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last update:05/08/25  

   image つくばから東海村へ     2005.8.25
 
        〜 次世代ニュートリノ振動実験にむけて 〜
 
 
  1999年に始まったK2K実験は、KEKの陽子加速器でニュートリノを人工的に作り出し、250km離れた岐阜県飛騨市神岡町のスーパーカミオカンデに打ち込んで、ニュートリノが飛行中に別の種類のニュートリノに変わる「ニュートリノ振動」という現象を調べる実験です(図1)。

この実験の成果と、2009年から東海村の大強度陽子加速器J-PARCを使って行われる次世代のニュートリノ振動実験(T2K実験)についてご紹介しましょう。

種類が変わるニュートリノ

ニュートリノはとても軽い粒子で、非常に精密な測定をもってしても質量が0と矛盾しない結果だけが得られてきたことから、長い間質量を持たないと考えられてきました。しかしスーパーカミオカンデ(図2)で宇宙から飛んで来る宇宙線が大気と反応することで生成するニュートリノ(大気ニュートリノ)を観測したところ、ニュートリノ振動という現象が確認され、ニュートリノが質量を持つことがわかってきました。

ニュートリノには電子型ニュートリノ、ミュー型ニュートリノ、タウ型ニュートリノの3種類があることがわかっています。スーパーカミオカンデにおける大気ニュートリノ観測では、電子型ニュートリノは予想通りの振舞をしていたのに反し、ミュー型ニュートリノは遠方からくるものの数が少ないことがわかりました。この現象は、ミュー型ニュートリノがタウ型ニュートリノに振動してしまい、検出器での観測にかかりにくくなってしまったと解釈するとうまく説明することができます。ここで、ミュー型ニュートリノとタウ型ニュートリノがわずかに異なる質量をもった二種類のニュートリノから成り立っているとします。

異なる質量を持ったニュートリノは異なる速さで走るため、長い距離を走る間に混じり具合は段々と変化し、始めはミュー型ニュートリノだったものが、タウ型ニュートリノに変わってしまうと考えるのです(図3)。

つくばから神岡へ

1999年に開始されたK2K実験は、スーパーカミオカンデが世界で初めて発見した大気ニュートリノの振動現象を、人工のニュートリノを用いて検証するための実験でした。K2K実験では加速器を用いて生成したニュートリノを用いることでニュートリノ源を確実なものとし、加速器と検出器間の距離が一定となることで、不定性を減らすことが出来たのです。

ニュートリノ生成源であるKEKから、ニュートリノの振動後の様子を観測するためのスーパーカミオカンデ検出器までの距離は250km。加速器を用いたニュートリノ振動観測実験として、これ程までに長い基線を用いるのも世界で初めての試みでした。ニュートリノを正確に神岡へ打ち込むためにKEKとスーパーカミオカンデの相対位置関係はGPSを用いて精密に測定され、ニュートリノ発射装置は設置されました。

K2K実験では、KEKの陽子加速器から2.2秒に1回とりだされる陽子を用いて約1兆個のニュートリノを作り、スーパーカミオカンデに向けて発射します。このニュートリノビームは100万分の1秒という極めて短いパルスになっています。生成されるニュートリノの98%以上がミュー型ニュートリノ、そこに若干の電子型ニュートリノや反ミュー型ニュートリノが含まれています。

生成されたニュートリノのうち、スーパーカミオカンデ検出器を通過するのは約100万個。しかしそのほとんどは検出器をすり抜けてしまうため、実際に検出器の中で反応を起こして観測されるのは、数日に1個程度です。

ミュー型とタウ型の振動を確認

K2K実験は2004年11月まで行われ、この間、ニュートリノ振動がない場合にはスーパーカミオカンデでは約156個のニュートリノ反応が観測されることが期待されました。しかし、実際に観測された反応は112個と期待値の約7割でした。また、実験データからニュートリノのエネルギーを再構成した結果と、ニュートリノ振動がないとした場合のエネルギー分布には違いがあることもわかりました。

この様な実験結果がニュートリノ振動がない場合に偶然得られる確率はたった0.003%。このようにして、K2K実験は大気ニュートリノ観測によって発見されたニュートリノ振動を人工のニュートリノを用いた実験で確認したのです。

