アブストラクト: |
混合原子価希土類化合物に対するL吸収端磁気円二色性(XMCD)の研究は、長年、
強磁性体を対象にして進められてきたが、最近、松田ら[1]がパルス磁場を用いた40T
までの強磁場下実験に成功したことにより、新しい発展を遂げようとしている。
それ以前は、2004年にJ.-P. Kapplerが7Tの磁場下でCePd3のXMCD実験に成功した
のみであった。筆者はこの35年間、内殻電子分光のさまざまな理論(単行本[2]を参
照)
を展開してきたが、KapplerらがCePd3の実験を行った際、これを説明する理論が
存在しないことに気づいた。そこで、外場によるCe 4f電子の磁気分極効果と混合
原子価効果の競合を取り入れたXMCDの新しい理論を作り、ごく最近公表した[3]。
この理論はCePd3の実験を説明するだけでなく、CeRu2Ge2, Ce(Pd0.75Ni0.25)3,
CeFe2
などの強磁性混合原子価化合物のXMCDをも統一的に記述することができる。また、
広範囲(例えば0T〜1000T)の磁場下でのXMCDを予言する。さらに、この理論は、
4f状態の電子・正孔対称性に着目して混合原子価Yb化合物の場合に拡張することが
できる[4]。Yb化合物に対する理論の一つの応用として、ここではYbInCu4のXMCD
を計算し、松田らの実験結果[1]と比較する。この物質は約32Tの磁場のもとで磁場
誘起価数転移を起こすことが知られており、転移の近傍でのXMCDの振る舞いを明ら
かにしたい。
[1] 松田康弘、他、日本物理学会2008年秋季大会講演.
[2] F. de Groot and A. Kotani, Core Level Spectroscopy of Solids (CRC, Boca
Raton,
Florida/Taylor & Francis, London, 2008).
[3] A. Kotani, J. Phys. Soc. Jpn. 77 (2008) 13706; A. Kotani, Phys. Rev. B
78
(2008) 195115.
[4] A. Kotani, Eur. Phys. J. Special Topics 169 (2009) 191. |