物構研談話会

日時: 2013-02-21 16:00 - 17:00
場所: 4号館2階輪講室1/MLF第一会議室
会議名: 物構研談話会(12-38) 陽電子による物質科学
連絡先: 中尾裕則4868
講演者: 兵頭俊夫氏  (KEK 物構研 )
アブストラクト: 陽電子は電子の反粒子であり,気体中や物質中では電子と対消滅してγ線になる運命にある。しかし,対消滅の断面積はきわめて小さく,例えば分子と の衝突1回あたりの消滅の確率は100万分の1である。このため,物質に入射した陽電子は,電子やフォノンを励起して数psのうちに熱化してから 消滅する。物質中の陽電子の平均寿命は物質によって異なるが,通常,150〜500psである。この間,陽電子は物質中を拡散し,もし,原子空孔 型の欠陥があれば,そこにトラップされてから消滅する。また,電子との間にポジトロニウムと呼ばれる水素様「原子」を形成してから消滅することも ある。このように物質中の陽電子は基底状態に落ち着いてから消滅するので,放射性同
位元素からの高エネルギーまで広がるエネルギースペクトルの陽電子を 用いても,電子の運動量分布(フェルミ面)や,格子欠陥をプローブすることができる。ただしこのような使い方の場合,陽電子は熱化するまでに物質奥深く(100μm程度)侵入するので,表面や薄膜の研究には使えない。幸い1970年代に,Cu,Ni,W,Ptなどの金属が陽電子に対して負の仕事関数をもっていることを利用して低速陽電子をつくる方法が開発され た。すなわちこれらの金属の内部で熱化した陽電子のうちたまたま表面に拡散してきたものの一部が,仕事関数に相当する1eV程度のエネルギー,熱エネルギー程度の幅で放出される。これを望みのエネルギーまで加速することで,可変エネルギー単色陽電子ビームが得られる。KEK低速陽電子実験施設では,この方法で作った陽電子ビームで共同研究か展開されている。本講演では,2010年来のビーム強度増強及び輝度増 強で可能になった,反射高速陽電子回折(RHEPD),ポジトロニウム負イオンの光脱離による可変エネルギーポジトロニウムの生成,ポジトロニウ ムTOFによる金属及び絶縁体表面の研究について紹介する。

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