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last update: 15/05/15  
 機構長コラム
   
鈴木 厚人 機構長
2010.01.05

年頭の挨拶

新年明けましておめでとうございます。年頭にあたり一言ご挨拶申し上げます。
 
年は明けましたが、来年度予算がまだ確定せず昨年を引きずっている感がいたします。昨年は新政権誕生で期待することが多々ありました。それは鳩山首相が、一昨年7月に発足した先端加速器科学を推進する超党派議連の副座長であったからです。超党派議連の発足会直後、また、昨年2月に開催された先端加速器技術推進協議会シンポジウムでの挨拶直後、高エネルギー加速器研究機構(KEK)を見学されることを希望しておられました。政権交代によって、基礎科学振興の重要性がさらに強まることを期待していました。また、世界の加速器研究所の所長連は自国の政府と比較して、日本を羨望のまなざしで見つめていました。
 
しかし、Black NovemberまたはBlack Fallが訪れました。選挙で公約したマニフェスト実現のための財源確保を目的にした事業仕分けの開始です。事業仕分けの結果については新聞報道等でのとおりです。これに対して、ノーベル賞受賞者や国大協をはじめとする研究者の批判が飛び交いました。私たちも関東甲信越大学長や4大学共同利用機関機構長のメッセージを、首相や文科大臣に送りました。また大学共同利用機関の4機構は立花隆氏を交えて記者会見し、事業仕分けが及ぼす悪影響を訴えました。
 
一方で、個人的にはこのような手段では国民から理解を得るのは難しいだろうと感じました。それは、"頭を殴られたら、殴り返そうとする"様に似ているからです。もっと筋を通した説得力のある反論が必要であることを痛感しました。そこで有効と思える手を打ちました。大学共同利用機関とKEKの存在意義と役割を十分理解してもらうため、"行政刷新会議による事業仕分けの影響についてのご意見募集について"でパブリックオピニオンを募集しました。事業仕分けは"国民の目線=役に立つ、無駄の排除"を掲げているけれども、本当の国民の目線はどこにあるのか? 国家予算においては多様な目線が必要ではないか? 等々、国民からじかに意見を集めることが目的でした。幸いにも10日間で約800通(国内外、各400通)の意見が寄せられました。この意見募集結果は文科省政務三役の目に留まることになり、結果を報告するよう要請を受けました。政務官はKEKの取り組みを高く評価してくれ、あらかじめ決められた懇談時間の倍を費やして、大学共同利用機関、KEK、運営費交付金特別教育研究経費、科研費等々と多岐にわたり意見交換しました。今回、"行政刷新会議による事業仕分けの影響"についてご意見をお寄せいただいた皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。
 
事業仕分けおよび意見募集から反省すべき点が多々あります。特に、国民に対してKEKの目標・役割、現状、研究成果、社会貢献を理解してもらう努力が不十分であったことがあげられます。これを徹底的に改善しないかぎり、KEKの将来計画の実現は難しいでしょう。広報の充実、データベースの充実、開発した技術の社会への移転は言うまでもありません。しかし、もっと国民に接近し、草の根的な努力が重要であると考えます。全国津々浦々への出前授業、4機構及び総研大で年数回各地で講演会の開催、KEKに関する本の出版等に全力を尽くつもりです。
 
KEKの今年の研究活動について、コメントします。J-PARCは3GeVシンクロトロンで300kW運転に成功しました。今年はいち早くビームパワー目標を達成し、数々の研究成果を輩出することが最重点項目です。KEKBは昨年、積分ルミノシティ:1,000 fb-1と瞬間ルミノシティの両方で世界記録樹立をなし遂げました。KEKBの競争相手であったSLAC(スタンフォード線形加速器センター)の所長から心温まるメッセージをいただきました。特に、KEKとSLACが次期計画のSuper-KEKB実現に向けて共同歩調をとる機運が生まれたことは大変喜ばしいことです。来年度こそは、R&DではなくSuper-KEKBの実質予算化を実現する決意です。放射光はコミュニティとしての将来構想とKEK独自の将来構想を練る必要があると感じます。その意味でKEK-X計画をどこまで詰めるかが今年の課題でしょう。欧州CERNにおいてLHC(Large Hadron Collider)が運転を開始しました。実験結果が大いに期待されます。ILC(International Linear Collider)は今年が技術開発結果の中間報告の年です。どこまで技術開発が進展したのか、結果次第では日本の戦略の練り直しも必要になります。
 
加速器科学プロジェクトの大型化、グローバル化は益々必須になってきました。これに備えるべく、新たなプロジェクト組織形態、運営手法の確立が大きな課題です。ILCやCERNの次期計画等に対処すべく、CERN所長と昨年11月に意見交換しました。個人的な提案を交え、大方で意見が一致しましたが、今後はいかにしてこれを実現するかが課題です。昨年12月にアジア地区における加速器科学のグローバル化に対応すべく、加速器・測定器技術の開発と応用を主眼とした加速器科学アジア連合:JAAWS(Joint Asian Accelerator WorkShop)を立ち上げました。現時点では、インド、韓国、中国、日本、ロシアの5カ国が参加していますが、既にその他の国からの参加希望が出ています。今後のアジア経済の発展と共に、益々、JAAWSの役割が大きくなることを期待します。
 
最後に干支にちなんだ話で締めくくります。今年のKEKの命運を予測すると、晴れのち曇りのち晴れ・・・・・・でしょう。それは虎の黄黒のストライプ模様から推測されます。また、虎にまつわる諺は戒めが多いです。"おごるべからず"でしょうか。国民の目線、国民に接近する "grass-roots activity(草の根活動)"を今年のモットーとしましょう。
 
 

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