平成22年度 高エネルギー加速器研究機構公開講座のご案内

テーマ:『お肌から宇宙まで』

「お肌と洗剤とコンニャクと~『やわらかなもの』を科学する」

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授 瀬戸 秀紀

「ふにゃふにゃ」「ふわふわ」「ぐにゃぐにゃ」「ぷるんぷるん」… これらはどれも、やわらかいものに触った時の表現です。ソフトクリームとコンニャクは「やわらかい」と言う意味では同じですが、しかし皮膚に触れた時の感触や、口の中に入れた時の食感は全く違っています。またその感じ方は、皮膚が湿っているか乾いているかによっても違います。金属や氷などのような固い物とは違う「ソフトマター」と呼ばれる物質群が、なぜそのような性質を持っているのか。その性質の源を、X線や中性子を使ってどうやって調べるのか。いくつか身近な例を挙げながら、紹介したいと思います。

「宇宙の4つの謎と素粒子物理」

高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 教授 山内 正則

素粒子物理学は物質の究極の姿を探ろうとする動機から発展してきましたが、同時に宇宙のことを理解しようとするとやはり素粒子のことをもっとよく知らなければならない、ということが分かってきています。宇宙にはまだよく理解できていない謎がいくつもありますが、このうち、「消えた反物質」、「質量の起源」、「暗黒物質」、「加速する宇宙膨張」の4つの謎の解明には特に素粒子物理学からのアプローチが大切であることが知られています。この講演ではこれらの謎に焦点をあてて説明するとともに、現代の加速器を用いた素粒子の研究がどのようにこれらの謎の解明に挑もうとしているのかをお話しします。

テーマ:『がんと闘う加速器』

「衝突型加速器の最前線、マイクロビームからナノビームへ」

高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 教授 小磯 晴代

素粒子・ 原子核・物質・生命・宇宙、様々なサイエンスの分野が、加速器によって切開かれ発展してきました。加速器には、目標に応じて様々なタイプがありますが、その一つが衝突型加速器と呼ばれるもので、電子や陽子などの粒子を加速して衝突させ、宇宙の初期に近い状態を再現したり、自然には存在しない新粒子をつくり出したりします。世界最高の衝突性能を誇る衝突型加速器「KEKB」は、Bファクトリー(工場)としてB中間子とその反粒子を大量に生成し、小林・益川理論(2008年ノーベル物理学賞)の検証を始めと素粒子物理学の大きな成果を支えてきました。KEKBとそのアップグレード計画を例にとって、加速器の基礎と衝突性能を上げるための画期的な工夫をご紹介します。

「加速器開発とがん治療への応用」

東京大学 名誉教授/元放射線医学総合研究所長 平尾 泰男

1930年頃から加速器開発が盛んに行われ、物理学の根幹に関わる新概念の形成に加速器の貢献は目覚ましいものがあった。しかしながら、試作加速器は全て病院に先ず設置されて、成功裏に診断用X線を提供した。医学は早くからがん治療に利用することを試みたが、結果は必ずしも成功とは言えなかった。やがて、コンピュータの発達が加速器をより高度なものにし、今や物理学は宇宙創成期の完全な理解に迫っているが、医学診断にも目覚ましい進化を遂げさせ、そして高度に進化した加速器を用いた重粒子線がん治療の時代が拓かれようとしている。加えて、加速器の大強度陽子線が齎す硼素中性子線捕捉療法(BNCT)、次世代PET診断技術等もおたがいに相補的な車の両輪であるが、すべて核物理学・加速器物理学の医学応用であり、わが国が世界をリードしている分野である。