以上の実験結果から、ミューニュートリノは少なくとも2種類の重さの異なるニュートリノが混ざりあって出来ていることがわかりました。しかし、残る一つの一番軽いニュートリノもその中に少し混ざっていてもおかしくありません。もしそうであれば、K2K実験でもニュートリノ生成時にはほとんど存在しなかった電子ニュートリノがスーパーカミオカンデで期待よりも多く観測される可能性があります。残念ながら、一番軽いニュートリノの混ざり具合は小さいようで、K2K実験ではこの混合があるという明らかな兆候を見出すことは出来ませんでした、今後より高統計の実験を行うことで、この混ざり具合を確実に調べることができるということを実験的に立証しました。

強度を100倍にして電子型への振動を探る

K2K実験は予定されていたプログラムを終了し、実験の成果は世界的に高い評価を受け、次世代の実験を行うことが既に認められています。それは現在東海村に建設中のJ-PARC加速器を用いたT2K実験で、その準備が着々と進んでいます。T2K実験は、2009年から稼働を予定しており、K2K実験の約100倍の強さのニュートリノビームを生成することができます。これによりK2K実験ではスーパーカミオカンデで2日に1つ程度のニュートリノ反応しか検出されなかったものが、1日で数十の反応を観測できるようになり、これまでより1桁以上精度の高い実験を行うことが可能となります。特に、これまで測定されていないミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへの振動を世界で初めて観測されることなどが期待されています。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→K2Kつくば−神岡間長基線ニュートリノ振動実験のwebページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→神岡宇宙素粒子研究施設のwebページ
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/index_j.html
→キッズサイエンティスト:クローズアップKEKのwebページ
  http://www.kek.jp/kids/closeup/k2k/index.html

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[図1]
KEKの陽子加速器により人工的に作られたミュー型ニュートリノビームを、250km離れたスーパーカミオカンデで検出する。
拡大図(31KB)
 
 
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[図2]image東京大学宇宙線研究所
岐阜県飛騨市神岡町にある東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデ検出器。
拡大図(52KB)
 
 
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[図3]
ニュートリノには決まった物質としか相互作用しない状態である電子型(ν)、ミュー型(νμ)、タウ型(ντ)の三種類がある。質量がわずかに異なる別の三種類の質量の状態ν1、ν2、ν3があると、理論上は電子型、ミュー型、タウ型との世代間で混合が起き、これがニュートリノ振動を引き起こすと考えられる。
拡大図(86KB)
 
 
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[図4]
質量がわずかに異なる三種類のニュートリノν1、ν2、ν3は、それぞれ異なる速度で飛行する。これを飛行経路のある場所で観測すると、もともと作られたミュー型とは異なるタイプのニュートリノにある確率で変わってしまう。この現象がニュートリノ振動となる。振動が起きる割合はν1、ν2、ν3の質量の二乗の差と飛行距離に比例し、ニュートリノが持つエネルギーに反比例する。K2K実験ではこのうちνとνの2種類が関与してタウニュートリノに変化する現象を観測している。
拡大図(29KB)
 
 
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[図5]
(左)K2K実験グループのミュー型ニュートリノ欠損の解析によって得られた、ニュートリノ質量の二乗差とニュートリノの混合度を示すグラフ。赤、緑、青はそれぞれ信頼度68%、90%、99%を示す。 (右)スーパーカミオカンデで測定されたミュー型ニュートリノのエネルギー分布。白丸は実際の測定値。青線と赤線はそれぞれニュートリノ振動がある場合とない場合の予測値。
拡大図(50KB)
 
 
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[図6]
K2K実験グループの電子型ニュートリノ探索によって得られた、ニュートリノ質量の二乗差とニュートリノの混合度を示すグラフ。緑、水色の領域はそれぞれ信頼度99%、90%で棄却された。また、紫の破線より右上の領域は原子炉による実験(CHOOZ実験)により90%の信頼度で棄却された領域を示す。
拡大図(121KB)
 
 
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[図7]
T2K実験は2009年から開始が予定されている。東海から神岡までの距離は295km。新たに建設されるJ-PARC陽子加速器を用いることで、これまでより約二桁強いニュートリノビームを生成することが可能となり、より精度の高い実験を行うことができる。
拡大図(97KB)
 
 
 
 
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