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第5回 サマーチャレンジ開催される

2011年9月1日

8月19日(金)から27日(土)までの9日間にわたり、「第5回 大学生のための素粒子・原子核、物質・生命スクール サマーチャレンジ」が開催されました。

サマーチャレンジは大学3年生を主な対象として、基礎科学を担う若手を育てることが目的です。

KEKの施設において、研究最前線で活躍する研究者による講義や施設の見学が行われます。特に演習は、研究者から直接指導を受けながら実験や解析を行い、最後には発表するという研究の流れを体験することが出来ます。

初日は小林誠KEK特別栄誉教授による「素粒子物理学の進展」と題した特別講演がおこなわれ、日本人研究者の素粒子物理への貢献について紹介されました。 小林特別栄誉教授は講演後、「高度な質問も出ましたし、学生さんの今後に期待しています。是非、日本のこうした物理学貢献への伝統を引き継いで欲しい。」と参加者に期待を寄せました。

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講義後は熱心に質問をする参加者の姿がありました。

他にも、物質生命や宇宙、素粒子物理学、数物、放射線など、多岐にわたる講義が連日行われ、大学3年生にとって高度なレベルながら興味深い講義の数々が行われました。

基礎科学において、様々な研究や分野があるということを知る大きなきっかけになります。

そして、サマーチャレンジの根幹を成すといっても過言ではない「演習」は、徹底的に研究のリアリティにこだわっています。連日夜中まで演習が続くこともしばしばです。参加者は眠い目をこすりながらも熱心に課題に取り組んでいました。

素粒子・原子核コースは9の演習、物質・生命コースでは8の演習が行われました。これらの演習は研究者自身がサマーチャレンジ前に予備実験を行いながら、試行錯誤の上に練り上げたプログラムの数々です。

素粒子・原子核コースの「最新のシンチレーション検出器を究めよう~光る結晶と光る液体キセノン~」の演習を担当した中村正吾 横浜国立大学准教授は「学生同士で議論して、手を動かしながらじっくり考えさせることを一番重視しています。 そして、自分達の力で出来たという達成感を学生に得て欲しいと考えています。こうした経験は、研究以外にも役立つと思います。学生の一人は『この演習で実験が面白いと感じるようになりました』と言ってくれました。」と述べ参加者に期待をしていました。一方、物質・生命コースの「放射光を測る~検出器のしくみとX線検出の実際~」の演習を担当した岸本俊二KEK物構研准教授も「検出器は自分たちで作って動かすことができます。その面白さを体験してもらうための演習プログラムを組みました。自分で組み立てた検出器が物性研究に役に立つことを自分の手と目を通して経験する機会になるとうれしいです。また、ある学生は『理論計算だけでなく実験物理も面白そう』と感想を伝えてくれました。進路を考えるためのよい経験を得てもらったことに間違いないと思います。」と述べ、参加者への手応えを感じていました。

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万有引力・等価原理検証の実習。慎重に自作のねじれ秤を実験装置に設置します。

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比例計数管の製作。直径20ミクロンのワイヤーをピンセットで張っているところ。

他にも、サマーチャレンジではキャリアビルディングというパネル討論が行われます。ここでは、研究者が自身の体験をもとに、いかにして今の研究を行い、研究者としてのキャリアを築いたのかを話します。参加者は研究の流れを体験できるだけでなく、研究者としての生き方を知る事が出来ます。キャリアビルディングでは、学生から事前に寄せられた質問を基に進められました。

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冒頭、パネラーによる自己紹介が行われました。

パネラーの一人である野尻美保子 KEK素核研教授は、参加者に対して「研究者は自分のアイディアで構想して論文を書いて発表することが大切なので周囲と同じでは駄目です。まずは、自分が周囲の人と違うところや何が特別かを見つけることが重要です。」と述べていました。

そして、最終日には研究発表会が行われます。これは、各演習グループが演習の成果を発表する大舞台です。どのグループも会場一杯の聴衆に物怖じすることなく堂々と発表を行い、自らの研究成果をアピールしていました。質疑応答の時間には、参加者同士による高度な質問と議論が飛び交い、学会発表さながらの様相でした。議論の尽きない参加者達は、研究発表会の後に行われたポスターセッションで思う存分質問をぶつけ、お互いの研究成果に対する理解を深めていました。さらには、研究者であるスタッフからの質問も飛び交うなど、参加者にとって本物の研究者と議論を交わす刺激的な場になりました。

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最終日には、演習グループ毎に演習の成果を発表しました。

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ポスターセッションでは参加者同士の活発な議論が行われました。

今回5年目を迎えたサマーチャレンジは大きな広がりを見せています。例えば、サマーチャレンジを卒業した大学院生たちが積極的にTA(ティーチングアシスタント)として加わり参加学生の指導を手伝うといったことが行われるとともに、参加者同士の連携が強くなっています。参加者が翌年、4年生になって行なった自分達の卒業研究をKEKで合同発表するといった活動を計画・立案し実行しています。
さらに、今回はスーパーサイエンスハイスクールに指定された近隣の高校生がサマーチャレンジでの講義を聞きに訪れるなど、更なる広がりをみせました。 このような広がりは、サマーチャレンジに携わるものにとって予想を超えるアクティビティです。

参加者の一人一人が、こうして築かれた繋がりや経験を糧とし、将来基礎科学を担う人材として育っていくことでしょう。自分のキャリアを築いていく上でサマーチャレンジの仲間が良き相談相手となることに違いありません。

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講義の様子。この講義で実験と理論が両輪となって進められることを学びました。

サマーチャレンジを3年前に体験した先輩から聞いて参加した久保綾子さん(お茶の水女子大学3年生)は「理論に興味があって参加しました。研究の現場で理論が実験に役に立つということを聞いて、新しい触媒開発を理論側からアプローチしたいと思うようになりました。」と目を輝かせながら語っていました。物質・生命コースは秋に実際の放射光を使った演習を行う予定です。秋の演習で、同じ仲間が再集結し一回り成長した姿を見せてくれるでしょう。

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参加者からの春山校長へのサプライズプレゼント

サマーチャレンジを締めくくる修了式では、素粒子原子核コース59名、物質生命コース28名に、鈴木厚人機構長直筆の署名が入った、「未来の博士号」と記された修了証書がKEKの高崎史彦理事、下村理理事からそれぞれ授与されました。

そして、春山富義校長からは校長特別賞として、17の演習グループに各1冊ずつ、小林誠特別栄誉教授のサインが入った本が贈られました。いつまでも横の繋がりをもつようにと1冊ごとに演習グループ全員の名前が書かれていています。「サマーチャレンジの学生として9日間の経験で得られた大きな感動を今後も持ち続けてください。」と春山校長が述べ、今回のサマーチャレンジは幕を下ろしました。

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