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last update: 08/01/04  
 機構長コラム
   
鈴木 厚人 機構長
2008.01.04
将来計画ロードマップ

KEKの将来計画を考える時、2009年から2010年にかけては一つの節目となります。まず、東海村に建設中の大強度陽子加速器施設(J-PARC)では一期計画の建設が終了し、中性子、ミュオンを使った物質生命科学研究、ニュートリノやハドロン等の素粒子研究や原子核研究が開始されます。Bファクトリーは所期の実験データ収集の目標であった積分ルミノシティ(1/ ab)を達成するでしょう。世界の研究者が共同でまとめている国際リニアコライダー(ILC)の工学設計書は、2010年までにまとめられます。また、次世代の放射光源としてのエネルギー回収型ライナック(ERL)の研究開発を進めることが、放射光研究者コミュニティから提案されています。CERNにおける国際共同研究LHC実験は、2010年頃に最初の成果が期待されます。

この節目となる時期の国内外の状況を鑑み、KEKが推進する将来計画の道しるべとなるロードマップを、早急に作成することが求められています。そこで、戸塚前機構長がまとめたロードマップ中間報告に関連コミュニティによる将来計画展望を加味して、さらに検討を加えたたたき台を、昨年4月に作成しました。これを受けて、高崎史彦・素粒子原子核研究所長を中心としたロードマップ策定委員会を4月に発足させ、最終案の取りまとめを行っています。委員会がまとめた案をこの秋に受け取りました。ロードマップ委員会案は、今後各コミュニティからの意見と今年3月に予定されている国際ロードマップ諮問委員会の提言を参考にしてKEK最終案を作成し、概算要求を伴う事項は政府関連委員会に提案する予定です。

このロードマップは、KEKの多様な研究活動をさらに強化し、今後も世界を先導する研究拠点の構築に主眼点が置かれています。J-PARC、LHC、放射光のロードマップはほぼ中間報告に沿ったものです。しかし、中間報告ではKEKB終了後のオプションとしてILCの推進と、現在のKEKBの性能をさらに増強するSuper-KEKBの両計画が併記されていました。このオプションの選択は、決断をする時期です。ロードマップ委員会は、KEKBのアップグレードを早期に着手することにより、B中間子の稀崩壊現象の研究などで世界に類を見ない研究環境を作り出すことと、超伝導加速空洞等の徹底した技術開発を推進し、ILCの早期実現に努めることを提案しました。委員会のこの選択を私は支持します。

最近、英国や米国で高エネルギー物理学関連の予算が大幅に削減されましたが、このような動きに憂慮を表します。加速器科学のプロジェクトは益々大型化し、また要する期間が長期化しています。このため、広範囲な国際協力とそれを支える基盤構築が必須となります。今は各国が一体となって国際協調をより一層強化することが重要であると私は考えます。

一方、多額の経費を必要とするこれらの大型科学研究を推進するには、納税者である国民の支援と、研究者から社会への積極的な貢献なしには推進できないと考えます。KEKには世界のトップレベルの研究成果を創出する環境がたくさん整っています。最高の研究成果を生み出しながらも、産業界との連携や社会への技術移転を視野に入れ、環境やエネルギーなどの社会的問題の解決にも積極的に関与することに、真剣に対応しなければならない時代にきています。これまでのKEKの基礎科学における研究活動の枠を越えた研究環境の構築もKEKに課せられた大きな使命であると思います。
 
 
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