大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所
Institute of Particle and Nuclear Studies
© POLARBEAR Collaboration / KEK

宇宙マイクロ波背景放射観測実験グループ

「宇宙はどのようにして始まったのだろう?」そんなことを考えたことはありませんか?

誰も見たことのない古い昔、誰も行ったことない遠い星、かつてこれらを知るには、理論的に予想するしかありませんでした。しかし現在では実験や観測で確かめることができるようになりました。 宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background; CMBシー・エム・ビー)観測実験もその一つです。

私たちCMB観測実験グループは、これまでの素粒子物理学実験で培われた超伝導測定器技術や大量の読み出し技術を駆使し、「宇宙はどのように始まったのだろうか?」「どんな物理法則が宇宙を創り、進化させたのだろうか?」という問いに、実験・観測から迫っていきます。

宇宙マイクロ波背景放射

宇宙マイクロ波背景放射(以下CMB)とは、宇宙のどの方向からも一様に降り注いでいる電磁波です。 1964年にアーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンが、その存在を発見し、1978年にノーベル物理学賞を受賞しました。 CMBはビッグバン直後に発生したと考えられています。そのため「宇宙最古の光」とも呼ばれています。 この「光」の性質を詳しく調べることは、宇宙誕生直後の様子を観察するということです。

CMB温度の非一様性とビッグバン宇宙論

宇宙の晴れ上がりの頃に存在していたであろう元素の化学結合の大きさから、当時の宇宙の温度は約3000 Kケルビンであったと推測されています。 一方、ペンジアスとウィルソンは、CMBの温度を測定し、現在の宇宙の温度は約数Kと冷えきっていることを明らかにしました。この温度の低下は、空間の断熱的な膨張、すなわち宇宙が膨張したことを示しており、約138億年前に、宇宙は急速に膨張する超高温・超密度の「火の玉」として生まれ、その後、膨張とともに温度・密度が下がり現在の姿になったとする「ビックバン宇宙論」の決定的な証拠となりました。

また、宇宙に存在する星や銀河の形成、分布などが現在の構造を持つためには、初期の宇宙は一様でない構造を持つこと、すなわち非一様性が必要だと考えられていました。この非一様性は、アメリカ航空宇宙局NASAが打ち上げた、CMB温度の精密測定を目指したCOBEコービー衛星や、CMBがやってくる方向の特定能力を向上させ温度の空間分布の測定を目指したWMAPダブリューマップ衛星を使って精度よく測定することにより発見されました。

CMB偏光Bモードとインフレーション宇宙論

現在行われている最先端のCMB研究では、CMBの偏光を測定することに注目が集まっています。 特に「偏光Bモード」と呼ばれる偏光パターンは、インフレーション宇宙論で提唱されており、主にインフレーション時に作られた原始重力波や、重力レンズを通り抜けたCMBの中に存在するとされています。これらの偏光Bモードの発見はインフレーション宇宙論の直接検証になるため、世界各国で熾烈な競争が行われています。私たちCMBグループはPOLARBER実験を行っています。

POLARBEAR実験

POLARBEAR実験は、CMB偏光を精密に測定する実験です。 CMB偏光Bモードと呼ばれる特殊な偏光パターンを検出し、原始重力波の痕跡や重力レンズ効果を精密に観測することを目指します。

標高5200mのチリ・アタカマ高地に建設された、直径3.5mの主鏡から成る望遠鏡と、最先端の超伝導検出器を用いてCMBの偏光を観測します。 チリは乾燥しているため、大気でCMBが吸収されにくく、地球上で最もCMB観測に適した場所なのです。

POLARBEAR実験は2012年から観測を行っています。 2014年には世界初となる重力レンズ効果によるCMB偏光Bモードの測定を行ったという成果をあげています。 今後は、望遠鏡を改良し、原始重力波によるCMB偏光Bモードの発見を目指します。

関連リンク

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