アブストラクト: |
近年、少数粒子系物理学の研究は着実に進歩している。例えば、核子
の三体系では、近年の三核子系散乱の精密実験と精密計算の協力により、これ
まで蓄積された p-d 散乱データを説明するためには三体力の導入が必要であ
ることが確認される一方、現在までに使われた三体力ではこの散乱を完全には
説明できないことも分かってきた。 また、三核子系の計算に用いられる現実
的核子間相互作用についても、 伝統的な OBEP 的アプローチ以外に、カイラ
ル摂動論や、クォーク模型による相互作用を用いた取り組みが始まっている。
ストレンジネス自由度を持つハドロンの少数多体系では、世界の複数のグ
ループで ^3_Λ Hや^4_ΛHe等のバリオン系がテンソル力や ΛN - ΣN
結合を取り入れて厳密に解かれ、これらにより ΛN 相互作用や ΣN 相互作用
の知識が現在飛躍的に増大している。また、^ 6_ΛΛHe 等の新しいダブル
ハイパー核イベントが発見されたことに より、ここからどの様にして正確な
ΛΛ相互作用の情報を得るかということが重要な問題となっている。
この様に、少数粒子的アプローチは三核子系や少数バリオン系にとどまらず、
種々の分野で基本的な考え方であり、また、非常に有効な武器である。少数粒
子的アプローチの種々の系への応用という面では、日本には長い歴史がある。
ATMS 法に始まる工夫された変分計算や確率的変分法、Faddeev 理論による
アプローチ等は互いに補い合いながら、協力して物理学を進めてきた。また、
原子核散乱では、実用的 CDCC と Faddeev 理論の間の深い議論は非常に
有用なものであった。現在、少数粒子系物理学の応用は多方面に渡っている。
例えば、ハイパー核、不安定核、クラスター、原子分子、電子・陽電子系、反
水素原子、 核反応、電子散乱等に及ぶ。だが、それらの分野の実験を特定の
理論的アプローチのみで解析していることが多いように思われる。少数粒子物
理学の方法は、基本的に共通しているので、これらの分野間で研究会を持つこ
とによって、新たな進展が期待できよう。
原子核の研究は不安定核に研究の前線を広げることによって、新たなる地
平を 望むことができるようになった。そこでも少数粒子的な考え方は非常に
有効であることが分かっている。そこでは二体的なアプローチでは決して分か
らない様な Effimov state に代表される三体以上の効果の研究が進んで
いる。この様な弱く結合した系の研究も広い分野にまたがっている。やはり広く
関連分野の研究者の相互理解が必要であろう。
本研究会の目的は、本年 8 月末に上海で開催される少数多体問題のアジア・
パシフィック会議(APFB02: http://apfb02.sinr.ac.cn/ )を前に、
少数系研究者が分野を超えて集まり、それぞれの分野の進展を説明、討論
をすることにより、問題点を浮き彫りにし、各分野の更なる発展を促すと
同時に、研究者間の交流を深めることである。
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