理論セミナー

日時: 2009-01-19 14:00 - 17:15
場所: 本館321号室
会議名: (pi,N)反応によるη中間子原子核生成とN*(1535)共鳴に対する有限媒質効果
連絡先: 安井繁宏
講演者: 永廣 秀子  (奈良女子大学)
アブストラクト: 時間 14:00-15:00, (休憩15分), 15:15-17:15 中間子-原子核束縛系の研究は、ハドロン原子核物理学の分野で重要な課題のうちのひとつである。それら束縛系の構造を詳細に検討することにより、ハドロン原子核間相互作用を定量的に解明することが出来る。 η中間子と原子核との束縛状態の存在可能性はHaiderとLiuらにより指摘され[1]、その後多くの理論および実験研究者により、その生成および性質について研究された[2]。近年では有限密度中におけるη中間子の性質を、カイラル対称性の観点から理解しようとする研究もなされている[3- 7]。η中間子は電気的に中性であるため、その束縛状態は強い相互作用のみによって形成される。従ってη中間子の波動関数は原子核と大きくオーバーラップしており、そこから受ける媒質効果は大きなものと予想されるが、同時にその崩壊幅も大きくなるため、鋭いピーク構造を観測することは難しくなる。実際、最初のη中間子原子核生成実験は、比較的重い核を標的に用い(pi^+,p)反応を用いて行われたが[2]、理論的に予言されたような狭い束縛状態[1]のピークは観測されなかった。 η中間子と核子の系は、N*(1535)共鳴状態に非常に強く選択的に結合するため、N*(1535)の存在がη中間子原子核相互作用において重要な役割をする。更に重要なことは、この共鳴状態がη-核子系のわずか50 MeV 上にあるという事実であり、その為N*(1535)に対する媒質効果がη中間子原子核間相互作用に大きな影響を及ぼす。N*(1535)共鳴状態は、核子のカイラルパートナーのひとつの候補として考えることができ(カイラル二重項模型[8,9])、その描像に従うとするならば、その質量差はカイラル対称性の部分的回復に伴って有限媒質中で小さくなることが期待される。上記のレベルの差50MeVは核子とN*の質量差のたかだか10%であり、ハドロン相互作用で十分到達可能なスケールと言える。従ってもしそのような質量差の減少が実現されるならば、当然η中間子原子核相互作用にも強い影響を及ぼし、η中間子原子核生成スペクトルにもその効果が現れることが期待される。実際、我々はカイラル対称性の部分的回復に伴って、η-核子およびN*の二つのレベルが有限密度中で交差しうることを示し[6]、このことが非常に深いηの束縛状態と、準自由領域に大きなバンプ構造を引き起こし得ることを示した[7]。これらの現象が実際に観測されたならば、有限密度中でのN*の性質を理解する糸口になる事が期待される。 本セミナーの前半では、η中間子原子核生成について、カイラル対称性の観点から導出した相互作用を用いて研究した内容を講演したい。また過去の実験データとの比較を行い、よりクリアに情報を引き出すための実験条件の改良を議論し、J-PARCにおいて提案している実験案[10]についても紹介したい。またセミナーの後半において、我々が行った他の系の研究も例に用いて、より具体的な計算の詳細を紹介する予定である。 [1] Q. Haider and L.C. Liu, PLB172, 257, 1986. [2] R.E. Chrien et al., PRL60, 2595, 1988. [4] T. Inoue and E. Oset, NPA710, 354, 2002. [5] D. Jido, H. N. and S. Hirenzaki,PRC66, 045202, 2002; H. N., D. Jido and S. Hirenzaki, PRC68, 035205, 2003; D. Jido, E. E. Kolomeitsev, H. N. and S. Hirenzaki, NPA 811, 158, 2008; H. N., D. Jido, S. Hirenzaki, e-Print: arXiv:0811.4516 [nucl-th]. [8] C. DeTar and T. Kunihiro, Phys. Rev. D 39, 2805, 1989. [9] D. Jido, Y. Nemoto, M. Oka and A. Hosaka, Nucl. Phys. A 671, 471,2000; Y. Nemoto, D. Jido, M. Oka and A. Hosaka, Phys. Rev. D 57, 4124, 1998. [10] K. Itahashi, H. Fujioka, S. Hirenzaki, D. Jido, and H. N., Letter of Intent for J-PARC.

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