受賞講演 に目を通し、基本的なアイデアを予め会得しておくことを勧めます。


一覧表に戻る

演習番号13:実験室スケールでの万有引力の法則の検証
〜余剰次元の探索〜


測定装置

究極の統一理論と期待される超弦理論はプランクエネルギーと呼ばれる巨大なエネルギースケールを持っています。 しかしプランクエネルギーは加速器実験では到達不可能な領域なので、 超弦理論の実験検証は不可能と考えられてきました。 プランクエネルギーの根本的な算出根拠は、万有引力の法則が最小のスケールまで成立することです。 それにもかかわらず、肝心の万有引力の法則は現在でもミクロスケールでは実験的には確認されていません。 他の3つの力に比べて重力があまりに弱すぎることも一つの要因です。

超弦理論が無矛盾である為には、我々の 4 次元時空を超える未発見の余剰次元を含む高次元空間の存在が要求されます。 電磁気学のガウスの法則から分かるとおり、力のべき乗則は力の伝播する空間次元の数に敏感です。 実は、プランクスケールだと思っていた余剰次元方向の空間がミリメートル近辺まで拡がっている可能性があり、 その場合、実験室での直接実験(加速器を用いない)で重力が逆ニ乗則からずれる現象が観測される事が期待されています。

このテーマはつい最近まで検証されていませんでした。 この演習では、センチメートルスケールでの万有引力の法則の検証を体験します。 画像処理型の最新鋭の変位計測技術を駆使した実験装置を自分達で組み立て、 観測から解析まで経験する事を目標とします。


一覧表に戻る