「KEK曲解模型群」を曲解する

展示されている「KEK曲解模型群」は四つの作品で構成されています。アートユニット「片岡純也+岩竹理恵」が茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)でのアーティスト・イン・レジデンスを通じ、経験したことや感じたことが凝縮されています。 作品は8月1~10日、茨城県つくば美術館での「つくばメディアアートフェスティバル」で初公開され、こちらに輸送されました。

すり抜ける紙飛行機

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紙飛行機の「すり抜け」は、量子力学の「トンネル効果」に似ています。今回の展示「エンタングル・モーメント」のモチーフの一つである量子 力学は、本来は乗り越えられないエネルギーの壁を粒子が一定の確率で透過することを許します。これは、光の粒である光子などミクロの粒子は 波としての性質も併せ持つという「二重性」によります。
3次元的な造形である紙飛行機を真後ろから見ると2次元の「Tの字」の字になることも「二重性」を感じますが、「粒でもあり波でもある」という考えはなかなか理解しがたいものです。しかし量子力学は多くの実験事実を説明し、「受け入れるしかない。結局、わからない」(KEK素粒子>原子核研究所の松原隆彦教授)ということのようです。
黒板には、その松原教授が計算した数式の筆跡が載っています。裏にはやはり量子力学で大きな業績を残し、量子コンピューターを提唱したこと でも知られる、米国のノーベル賞物理学者ファインマンが描いたいろいろな図があしらわれています。

テニスボールによる波の観察

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KEKの研究者と話をしていると、「波」や「周波数」という言葉を何度も聞きます。KEK加速器研究施設の細山謙二 シニアフェローがつくった波の振る舞いを見事に表現する科学おもちゃを見たこともきっかけにこの作品は生まれました。
テニスボールという「粒」が波を描くことで、やはり「粒でもあり波でもある」という「二重性」を思い起こします。ちなみにマクロな「粒子」であるテニスボールでもその波の波長を計算できますが、1兆分の1メートルの1兆分の1のさらに100億分の1程度となります。とても見えません。
なぜテニスボール? 片岡さん、岩竹さんがKEKに1カ月間、滞在していた宿舎の前にはテニスコートがあり、作品の中に個人的な経験を織り込むことにしているからだそうです。

観察するされる視点

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木が枝を張って広がっていくのは宇宙進化のイメージで、根本は宇宙の始まり。骸骨は加速器を使って宇宙誕生の謎に迫る研究者のようです。
金属パイプの高さは、KEKで宇宙誕生のビッグバンを人工的に(少し)再現しているSuperKEKB加速器の実際のビームパイプの高さとほぼ同じです。骸骨を支えている台は、KEKで使わなくなった資材が活用されています。
根本から広がっていく2本の木は、二つの方向に進む光子のペアのようにも見えます。量子力学では、これらの光子がお互いに遠く離れても関わりを持つ「もつれあい(エンタングルメント)」が起きることが知られています。片方の光子が「上向き」だと、もう片方は必ず「下向き」になるというこの性質は、量子コンピューターにも応用されており、今回の展示の名前「エンタングル・モーメント」の一部にもなっています。

フレミングの左手の法則

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この作品は、電流が流れる導線が磁場の中で受ける力の向きを求める「フレミングの左手の法則」がモチーフです。中学校でも学びます。
KEKの加速器では導線に当たるのが電子などのビームで、ビームを曲げる説明にこの法則がよく使われます。この作品では、コイルに電流を流すと、永久磁石を仕組んだ指との間で力が働き、指が飛びます。電流が流れるコイル(導線)が固定されているので、磁石のほうが動くわけです。
これはモーターが回る仕組みと実質的に同じです。帰りの電車に乗るとき、この作品を思い出してください。

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