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パルス中性子研究はJ-PARCへ! 2008.4.3 |
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〜 KENSの歴史と国際評価委員会 〜 |
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中性子は物質を透過する力が強く、水分子の観察に適しているなどの特徴を有していて、高温超伝導体の構造を解き明かしたり、水溶液中のタンパク質の構造から難病の謎にせまったりと、様々な研究に用いられています。 ストロボの強い光を使って写真を撮るように、加速器を使った強い中性子のパルスを発生させて研究に用いる中性子科学研究施設(KENS)がKEKの12GeV陽子加速器(PS)のブースターを利用した施設の1つとして稼働したのは、今から約30年前の1980年でした。 以降、数々の研究が行われてきましたが、PSの運転が2006年3月に停止されるとともに、世界の中性子科学をリードしてきたKENSも、その26年間にわたる活動を停止しました。KENSでこれまで培われた研究の土壌をもとに、2008年度から稼働予定のJ-PARC物質・生命科学実験施設(MLF:図1)では、世界最大のパルス中性子源を、KEKとJAEAが共同で建設しています。また、世界最高性能の中性子実験装置を開発・設置し、引き続き、中性子科学の分野で世界をリードしていきます。 中性子科学研究施設(KENS)とは KEKの物質構造科学研究所は、放射光科学研究施設、中性子科学研究施設(KENS)、ミュオン科学研究施設を有し、放射光、中性子、ミュオンという「ものを見る」プローブを用いて、物質や生命に関する研究を幅広く推進することを目的としています。 KENSは、PSのブースターシンクロトロンが作り出す陽子ビームを利用し、日本で唯一のパルス中性子を発生させる施設として、世界的にも草分け的存在でした。1980年当時、加速器からの中性子を利用した施設は世界でも東北大学の電子線ライナックや米国アルゴンヌ国立研究所にしかなく、共同利用を目的として建設されたパルス中性子源利用施設としては世界初の施設で、固体物性研究を始めとした中性子線利用を推進してきました。(図2、図3) 世界が高温超伝導体の発見に沸いた1986年には、当時の所長であった西川哲治氏の英断によって加速器の特別運転を行い、世界に先駆けて高温超伝導体の構造を解明することに成功しました。 また、パルス中性子は、原子炉で発生させる中性子に比べ高エネルギー領域の中性子強度が大きく、水素などの軽元素の運動を調べたり、広い運動量空間における測定ができることで原子同士の相関を精度良く明らかにしたりすることが可能です。この特徴を利用し、液体やアモルファス(非晶質)の局所構造やダイナミクスの研究に利用されてきました。 KENSの大きな特徴は、「大学共同利用」をより効果的に促進するための体制にありました。KEKは大学共同利用機関として、個々の大学では建設・運営が難しい大型研究設備、大学間で共有することが有効な情報、加速器科学分野のネットワークの中心ノードとしての組織を集約し、全国の大学の研究者による共用を目的にしています。その中でもKENSは、国内外の大学、研究所、企業の施設利用や、共同研究を推進することはもちろん、実験装置の開発など施設運営の面でも全国の大学の研究者と密な連携を図り、よりよい実験環境の整備と成果の創出を実現してきました。 KEK物質構造科学研究所副所長で中性子科学研究系研究主幹の池田進氏は、「大学の研究者との緊密な協力関係がKENSの大きな特色です。KENSが我が国の中性子科学研究のセンターとしての役割を果たしてきた背景には、大学の研究者が積極的かつ主体的にKENSに参画する形態を確立したことがあります。舞台はJ-PARCに移りますが、このKENSの文化を継続していくことが、J-PARCでの研究成果を挙げる上で重要な点です。」と述べます。 このKENSの26年に及ぶ活動を総括し、新しい時代の幕開けとなるJ-PARCにおける中性子利用研究への提言を行うための国際評価委員会が1月29〜31日に開催されました。 国際委員会による評価 委員会は、海外から3名、国内から4名の中性子利用の研究分野を代表する委員で組織されました。初日には、J-PARCの見学が行われ、今年5月に3GeVシンクロトロンからの陽子ビームが入射される予定のMFL施設では、間近に中性子源のターゲットを見ることができるのはこれが最後のチャンスということもあり、委員の方々はメモを片手に熱心に説明を聞いていました(図4)。委員はまた、中性子分光器の建設が進む、ターゲットから放射状に伸びる各ビームラインを熱心に見学されました。 翌日の委員会では、KENSスタッフによる活動成果報告をもとに委員による質疑がなされ、これまでのKENSの研究や教育活動が評価され、また、KENSのこれまでの歴史と実績が総括されました(図5)。委員会の場では、KENSのこれまでの活動に対して次のような意見が出されました。 「KENSはこれまで世界的にパルス中性子利用技術とこれを用いた学術研究をリードしてきた。また、日本において独創的な大学共同利用の推進を行い、国内外の研究者の受け入れや共同研究の推進は大変評価できる。J-PARCという次世代施設建設の一翼を担っているのは大変激励されるべきであるが、プロジェクトを成功に導くためには、十分な予算とマンパワーが確保されなければならない。」 J-PARCへの期待 KENS発足以来、中性子の学術利用が世界的に認知され、これまでの研究用原子炉に加えパルス中性子時代の到来を迎えています。 2007-2009年には SNS(米国)、J-PARC(日本)、ISIS(TS-II)(英国)の大型パルス中性子施設が相次いでスタートしますし、ヨーロッパにおけるESS計画、中国によるCSNS計画など、今後も世界各地でパルス中性子源の建設が計画されています。この中性子国際競争時代に日本のパルス中性子もKENSからJ-PARCへの脱皮を成功させ、我が国が中性子科学の分野で引き続き世界をリードしてゆくことが期待されます。
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