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last update:07/09/21  

   image 中性子を遮る    2007.9.20
 
        〜 高性能な遮蔽コンクリートの開発 〜
 
 
  放射線の利用は、原子力分野だけでなく、医療分野や材料ナノ解析分野に代表されるように多様化していています。これらを実現する施設で放射線を効率よく遮るためには、コンクリートや鉄、鉛などの物質がよく使われます。建物を設計する時などになるべく少ない材料で放射線を効果的に遮ることができれば、全体のコストを下げることができます。KEK加速器研究施設の川合將義氏、ハザマ技術研究所の奥野功一氏、山田人司氏らは、コンクリートとしての力学的特性や施工性を持ち、例えばエネルギーが50万電子ボルト(500keV)の中性子に対しては、従来コンクリートの半分程度の厚さで同レベルの中性子遮蔽効果を実現できるコンクリートを共同で開発しました。今回は、この新しい高性能中性子遮蔽コンクリートについてご紹介しましょう。

遮るのが難しい中性子

放射線には中性子線の他にもアルファ線、ベータ線、ガンマ線など、いろいろな種類があります。これらはそれぞれ特徴があって、物質とどれだけ反応しやすいかによって、遮るための物質の種類や量が変わってきます。

中性子線はその名の通り電気的に中性なので、物質中ではもっぱら原子核としか反応しません。その中でも中性子と原子核がそのまま弾き飛ばされるような反応(弾性散乱)では、中性子は物質中の原子核で跳ね返されますが、速度はあまり変わりません(図1)。この結果、中性子の勢いはなかなか衰えず、「遮蔽」が難しいのです。一方、中性子と重さがほぼ同じ水素の原子核(陽子)とぶつかると、ビリヤード競技で玉を衝突させる時と同じように、陽子が勢いよく弾き飛ばされ、代わりに中性子の速度が非常に落ちます。つまり水素を多く含んだ物質では、中性子の速度を効率よく減速することができます。更に、減速した中性子を効率よく捕獲することで、中性子は遮蔽されます。この中性子を捕獲する元素には、ホウ素、カドミウム、リチウム等が知られています。

今回、川合氏らのグループは、普通コンクリートに比べて水分が多く、また、ホウ素を含む素材を開発に用いました。

素材からコンクリートへ

素材は全て、コスト的に有利な天然の素材が使用されました。

コンクリートは、粗骨材と呼ばれる砂利と、細骨材と呼ばれる砂、セメント、水、混和剤を混ぜることにより作られます。骨材にホウ素含有岩石のみを用いたコンクリートの研究が1950年代になされていました。しかし、このコンクリートは非常に硬化し難く、硬化しても図2に示すように力学的特性が悪いコンクリートしかできません。

そこで、川合氏らは、粗骨材に水素原子を多く含む特殊骨材を、細骨材にホウ素を含んだ天然砂と特殊骨材を砂に砕いたものを使用し、セメントは普通セメントを用いることとしました。特殊骨材を用いたことによって、ホウ素による中性子吸収効果を高めることができ、ホウ素を含んだ天然砂の量を減らすことが出来ました。さらに、遮蔽シミュレーション解析に基づき、ホウ素を含んだ天然砂や特殊骨材等の適正な配合方法が開発されました。

中性子遮蔽性能試験

開発した中性子遮蔽コンクリートと普通コンクリートの遮蔽性能は、ハザマ技術研究所にある中性子遮蔽実験室で、カリホルニウム252(Cf252)という中性子源を用いて比較されました。図3は中性子遮蔽性能試験風景を、図4は試験結果を遮蔽シミュレーション結果を示しています。これらの結果より、例えば中性子被ばく線量を1/100に落としたい場合、普通コンクリートでは63cm必要であるところを、開発した中性子遮蔽コンクリートを用いると38cmで済むことが判ります。つまり倍率にすると、普通コンクリートに比べ1.7倍の遮蔽性能を持つことが実験で確認されたのです。

