高エネルギー加速器研究機構(KEK)の物質構造科学研究所では、電子加速器から発生する放射光や陽子加速器でつくられる中性子やミュオンと呼ばれる粒子を使って、物質の構造とその機能を、分子や原子のスケールで解明するための研究を推進しています。
放射光・中性子・ミュオンは、それぞれ物質と特徴的な相互作用をします。それぞれの特徴を活かして研究活動を行うことで、物質の性質を多角的・総合的に理解することができます。
左上:放射光により解析されたNEMOタンパク質とユビキチンタンパク質の結合のしくみ。
右:中性子回折により得られたセメント成分の結晶構造。右上から、珪酸三カルシウム、珪酸二カルシウム、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウム。
左下:上:ミュオンスピン回転を活用した研究が行われている新鉄系超伝導物質(Ba0.6K0.4)Fe2As2の結晶構造。
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アンジュレーターと呼ばれる挿入光源から発生する放射光。中心部分で、目には見えない強力な軟X線が発生している。
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放射光は、光速に近い速さに加速された電子がその軌道を曲げられたときに放出する光です。光といっても、わたしたちが目で見ることのできる可視光線とは異なり、放射光は、赤外線からX線に至るまでの広い波長(エネルギー)領域にわたっています。
波長の短い(エネルギーの高い)光である極紫外線や軟X線、X線を用いると、物質のナノスケールの構造を捉えたり、電子のふるまいを探ることによって物質の性質の謎を解明することができます。
また、挿入光源と呼ばれる特殊な磁石の装置を用いて、より強力で性質の優れた光が造られています。
中性子は、加速した陽子ビームを標的となる物質に衝突させ、標的中の原子核が破砕されることによって得られます。中性子を物質に照射して、その散乱の様子を分析することにより、物質の構造を調べることができます。
中性子は電荷を持たないため、原子の中の電子とは殆ど相互作用しません。そのため、X線のように電子をたくさん従えた原子番号の大きな原子ほど散乱されやすくなるようなことはなく、むしろ同じような質量を持つ、水素、リチウム、さらには炭素、酸素などの軽い元素を含む分子の構造を調べるのに適しています。また、同じ元素でも原子番号が異なる同位体では散乱のされやすさが異なることから、同位体の分析にも用いることができます。
X線(放射光)は電子によって散乱されるが、中性子は原子核によって散乱を受ける。
ミュオンは、宇宙線の中に発見された素粒子で、中性子と同様、陽子加速器を用いて造り出すことができます。生成されるミュオンはスピン(磁針)の向きが揃っているので、物質中のナノスケールの磁場の「大きさ」や「動き」を高感度に捉えることができます。
ミュオンを用いて物質の磁気的性質を探るためのμSR実験装置。
放射光・中性子・ミュオンは、それぞれ物質と特徴的な相互作用をします。それぞれの特徴を活かして研究活動を行うことで、物質の性質を多角的・総合的に理解することができます。