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last update: 15/05/15
機構長コラム
鈴木 厚人 機構長
2008.10.08
ノーベル物理学賞祝辞
南部陽一郎先生(シカゴ大学名誉教授)・益川敏英先生(京都大学名誉教授)・小林誠先生(高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所・前所長)の2008年ノーベル物理学賞受賞を心よりお祝い申し上げます。
南部先生は、素粒子理論に対して、初めて自発的対称性の破れという概念を導入されました。
この理論の初期の成功は、一見して複雑な核子の間に働く力の背後にある隠れた対称性の存在を解き明かしたことです。この理論によって、対称性の破れによって核子が質量をもつこと、また核力を伝える軽い中間子が、対称性が存在する証拠であることが示されたのです。
この「自発的対称性の破れの機構」は単に核子の対称性を解き明かすにとどまらす、素粒子に働く他の力や、素粒子の質量の起源を説明する基本理論の根幹をなすものとなっています。この基本理論の予言するヒッグス粒子の存在については、KEKも参加するLHC(Large Hadron collider)実験で今まさに具体的な検証にすすもうとしています。
先生はこの他にも、ストリング理論の定式化や、自然界では単独で存在しないクォーク同士を結びつけるカラーの概念の導入など、現在の素粒子理論の根幹をなす革新的なアイディアを提唱されています。また先生は深い洞察力で素粒子理論を発展させるだけでなく、日本の高エネルギー物理の発展にも長きにわたって、ご尽力をいただいています。先生のノーベル賞受賞を心からお祝い申し上げます。
小林先生・益川先生は、素粒子の標準模型におけるCP対称性の破れを説明する「小林・益川理論」を提唱されました。この理論は、当時K中間子の崩壊で見られた荷電(C)と空間反転(P)の対称性の小さな破れを説明するには、クォークには3つの世代があることを意味する、という驚くべき予言をしました。この独創的な業績は現在の素粒子の標準模型の柱石となっており、現在までに5000を超える学術論文で引用されてきました。この研究は、弱い相互作用にゲージ理論を適用するという、当時まだ認められていなかった理論を真剣に取り上げることによって生まれた真に先駆的なものでした。
相対論的場の理論においては時間反転(T)を加えたCPT対称性は自動的に保たれますが、個別のCおよびP対称性は、弱い相互作用においては完全に破れています。これらを組み合わせたCP対称性は、非常によい精度で保たれていますがK中間子の崩壊ではわずかに壊れていることが1964年に発見されました。
両先生は、このCP対称性の破れが標準模型の枠内で理解できるかどうかを詳細に検討し、もしも(当時はまだ想像されることさえなかった)3世代目のクォークが存在すれば、CP対称性の破れを説明できることを示しました。これらのクォークは、その後、第2世代のうちまだ見つかっていなかったチャームクォークの発見(1974)、第3世代のボトムクォークの発見(1977)、そしてトップクォークの発見(1995)によって、その存在が確認されるに至り、両先生の理論が正しかったことを裏付けることになりました。
CP対称性の破れの性質はボトムクォークの崩壊を測定することで、より詳細に調べることができます。高エネルギー加速器研究機構では、Bファクトリー加速器を建設し、標準模型における CP 対称性の破れの機構を探る実験を行いました。この実験は、アメリカのスタンフォード線形加速器センター(SLAC)に同じく建設された同種の実験との激しい競争の末、2001年、両者が同時に、B中間子におけるCP対称性の破れを小林・益川理論の予言通りに発見しました。その後のより精密な多くの測定を通じて、現在では小林・益川理論は実験的な確証を得ています。
先生らの研究は、素粒子物理における輝かしい業績としてノーベル物理学賞を受けるにふさわしいものであり、その受賞は私たちの誇りとするところでもあります。南部先生、小林先生、益川先生、本当におめでとうございます。
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