放射光セミナー

日時: 2010-06-25 13:30 - 15:00
場所: PF研究棟2階会議室
会議名: 放射光セミナー「希土類化合物の共鳴非弾性X線散乱における 低エネルギー励起の理論」
講演者: 小谷章雄氏  (PF共同研究員、SPring-8客員研究員)
講演言語: 日本語
URL: http://pfwww.kek.jp/pf-seminar/
アブストラクト: 最近の高分解能化により 、共鳴非弾性X線散乱( RIXS )の実験は飛躍的な進歩を遂げ、従来は弾性散乱線からの分離が不可能であった低エネル ギー励起を、非弾性散乱成分として観測できるようになった。結晶場励起、電荷移動励起、スピン励起などがその例である。しかし、これまでにおこなわれた高 分解能実験の殆どは遷移金属化合物を対象としていて、希土類化合物に対する実験は極めて少ない。本講演では、希土類化合物に対する高分解能 RIXS の重要性を理論面から予言し、また、極限環境下での物性研究において高分解能 RIXSが今後果たすべき重要な役割を強調する。 希土類化合物の結晶場励起エネルギーのスケールは遷 移金属化合物よりも1ないし2桁小さい。しかし、最近の分解能の向上(従来より1桁以上向上している)から考えて、その実測は時間の問題と思われる。それ にさきがけて、本講演ではYb化合物の 3d内殻共鳴を例にして、結晶場励起 RIXSの理論計算をおこなう。 さらに興味深いのは、混合原子価希土類化合物の低エネルギー電子励起として、近藤共鳴励 起をRIXS により観測することである。系の基底状態は一重項束縛状態(近藤束縛状態)で、そこから 磁気的励起状態への励起エネルギーは近藤束縛エネルギーkB TKある。したがって、高分解能 RIXSは近藤温度TK を最も直接的に検出する手段となる筈である。こ こでは、YbInCu4やYb 1-xLuxAl3のYb 3d内殻共鳴RIXS における近藤共鳴励起を不純物アンダーソン模型 により理論計算する。 高圧・高磁場などの極限環境下で有効な電子状態 の実験手段はかなり限定されるが、RI XS は間違いなく最も有効な手段の一つである。従来は低エネルギー励起の測定が殆ど不可能で あったため、RIXS の威力が十分発揮されていたとは言い難い。本講演では、今後の展望の一例として、低温の YbInCu4が 30T以上の高磁場下で示す磁場誘起価数転移におい て、RIXS の近藤共鳴励起が磁場変化する様子を理論計算する。それによって、磁場誘起価数転移は外 部磁場によって近藤束縛状態が不安定化する過程であることを明確にすることができる。

[index]