コンクリートの基本特性

次に、基本特性である圧縮強度、乾燥収縮、促進中性化の深さが調べられました。その結果、中性子遮蔽コンクリートは、普通コンクリートに比べて良い性能をもっていることが分かりました。

図5は、コンクリートを打設してからの経過とともに圧縮強度が増している様子を示しています。中性子遮蔽コンクリートは、90日経過した時点で普通コンクリートと同等の圧縮強度を持っていることが分かります。また、コンクリートは固まるにつれて縮むことが知られており、その様子を示したのが図6です。中性子遮蔽コンクリートは普通コンクリートより収縮量が少なく性能が良いことが判ります。コンクリートが大気中の二酸化炭素に長期間曝されると、コンクリート中のアルカリ性の水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応し、中性の炭酸カルシウムになります。この結果コンクリート内部のアルカリ性が失われ鉄筋に錆が発生し、その膨張によりひび割れや剥離の原因となります。表1の試験結果を見ると、水セメント比50%、60%の場合双方とも中性子遮蔽コンクリートの方が中性化が起こる深さが小さく、性能が良いことが判ります。

中性子遮蔽コンクリートの適用解析例

最近は、中性子を用いたがん治療法(中性子捕捉療法)の研究が進んでおり、年々治療数も増加しています。川合氏らは、加速器中性子源施設の遮蔽にコンクリートを適用した場合の性能についても調べました。7Li(p, n) 反応(質量数7のリチウムが陽子を吸収して中性子を放出する反応)による生成中性子の平均エネルギーである50万電子ボルトの場合と、中性子捕捉療法で望ましいとされる中性子エネルギーの上限である1万電子ボルト(10keV)の場合が遮蔽解析されました。その結果、普通コンクリートに比べて、中性子遮蔽コンクリートは、同じ減衰を得るのに 50万電子ボルト中性子では半分の厚さで、また、1万電子ボルト中性子に対しては3分の1の厚さで済む事がわかりました。

今後への期待

今回新たに開発した中性子遮蔽コンクリートは、一連の試験や解析の結果、熱中性子〜中高エネルギーの遮蔽に有効であり、遮蔽のコンパクト化に大いに寄与できると考えられます。なお、製造コストは、プレキャスト板製品(工場製品)で普通コンクリートの約2割増ですが、コンパクト化による室内空間の拡大や建物重量の軽量化に伴う基礎工事費の低減が期待できるものと考えています。

今後、J-PARCを初め、中性子発生を伴う各種の加速器施設、原子力施設の遮蔽をコンパクトにすることが期待されます。なお、本技術は現在、特許を共同出願中です。


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→中性子科学研究施設のwebページ
  http://neutron-www.kek.jp/
→ハザマ技術研究所のwebページ
  http://www.hazama.co.jp/jp/giken/

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[図1]
a) 中性子が自分よりも重い原子核と衝突した場合、原子核はあまり動かず、中性子は勢いよく弾き飛ばされる。
b) 中性子と重さが近い水素の原子核(陽子)にぶつかると、陽子が弾き飛ばされ、中性子は遅くなる。
 
 
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[図2]
1950年代当時の製法で再現したコンクリート。
拡大図(84KB)
 
 
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[図3]
中性子遮蔽性能試験風景。
拡大図(17KB)
 
 
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[図4]
Cf252中性子源に体する中性子遮蔽性能試験結果。
拡大図(43KB)
 
 
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[図5]
圧縮強度試験結果。
拡大図(17KB)
 
 
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[図6]
乾燥収縮試験結果。
拡大図(19KB)
 
 
  水セメント比
50%
水セメント比
60%
普通
コンクリート
3.0 4.5
中性子遮蔽
コンクリート
2.0 3.5
[表1]
促進中性化深さ試験結果。(単位:mm)
 
 
 
 
 
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