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復旧作業レポート・フォトンファクトリー

2011年5月26日

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「がんばろうPF」。誰かがこんな言葉をKEK放射光科学研究施設、フォトンファクトリー(PF)の実験ホールに掲示しました。この言葉に牽引されるように、PFでは職員と関係者が一丸となって復旧作業を進めています。震災からおよそ2ヶ月、ようやく実験装置の調整ができる段階となりました。今回はここまでに至る、約2ヶ月間の足跡をお伝えします。

地震発生当日

3月11日午前9時、共同利用実験が終了し、実験のために機構外から来ていた研究者や学生たちの多くは帰り始め、スタッフらは実験機器を手順に沿って停止作業などを行っていました。巨大な地震が起きたのは、その数時間後の午後2時46分でした。つくば市で震度6弱を観測した大きな揺れは数分間続き、加速器施設や実験装置などに大きな被害をもたらしました。実験ホール内では工具箱や装置が転倒し、天井ではクレーンがガシャガシャと揺れ、削られた鉄粉が降り落ちていました。実験が終了していたこともあり、人的被害が一切出なかったのは幸運でした。「もし、実験中に地震が起きていたらと思うと、怖くて涙がボロボロ出て・・・」地震後に実験ホールを見回ったスタッフは、当時の心境を振り返り、言葉を詰まらせました。

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図2

引き出しが飛び出し、バランスを失って落下した工具箱

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図3

転倒した軟X線共鳴磁気散乱装置

被害状況の確認

震災後約1週間経った3月17日、一時的に照明用電力を得て、目視による被害確認を行いましたが、実験施設が復電したのは地震から2週間以上経った28日のことでした。実際の被害把握のためには機器に電気を通す必要があるのです。しかし、福島原発事故の影響により使用電力を極力抑えるため、電気を使用する範囲を区切って順番に点検を開始しました。突然の停電により、動作不良となったもの、異音のするポンプ・・・通電とともに機器の異常が明らかになっていきました。

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図4

床に散乱したタンパク質結晶化プレート(白いケース)。

また、この間の停電により大きく影響を受けたのは、厳密な温度管理を必要とする生物試料でした。ここでは、タンパク質の構造や働きを解明するために、大腸菌やタンパク質を扱っています。温度管理が伴わなければ死滅してしまうものや、変質してしまうタンパク質など、実験に使用することができなくなるものが多くあります。例え同じタンパク質を新たに調製するとしても、継続的な比較実験はここで分断されたことになり、研究に影響を与えることは免れません。

復旧に向けて

4月になると、実験ホールには徐々に活気が戻ってきました。圧搾空気や冷却水系統の復旧が急ピッチで進められ、電力規制の緩和とともに、冷却水、排気ダクトなどが運転し始め、クレーンも使えるようになりました。重くて動かせなかった装置がクレーンによって元の位置に戻されると、実験ホールは一見して以前と変わらない様子に戻って行きました。

しかし、復旧にはまだまだ長い道のりが残されています。「巨大にして繊細」。KEKにある装置を例えるなら、こんな言葉でしょうか。PFでは数百メートル規模の加速器と、そこから数十メートル先にある実験装置までパイプが延びてつながっています。これらが機器によっては0.1mm以下の精度で配置される必要があります。地震によって大きく揺さぶられたことによって、これらの機器があちこちでずれてしまっています。一つ一つの機器を精緻に点検し、実験できる状態にするには膨大な時間を要します。また、故障したポンプや真空機器の交換、空気や冷却水の漏れの補修、故障した電磁弁の交換等多くの作業を並行して行う必要があります。

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図5

実験装置の損害状況を目視点検している様子

一方で、放射光を作りだすための加速器でも急ピッチで復旧作業が行われていました。電子ビームを入射する線形加速器では、PFリングに入射するために必要な3分の1部分を集中的に復旧させ、PFリングまで電子ビームを通せる状態にまでこぎ着けました。

実際に電子ビームを通すためには、安全面の確認も忘れてはなりません。人がいる状態で放射光が出ないようにする安全装置(インターロック)の動作試験や、加速器リングと実験ホールの境目から放射線漏れが起きないかなど、一つ一つ確認作業を積み重ねていきます。

ビーム調整試験開始

5月16日午前9時、加速器の立ち上げを開始しました。モニターで確認しながら電子ビームの位置を調整し、入射するためのおよそ400mの道のりを電子ビームが通り、PFリングまで到達したのは昼過ぎでした。次に1周187mあるPFリングでも同様に慎重に電子ビームを通していき、この日の夕方までにPFリングで蓄積電流を0.02mAまで周回させることに成功しました。

その後、調整によって25mA、50mA、100mAと真空度や高周波加速空洞の状態を確認しながら段階的に電流を積み上げていき、その日の深夜には200mAまで達しました。震災前の450mAと比べると低い値ですが、PF復旧に向けて大きく前進が見られた1日でした。そして翌17日には定格の450mA の電子ビームを達成することができ、ビームを実際に周回させることで、目視では分からなかった震災によるPFリングへの影響を詳細に把握することができました。

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図6

線形加速器からPFリングに初めて電子ビームを通している状況をモニターしているスタッフ。

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図7

実験装置にビームを運ぶビームラインにビームが通っていることを蛍光板を使って確認。

さらに、運転を継続することによって真空度も徐々に回復してきた5月23日、PFリングから実験ホールにある実験装置にまで放射光を導入することができました。放射光を発生し、無事導入出来たことは復旧に向けた明るいニュースとなりました。これによって、放射光を通しながら光学装置や実験装置の検査や調整が始まります。現状は被害を受けなかった機器をやりくりしての仮復旧状態ですが、PFではこの調整を踏まえ、秋の本格復旧に向けた作業を計画しています。


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