10編の技術報告が支える1編の論文 2002.2.7
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KEK技術賞受賞者に聞く
未知の世界に挑む大小様々の加速器、そこで作り出された世界を記録する測定器などKEKには独創的な実験装置がいくつもあります。その研究活動を支えてきたのは新技術の開発です。KEKで加速器開発に中心的役割を果たした研究者は「一編の論文の裏に、十編の技術報告がある」と語っています。前回は、今年度KEK技術賞を受けた技術開発を紹介しました。今回はその開発者たちに開発の思い出や努力した点を語ってもらいました。
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「中性子位置敏感型検出器、PSD2Kシステムの開発」で受賞の佐藤節夫さん
「これは、私が研究所に入所以来、21年間開発してきた中性子検出器システムの集大成と言えます。私が開発したシステムは、中性子が、いつ、どこに飛んできたかを検出するものです。前半の10年間は「いつ」を測定する、時間分析器の開発がメインでした。私達のパルス中性子実験では最も重要な測定器です。後半の10年間は「どこに」を測定する、位置分析器の開発がメインでした。中性子散乱実験では、位置の情報が重要です。この二つを備えたのが今回のシステムです。開発したPSD2KシステムはPSD(Position Sensitive Detector:位置敏感型検出器)以外は全て独自に開発しました。今回の開発で一番忘れられないのは、システムを設置してからのノイズ対策など狙い通りの成果が上がるかどうかがはっきりするまでの緊張して過ごした時間です。振り返れば長い年月が経ったことを思わされます。20年前は、当時としては大きな2Kバイトのメモリを初めて使えるようになり、感激していました。パルス中性子測定に欠かせない時間分析器はメモリの応用例のようなものだからです。今日では16Mバイトのメモリを当たり前のように使用していますが、まさに、世の中の進歩が20年の間に8千倍(M=1000K)以上あったのに驚かされます。私が研究所に入った年に、初めてパルス中性子が発生しました。私の開発は中性子科学研究施設の発展とともにあったと思います。この受賞を励みに、今後の開発をがんばって行きたいと思います。」
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「LHC用強収束 超伝導4極電磁石の開発」で受賞の東 憲男さん
「1989年から12年間にも及ぶ期間、超伝導電磁石の開発に携わってこられたことをうれしく思っています。最初の6年間は超伝導双極電磁石の開発プロジェクトに参加し、当初は4名で始めたこの開発が私には初めての超伝導電磁石の開発でした。当初から治工具の設計製作と超伝導電磁石・機械構造設計および試作を担当してきました。引き続き、米国で計画されたSSC(途中で計画が取止めになった計画)プロジェクトに参加し、加速器研究施設の方々と協力して、超伝導電磁石の開発に取り組んできました。残念ながら、SSCプロジェクトは計画自体が取止めになってしまいましたが、KEKで行われてきた開発は、長さ13mのマグネット冷却励磁試験まで行うことができ、最終的に開発目的を達成できました。参加した方々のチームワークによって達成できたと信じています。また、SSCプロジェクトでは、複数のメーカからも開発に協力・参加していただき、KEK内だけでは感じることができない貴重な経験は、評価していただいたメーカへの技術移転にも少なからず役立っていると思います。1995年からは、LHCの超伝導双極電磁石の基礎開発に参加してきました。この開発では、やはり治工具の設計製作と超伝導電磁石の機械構造設計を担当しました。磁石の試作はメーカで行われましたが、この間、メーカとの打合せにも参加できここでも貴重な経験ができました。1996年からは、今回、受賞した「LHC用強収束超伝導四極電磁石の開発」プロジェクトに参加してきました。今回も、一番苦労したのはきちんとした図面を作るまでの時間です。全てはまず図面が出来上がらないと始まらないわけですから、それまでの緊張は大変なものでした。こうして低温工学センターの方々と協力し1mモデルの開発を進めることができました。また蓄積された図面、技術を全てメーカの方々に伝えることができ、実機開発の成功に貢献することができました。工作センターの方々には負担を掛けているにもかかわらず、ご支援・ご協力を頂きました。多大な助言・協力を頂いた関係者の方々に感謝しています。」
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「BELLE検出器用構造体の開発」で受賞の山岡広さん
「私は入所後、トリスタン・トパーズグループに所属し、TOPAZ検出器鉄構造体の設計から完成まで先輩方の厳しい指導の元で携わらせて頂きました。はじめは、その大きさに驚き、戸惑ったこともありましたが、慣れていくにしたがって大型構造物の設計および組み立て時のおもしろさ・迫力を実感し、そして完成時の大きな喜びを味わいました。一方で検出器用超伝導電磁石のグループにも所属し、電磁気的な設計と開発までの過程を学ばせていただきました。トリスタン実験も後期に入っていた頃、BELLE検出器について検討している方から鉄構造について磁場解析をしてほしいという依頼を受けました。すでにこの頃は、幾つかの構造設計をおこなっており、大型構造物の設計に関しても非常に興味があったことから、2つ返事で依頼を受けました。これが、BELLE検出器の鉄構造体開発に関わったきっかけとなりました。BELLE鉄構造体は、鉄の構成が空気と鉄の多層構成になっており、磁場設計にはかなり良くない形状をしています。また、磁場均一度も求められることから設計においては相反する要求を満足させるのに非常に苦労しました。時には、測定器の方とも衝突したこともありましたが、最終的には双方が満足できる鉄形状を決めることができました。構造設計でも、測定器領域を削る量を最小限にして、どのように力に対して構造を安定させるかが重要になりました。そこで、構造体自身が持つ断面の大きさに着目し、溶接で組んだときのような一体構造に近づけることで構造を安定化させることができるということがわかり、これを方針としました。測定器組み立て中は、徐々に組み上がっていく様子をみては充実感を覚えましたが、逆に失敗できないという責任感も感じました。このため、予定通り完成した時は、TOPAZ時代に感じた以上に大きな喜びを味わうことができました。最後に、構造体開発のために大きな力になっていただいた方々に心より御礼を申し上げます。この方々の力がなければ構造体開発は非常に困難であったと思います。一緒に仕事ができて本当に良かったと思っています。測定器側の方々からの要望や、時には拒絶が構造体開発の大きなエネルギーとなりました。多くの方々が何を考えているのかをどうつかむか、情報交換をどう維持してゆくか、人間関係での苦労が一番大きかったかもしれません。どうもありがとうございました。」
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