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   image ニュートリノの作り方    2003.3.6
 
〜 第3回KEK技術賞報告 〜
 
KEKでは加速器を使って色々な素粒子を生み出して実験をしています。その一つがニュートリノを作り出し、岐阜県神岡にあるニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」に発射しているK2K実験です。これまでにもお話しした様にニュートリノは物質とほとんど反応しないためとても検出しにくい素粒子です。スーパーカミオカンデでの検出数を増やすには、KEKから送り出すニュートリノを出来るだけ神岡への方向をそろえ多量に生成しビームとして送り出すことが必要です。このため実験装置には様々な技術的工夫がされています。今日は第3回KEK技術賞を受賞した「ニュートリノビームライン用電磁ホーンシステム」を取り上げその一端を紹介しましょう。

ニュートリノ生成の道筋

これまでにも紹介してきましたがKEKで作られるニュートリノは120億電子ボルト陽子加速器から発生する陽子ビームを標的に衝突させ、最初にパイ中間子を発生させます。このパイ中間子が崩壊して最後にニュートリノが発生するのです。

ニュートリノは電気(電荷)を持っていませんから、電磁石で進路を曲げたり、ビームの強度を増したり(収束)は出来ません。そのため、このニュートリノ生成の道筋では加速器から取り出した陽子を曲げて神岡へ向かう直線コースに置かれた標的に衝突させ、そこで生まれた電荷を持っているパイ中間子を効率よく収束させて最終的に生まれるニュートリノビームの生成量を増しています。この直線部分に配置されているのが電磁ホーンシステムと呼ばれる装置です。K2K実験施設の空から見た全景では陽子加速器から取り出された陽子ビームが曲げられる道筋と電磁ホーンシステムが地下に置かれている神岡へ向かう直線構造をした土手をたどることが出来るでしょう。(図1、2)

電磁ホーンの技術開発

陽子ビームが打ち込まれるアルミニウムでできた標的は電磁ホーンの内部に置かれています。電磁ホーンはパイ中間子を生成し、そのパイ中間子を効率よく集め、スーパーカミオカンデの方向へと収束させる装置です。この電磁ホーンは、スーパーカミオカンデに届くニュートリノを約14倍も増やす働きをしています。

電磁ホーンの構造(図3)は、同心二重構造の電気を流す円筒から成り立っています。電流が流れるとこの円筒に巻きつく様にドーナツ状の磁場が発生します。ドーナツ状の磁場は図の様に二重の円筒の間に発生しますが、パイ中間子の発生に合わせて磁場を作るには、電磁ホーンの標的とその中心軸に2秒周期で25万アンペアのパルス状の大電流が必要です。このような電磁パルスは、電磁ホーン中心軸や標的の固定面に約3トンもの衝撃力が発生します。また電磁ホーン内の標的は陽子とパイ中間子の衝突により非常に強く放射化しメンテナンスも困難です。

勿論、K2K実験では岐阜県神岡の検出器へ向けてニュートリノを送りつづける必要があります。それを実現するため、電磁ホーン部材の耐久性、信頼性を上げ、ビーム通過部分の構造材は出来る限り薄くしながらも他の部分の部材を厚くして強度を増し、また細い棒状の標的が大電流により発熱や耐久性の劣化を起こさないよう純水を使った電磁ホーンと一体の閉じた冷却システムなどの技術開発が行なわれ目標を達成しました。


パルス電源の技術開発

電磁ホーンに25万アンペアの大電流を均一に流すためにパルス変圧器が使用され、その電流は電磁ホーンへ4カ所から供給されます。この4つの電流のバランスを均一に保つことは電磁ホーンの運転に大変重要なことです。パルス電流を発生する電源部分(図4)では、パルス電流の発生までには複雑な動作手順があり、さらにその動作は、加速器からの陽子ビームの取り出しに正確に同期する必要があります。その制御にはマイクロコンピュータを使用しています。そのことによりパルスのパワーを瞬間的(1000分の2秒)に送り出すコンデンサの充電は効率良く決められた時間で完了します。またパルス電流を発生するサイリスタスイッチの動作も安全に、安定して正確に行われます。パルス電源の運転はこのマイクロコンピュータに簡単な命令を出すだけで行えます。パルス電源は特殊な装置ですが内部に特殊な部品を使用していません。故障の場合でも短時間で部品の交換ができ運転の再開ができるように工夫されています。

こうしたニュートリノを安定に生成できる技術開発がなければ数年にもわたるニュートリノ実験は不可能です。今年KEK技術賞を受賞した「ニュートリノビームライン用電磁ホーンシステム」を紹介しました。技術の細部を知りたい方のために受賞者の2人の名前を上げておきます。電磁ホーンでKEKビームチャンネルグループの山野井豊さん、電源パルスでKEKビームチャンネルグループの鈴木善尋さんが受賞しました。

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[図1]
ニュートリノビームラインの全景図
拡大図(54KB)
 
 
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[図2]
ニュートリノビームラインのターゲットステーション内に設置されている電磁ホーン。手前が標的を備えた第1電磁ホーン、奥が第2電磁ホーン。
拡大図(36KB)
 
 
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[図3]
電磁ホーン構造図
拡大図(19KB)
 
 
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[図4]
電磁ホーン用パルス電源
マイクロコンピュータの働きによりパルス電源は加速器に同期してコンデンサの充電とパルス電流の発生を2秒の周期で正確に行う。
拡大図(35KB)
 
 
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[図5]
鈴木善尋(すずきよしひろ)氏と山野井豊(やまのいゆたか)氏
拡大図(41KB)
 
 
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